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前者の不安や不満は実際に症状が在ってのものなので錯覚とは言えません。
しかし、後者の不満は妄想の産物だと私は思うので、これについて以下論じます。
感染者の濃厚接触者を追跡して発見し隔離する追跡型PCR検査とは異なる。
(↑ 2020/08/16, 18 修正)
特定の集団全員の検査や、特定の地域全員の検査も、検査率が大きいランダムPCR検査だと言えないこともない。
このランダムPCR検査については次のような妄想を主張する学者や政治家や評論家が後を絶たない。
私はこのような考え方を読んだとき、次のように感じて驚いた。
その一方、緊急事態宣言などによるテレワークや営業自粛の経済的打撃が大きいことを考えると、次のような考えもわいて来た。
そして結局のところ、以下の章で述べる様々な理由から、上記の妄想は次のように書き直すべきだと思っている。 (← 2020/08/16 修正)
ランダムPCR検査が実効再生産数を下げる度合を左右する要因
ランダムPCR検査のコストを左右する要因
ランダムPCR検査のベネフィットを左右する要因
医療崩壊に関する要因
代替策に関する要因
他疾患に関する要因
個人情報などの安全に関する要因
(Worldmeter というサイトの "Coronavirus Update (Live)" というページを 2020/08/06 ごろ参照して作成) (← 2020/09/06 追加)
Our World in Data という Webサイトの "Daily confirmed COVID-19 deaths per million people" という ページで人口当たりの日次死亡者数グラフを見ると、スウェーデンのようなランダムPCR検査と縁がなさそうな国も、英国やフランスなど人口当たりPCR検査数が日本より格段に多い国も、同様な収束傾向を示している。
このことはPCR検査よりも集団免疫の方が流行収束の主要な要因であることを示唆している。
参考文献: Christian Drosten 博士の 2020/8/5 ごろの意見
ランダムPCR検査の有効性と確率の錯覚の関係でよく議論されるのが事前確率を特異度の関係である。つまり、感染している事前確率が小さくてPCR検査の特異度が高い場合、実際の偽陰性の割合よりも非常に小さく偽陰性の割合を見積もってしまうという錯覚現象(基準率錯誤)である。
私はこれによくにた錯覚現象があるかもしれないと思っている。つまり、「無症状者」という言葉の意味は本来は「無症状の非感染者+無症状の感染者」という意味であるが、非感染者のことが頭から抜けてしまい、無症状者に対するPCR検査の有効性を過大に評価してしまう錯覚現象があるのではないか、と私は思っている。
ランダムPCR検査を求める声、あるいはそれを煽るテレビ番組は、PCR件数の多い外国の事例を根拠として上げている。特にニューヨーク州や市の事例が取り上げられることが多い。
しかし、本来、日本の新型コロナと比較すべきは日本の他の感染症であって、他の国の新型コロナではない。日本の人口当たり死者数は欧米より 2桁少ないが、他の東アジア諸国と比べると同程度だということが、それを示唆している。
それでは何と比較したらよいのか? 考えられるのは、周辺諸国の新型コロナの流行具合との比較と、自国のインフルエンザの流行具合との比較である。
ここでは 「地域性がある」 という言葉を 「同一地域内の国同士は似通っていて隣接する他の地域と違いがある」 という意味で使っている。
人口百万人当たりの累積死者数はWorldmeter というサイトの "Coronavirus Update (Live)" というページで調べた。
この表を見ると、ニューヨークの過去の動向が日本の将来をまったく暗示していないことがわかる。
日本人の心の底にある「欧米崇拝」の気持ちが、日本と比べて死者数が格段に多いニューヨークのPCR検査事情と日本のPCR検査事情を比較させる原動力になっているかも知れない。そのような気持ちが「欧米でランダムPCR検査を進めているのはきっと効果があるからに違いない」という妄想を引き出したのだろう。
実際には欧米でのランダムPCR検査に余り効果がないことを示唆するデータがある。
PCR検査推進者の中に次のような理由付けを行っている人がいる。
しかし「封じ込め」という言葉は下記のようにいかがわしいものである。
「誰でも、いつでも、何度でも、無料でPCR検査が受けられる体制」という施策そのものは、一見、悪くないように思える。「うつされたかも」と身に覚えのある人や、老親と同居している人などは、「PCR検査して陰性なら安心できるし、陽性なら自分を隔離、または老親を逆隔離すればよい」と思っているだろうからである。身に覚えのある人も、「誰でも受けていいんだからどこに行ったか言わなくて済みそう」、などと思ったりもするだろう。しかし、重症化リスクなどで区別しないで一括して「無料」というのは行きすぎのような気がする。
PCR検査会社は一般入札されるのか?、セキュリティは大丈夫か?、などの点も気がかりである。
ある自治体が独自に進めてしまって、人の往来のある他自治体と共同歩調をとらないのでは意味がないように思う。
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2020/10/06 1:21:51
初版 2020/08/15
新型コロナのPCR検査に関する錯覚
日本での新型コロナに対する感染が保健所を主力として開始された時期から現在(2020/8/11)に至るまで、テレビ番組が人々の不安や政府に対する不信を煽り続けています。- 症状が出てもPCR検査を受けられないため国民が危険にさらされている!
