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2020/10/06 1:21:51
初版 2020/08/15

新型コロナのPCR検査に関する錯覚

日本での新型コロナに対する感染が保健所を主力として開始された時期から現在(2020/8/11)に至るまで、テレビ番組が人々の不安や政府に対する不信を煽り続けています。

前者の不安や不満は実際に症状が在ってのものなので錯覚とは言えません。
しかし、後者の不満は妄想の産物だと私は思うので、これについて以下論じます。

新型コロナのPCR検査に関する妄想の多くは純粋な妄想である

ランダムPCR検査に関する妄想は論駁しづらい

ランダムPCR検査とは、感染者をなるべく多く見つけて隔離するために特定の範囲(国全体、特定の自治体の住民、特定の会社の従業員など)でランダムにPCR検査を行う方策のことである。
感染者の濃厚接触者を追跡して発見し隔離する追跡型PCR検査とは異なる。
(↑ 2020/08/16, 18 修正)


特定の集団全員の検査や、特定の地域全員の検査も、検査率が大きいランダムPCR検査だと言えないこともない。

このランダムPCR検査については次のような妄想を主張する学者や政治家や評論家が後を絶たない。

無症状者も含めて大量にPCR検査を行って陽性者を隔離する方法なら、多少、擬陽性や偽陰性があっても実効再生産数を下げられるので、人の移動制限や店舗の営業制限などの経済的打撃の大きい対策を減らすことができる。

私はこのような考え方を読んだとき、次のように感じて驚いた。
その一方、緊急事態宣言などによるテレワークや営業自粛の経済的打撃が大きいことを考えると、次のような考えもわいて来た。
そして結局のところ、以下の章で述べる様々な理由から、上記の妄想は次のように書き直すべきだと思っている。 (← 2020/08/16 修正)

ランダムにPCR検査を行って陽性者を隔離する対策の費用対効果を判断するのは難しいが、重症者や死者が世界の中で圧倒的に少ない東アジア (その中でも特に中国より東に位置する諸国) に属している日本では、ランダムPCR検査は採用しない方がよさそうである。

ランダムPCR検査推進論が妄想くさい理由

ランダムPCR検査の有効性に影響する要因が多岐にわたる

下記のようにランダムPCR検査の有効性に影響する要因が多岐にわたっているので、推進論者が言うような単純明瞭な話ではない。 (← 2020/08/16 追加)

ランダムPCR検査が実効再生産数を下げる度合を左右する要因
ランダムPCR検査のコストを左右する要因
ランダムPCR検査のベネフィットを左右する要因
医療崩壊に関する要因
代替策に関する要因
他疾患に関する要因
個人情報などの安全に関する要因

ランダムPCR検査推奨論が論理的でないこと

現行のPCR検査件数に対して不安や不信を煽るイメージ操作

ランダムPCR検査論を主張したり推進したりする者の怪しさ

(↑ 2020/08/18 タイトル修正)

ダブルスタンダードである

2020年8月6日ごろのデータ

2020年8月6日ごろのデータによるとPCR検査件数と死者数の間に一貫した関係がないことから、PCR検査だけが新型コロナ感染症対策の要点でないことがわかる。


(Worldmeter というサイトの "Coronavirus Update (Live)" というページを 2020/08/06 ごろ参照して作成) (← 2020/09/06 追加)

2020年9月6日ごろのデータ

(2020/09/06 この段落を追加)

Our World in Data という Webサイトの "Daily confirmed COVID-19 deaths per million people" という ページで人口当たりの日次死亡者数グラフを見ると、スウェーデンのようなランダムPCR検査と縁がなさそうな国も、英国やフランスなど人口当たりPCR検査数が日本より格段に多い国も、同様な収束傾向を示している。
このことはPCR検査よりも集団免疫の方が流行収束の主要な要因であることを示唆している。

世界的権威の発言が参考になる

ドイツの大量PCR検査を牽引したドロステン博士が、第2波を乗り切るにはクラスターに的を絞った検査へのシフトが必要で、そのために日本のやり方が参考になると述べている。 (← 2020/08/18 修正)

参考文献: Christian Drosten 博士の 2020/8/5 ごろの意見

ランダムPCR検査に関する妄想の元になっている数学的錯覚

(2020/09/06 標題を修正)

時間軸の無視

ランダムPCR検査の検査率を高くすれば、極端な場合全国民一斉同時に検査すれば、その後しばらくは感染がピタッととまるかも知れない。しかし実際は何人かずつに分けて(例えば1日2万人ずつに分けて)検査しなければならない。そうすると、次のような要因で、実効再生産数が期待ほど下がらないと思われる。 ランダムPCR推進者の錯覚を生み出す元の中に、このような「時間の効果」の無視が含まれているのかも知れない。

基準率錯誤より有害な「無症状者」という言葉のあいまいさ

(2020/08/18 この章を追加)

ランダムPCR検査の有効性と確率の錯覚の関係でよく議論されるのが事前確率を特異度の関係である。つまり、感染している事前確率が小さくてPCR検査の特異度が高い場合、実際の偽陰性の割合よりも非常に小さく偽陰性の割合を見積もってしまうという錯覚現象(基準率錯誤)である。

私はこれによくにた錯覚現象があるかもしれないと思っている。つまり、「無症状者」という言葉の意味は本来は「無症状の非感染者+無症状の感染者」という意味であるが、非感染者のことが頭から抜けてしまい、無症状者に対するPCR検査の有効性を過大に評価してしまう錯覚現象があるのではないか、と私は思っている。

比較対象の間違い

(2020/09/06 この章を追加)