- 外国では大量にPCR検査を行っている。日本はPCR検査体制が貧弱なため感染拡大を抑えられない!
前者の不安や不満は実際に症状が在ってのものなので錯覚とは言えません。
しかし、後者の不満は妄想の産物だと私は思うので、これについて以下論じます。
新型コロナのPCR検査に関する妄想の多くは純粋な妄想である
- 妄想: 新型コロナに罹っていやしないか不安だから早く検査を受けて安心したい。
正解: 新型コロナは感染力の強い感染症なので、どうしても安心したければわざと罹って抗体を身に付けるしかない。
- 妄想: 世界の中で日本の人口当たりPCR検査件数が少ないのは問題である。
正解: 日本はその分、重症者や死者が少ないし、CT など他の検査が充実している。むしろ注意すべきは高齢者の防護体制や重症者用病床数なので、PCR検査の件数だけに目を向けてはならない。
ランダムPCR検査に関する妄想は論駁しづらい
ランダムPCR検査とは、感染者をなるべく多く見つけて隔離するために特定の範囲(国全体、特定の自治体の住民、特定の会社の従業員など)でランダムにPCR検査を行う方策のことである。感染者の濃厚接触者を追跡して発見し隔離する追跡型PCR検査とは異なる。
(↑ 2020/08/16, 18 修正)
特定の集団全員の検査や、特定の地域全員の検査も、検査率が大きいランダムPCR検査だと言えないこともない。
このランダムPCR検査については次のような妄想を主張する学者や政治家や評論家が後を絶たない。
無症状者も含めて大量にPCR検査を行って陽性者を隔離する方法なら、多少、擬陽性や偽陰性があっても実効再生産数を下げられるので、人の移動制限や店舗の営業制限などの経済的打撃の大きい対策を減らすことができる。
私はこのような考え方を読んだとき、次のように感じて驚いた。
- 大量だって? 東京都民だけでも 1千万人いるんだぞ!
- 鼻の奥を綿棒の長いやつでこする検査を陽性になるまで何度もするのは嫌だ。症状が出てからにしてくれ!