ランダムPCR検査を求める声、あるいはそれを煽るテレビ番組は、PCR件数の多い外国の事例を根拠として上げている。特にニューヨーク州や市の事例が取り上げられることが多い。
しかし、本来、日本の新型コロナと比較すべきは日本の他の感染症であって、他の国の新型コロナではない。日本の人口当たり死者数は欧米より 2桁少ないが、他の東アジア諸国と比べると同程度だということが、それを示唆している。
それでは何と比較したらよいのか? 考えられるのは、周辺諸国の新型コロナの流行具合との比較と、自国のインフルエンザの流行具合との比較である。

周辺諸国との比較

Our World in Data という Webサイトの "Daily confirmed COVID-19 deaths per million people" という ページで日次の人口当たり死者数のグラフを見ることができるので、表示する国の組み合わせを変えてみたら次のようなグループのそれぞれに地域性があるように見えた。(2020/09/06 実施)
ここでは 「地域性がある」 という言葉を 「同一地域内の国同士は似通っていて隣接する他の地域と違いがある」 という意味で使っている。

グループ 累積死者数
百万人当
日次人口当たり死者数の特徴
フランス周辺 英国 611 イタリアは3月から先行するも、4月から周辺国と同歩調
フランス 471
イタリア 588
オランダ 364
スイス スイス 232 フランスとドイツの中間
ドイツ周辺 ドイツ 112 欧州の中では少ない
デンマーク 108
オーストリア 82
オーストラリア周辺 フィリピン 34 5月にいったん収束も7月から増加に転じる
オーストラリア 29
中国周辺
東アジア
日本 11 韓国とマレーシアは5月に収束、日本は6月に収束するも8月からやや増加(緊急事態宣言解除による緩みか)
韓国 6
マレーシア 4
台湾 台湾 0.3 厳重な水際対策?
北欧 ノルウェー 49 欧州の中で特に少ない
フィンランド 61
スウェーデン スウェーデン 577 英国やフランスに近い
中南米 ブラジル 590 死者数多い
5月から下げ止まり
メキシコ 518
チリ 600
北米 米国 580 当初は両国とも英国を追随
7月ごろから米国が下げ止まり
カナダ 242
イラン イラン 262 中華人民共和国の影響か?
中近東 イラク 182 イスラエルは3月のピーク後、7月から再流行
イラクは6月から高水準維持
サウジアラビア 115
イスラエル 108
人口百万人当たりの累積死者数はWorldmeter というサイトの "Coronavirus Update (Live)" というページで調べた。

この表を見ると、ニューヨークの過去の動向が日本の将来をまったく暗示していないことがわかる。

インフルエンザとの比較

私が調べた限りでは、次のようである。 どうやら新型コロナの流行具合を予測する上でインフルエンザの知識は役に立たなそうである。

ランダムPCR検査に関する妄想の元になっているその他の錯覚

(2020/08/30、この章を追加。2020/09/06 標題を修正)

恐怖による人心操作

「PCR検査を誰でも受けられるようにしないと大変なことになる」という妄想を広めた責任はテレビ、新聞、雑誌などのマスコミにある。有名なテレビ番組の構成を見ると、次のような発言で構成されていることがわかる。 テレビ局ののこのような番組構成は、霊感商法と心理学的な共通性がありそうである。

陰謀説による人心操作

日本のPCR検査の少なさは異常だという妄想を広めたテレビ局などマスコミに次のような発言が多い。 このような発言は、テレビ局、雑誌、新聞が日本社会や政権を否定する勢力の影響を受けていることの表れかも知れない。

欧米崇拝

(2020/09/06 この章を追加)

日本人の心の底にある「欧米崇拝」の気持ちが、日本と比べて死者数が格段に多いニューヨークのPCR検査事情と日本のPCR検査事情を比較させる原動力になっているかも知れない。そのような気持ちが「欧米でランダムPCR検査を進めているのはきっと効果があるからに違いない」という妄想を引き出したのだろう。

実際には欧米でのランダムPCR検査に余り効果がないことを示唆するデータがある。

これらの妄想から逃れられない呪縛

高橋泰教授「データに合う新型コロナ観を持て」が参考になります。

PCR検査で新型コロナを封じ込めた国はあるか

(2020/08/16 この章を追加)

PCR検査推進者の中に次のような理由付けを行っている人がいる。

世界には大量のPCR検査により新型コロナの封じ込めに成功した国がある。日本でも、「誰でも、いつでも、何度でも、無料でPCR検査が受けられる体制」 にすれば新型コロナを封じ込むことができる。

しかし「封じ込め」という言葉は下記のようにいかがわしいものである。

ランダムPCR検査に関するその他の疑念

(2020/08/18 「PCR検査で新型コロナを封じ込めた国はあるか」という章の後半部分をここに分離)

「誰でも、いつでも、何度でも、無料でPCR検査が受けられる体制」という施策そのものは、一見、悪くないように思える。「うつされたかも」と身に覚えのある人や、老親と同居している人などは、「PCR検査して陰性なら安心できるし、陽性なら自分を隔離、または老親を逆隔離すればよい」と思っているだろうからである。身に覚えのある人も、「誰でも受けていいんだからどこに行ったか言わなくて済みそう」、などと思ったりもするだろう。しかし、重症化リスクなどで区別しないで一括して「無料」というのは行きすぎのような気がする。

PCR検査会社は一般入札されるのか?、セキュリティは大丈夫か?、などの点も気がかりである。

ある自治体が独自に進めてしまって、人の往来のある他自治体と共同歩調をとらないのでは意味がないように思う。

参考文献

用語解説



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