その一方、緊急事態宣言などによるテレワークや営業自粛の経済的打撃が大きいことを考えると、次のような考えもわいて来た。
- 都会の事業所や店舗を一律にテレワークさせたり営業自粛させるよりも、PCR検査で陽性判定が出た者だけ10日間自宅に閉じ込める方が経済的打撃が小さいかも知れない。
- 人との接触が多い人だけ検査する方法ならコストが小さくなりそう。
- ルクセンブルクは全国民 60万人にPCR検査を受けさせた。案外PCR検査は苦しくないのかも知れない。
そして結局のところ、以下の章で述べる様々な理由から、上記の妄想は次のように書き直すべきだと思っている。 (← 2020/08/16 修正)
ランダムにPCR検査を行って陽性者を隔離する対策の費用対効果を判断するのは難しいが、重症者や死者が世界の中で圧倒的に少ない東アジア (その中でも特に中国より東に位置する諸国) に属している日本では、ランダムPCR検査は採用しない方がよさそうである。
ランダムPCR検査推進論が妄想くさい理由
ランダムPCR検査の有効性に影響する要因が多岐にわたる
下記のようにランダムPCR検査の有効性に影響する要因が多岐にわたっているので、推進論者が言うような単純明瞭な話ではない。 (← 2020/08/16 追加)ランダムPCR検査が実効再生産数を下げる度合を左右する要因
-
下記の参考文献を読むと、感染者がウイルスを排出する期間が短いうえ、PCR検査でそれをキャッチする確率が半分以下らしいことがわかる。
- 感染者がウイルスを排出する期間は10日間しかない。
- 感染者がウイルスを排出する期間の最初のころは陰性になりやすい。この問題にさらに感度の問題が加わる。
- 感染者がウイルスを排出しなくなってからも陽性になる期間がしばらく続く。
「情報ライブ ミヤネ屋」(2020/8/3) での釜萢敏先生の解説
抗体検査・抗原検査・PCR検査 どう使い分ける?(忽那賢志)
⾼橋泰・武藤真祐・加藤雅之 (2020)
公立陶生病院 感染症内科 武藤義和先生の解説 (2020/7/26) - 検体を採る方法で偽陰性率が変わる
ランダムPCR検査のコストを左右する要因
- 陽性判明者を施設に収容するためのコスト
(指定感染症としてのレベルが下がれば入院処置が減ってコストが下がる) - 陽性判明者の世話に医療資源(人や建物、資材など)を取られることによる他の疾患の患者への悪影響
- ランダムPCR検査を管理するシステムを構築・運用するコスト
- 隔離される感染者の割合が増えることによる集団免疫達成の遅れ
- ウイルスを排出しない人を無駄に隔離することによる経済損失
例えば少なく見積もってPCR検査結果陽性の人の3割がウイルスを出さないとした場合、一日当たり2万人がランダムPCR検査を受けて陽性率が5%だとすると、一日当たり千人が陽性になるので、一日当たり3百人が無駄に隔離されることになる。隔離した人が就労する企業への休業補償も関係してくる。
(↑ 2020/08/18 追加。2020/08/19 加筆) - PCR検査結果陽性者に対する確認検査で見抜けなかった擬陽性者を無駄に隔離するコスト
(↑ 2020/10/06 追加)
ランダムPCR検査のベネフィットを左右する要因
- 一律の移動制限や営業自粛をどれだけ緩和できるか
- 家庭内感染をどれだけ防止できるか
医療崩壊に関する要因
- ランダムPCR検査を発動しなければならないほど医療資源がひっ迫しているか
代替策に関する要因
- ランダムPCR検査を採用しなくとも、移動制限や営業自粛の緩和ができないか
- 追跡型PCR検査の効率向上策(例:COCOA)
- PCR検査結果を受け取るまでの日数を考えたら、うつされたかもと思った人が10日間厳重に自粛する方がコスパがよさそう。(仮にうつされていたとしても 10日たてば人にうつさなくなるから)
他疾患に関する要因
- 平年のインフルエンザ死亡者数を考慮するとランダムPCR検査による新型コロナの死亡者数減少効果の価値は大きくない
個人情報などの安全に関する要因
- PCR検査会社は信頼できるか
ランダムPCR検査推奨論が論理的でないこと
- 「ランダムPCR検査でどれくらい移動制限や営業自粛を緩和できるか」など具体的な目的を述べないで、現状のPCR検査件数の少なさを非難している
- ランダムPCR検査が実効再生産数を下げる度合の議論を避けて、あたかもピタッと流行がとまるかのようにイメージ操作している
- B/C (ベネフィット/コスト)で検討していない
現行のPCR検査件数に対して不安や不信を煽るイメージ操作
-
「PCR件数の多い国々がすでに自粛を解除し始めているが、日本はまだ感染拡大が続いている」などとテレビ番組や新聞で不安を煽っている。しかしこれは下記の詭弁によって組み立てられている。
前件肯定
「成功例では大量にPCR検査を行っている」ことと、「日本はPCR検査が少なく、かつ成功していない」ことから、「成功例ではPCR件数が多い。したがってPCR件数が少なければ成功しない」という推論を行っている。これは「前件肯定」という種類の詭弁である。
具体例:- PCR検査が多く、かつ感染が鎮まった国に関する報道をよく読むと、都市封鎖や営業自粛が日本より厳しかったことがわかる。PCR検査の件数だけに理由を求めるのは間違いである。
- PCR検査数を増やす政策をとっているドイツを引き合いに、日本のPCR検査の少なさの不安・不満を煽るマスコミが多い。
しかし、ドイツに関する報道をよく読むと、濃厚接触者の追跡型PCR検査や、感染者の出た職場の一斉検査などランダムでないPCR検査にも重点を置いていることがわかる。
米国など、PCR件数は多いが新型コロナが収束に向かっていない国のデータを隠したり、比率を計算するときの分母の違いをごまかしたりする詭弁である。
具体例:- PCR検査の多い韓国を引き合いに、日本の方策に悪印象を与えようとするマスコミが多い。
しかし韓国のPCR件数はヨーロッパ諸国に比べるとさほど多くない。韓国ではロックダウンやスマホを使った濃厚接触者追跡の役割が高かった可能性がある。 - 2020年の7月末の段階で、英国が経済活動の段階的再開を支えるために、感染が発生した場所や感染リスクの高い施設や業種での積極的検査を進めているなかで、英国ではPCR検査の陽性率が下がって来た。しかし日本では積極的検査が進まず、PCR検査の陽性率が上がっている」という趣旨の新聞記事があった。
しかし、この議論には英国も日本もおなじくらいのランダム度合でPCR検査を行っているという不確かな仮定がひそんでいる。
- 大量のPCR検査により新型コロナウイルスの封じ込めに成功した国があると云う者もいる。これがいかに怪しげな情報であるかは、「PCR検査で新型コロナを封じ込めた国はあるか」をごらんください。 (← 2020/08/16 追加)
-
マスコミがPCR検査について報道するとき、病院や高齢者施設の防護を目的とするPCR検査や、類似の疾患との区別のための診断を目的とするPCR検査、クラスターや二次感染者の追跡を目的とするPCR検査、タクシー運転手など感染しやすく拡散しやすい業種の予防を目的とするPCR検査など、PCR検査の本来の目的に触れようとしない。マスコミがこのような論調であるため、政府や厚労省の対策が全く進んでいないという誤解が広まってしまっている。
(← 2020/08/16 修正。2020/08/19 加筆)
PCR検査の目的別分類
- ランダムPCR検査は市中に紛れている感染者の発見と隔離を目的とする。
- 防護型PCR検査は、患者と医療従事者や高齢者と介護従事者などのように、これから接触する人たちが感染していないことの確認を目的とする。
- 診断型PCR検査はその患者に対する治療法や受け入れ施設の選定を目的とする。
- 追跡型PCR検査は、ある感染者に関係する感染経路やクラスター上の濃厚接触者が感染しているかを判定する。
- クラスターつぶし型PCR検査は、感染者の発生した病院や工場などを一斉検査してクラスターをつぶすことを目的とする。
(← 2020/08/30 追加) - 予防型PCR検査は、タクシー運転手など感染しやすく拡散しやすい業種の感染者の早期発見を目的とする。 (← 2020/08/19 追加)
保育園の保育士などの定期検査もこの一種であるが、検査手段や陽性判定の出た保育士の扱いを間違えると益少なく害多しになる。(← 2020/08/30 追加)
(↑ 2020/08/18 追加) - PCR検査や抗体検査、抗原検査は最新の検査であり、それが多い国ほど医学が進んでいるようにイメージ操作しているが、世界の中で日本が最もCT検査が盛んであることを隠している。
- 「PCR検査陽性報告数増加」を「感染者数増加」と書き換えて感染が拡大しているかのようにイメージ操作している。
ランダムPCR検査論を主張したり推進したりする者の怪しさ
(↑ 2020/08/18 タイトル修正)- ランダムPCR検査の推進論者の多くが PCR検査企業と関係を持っている
- 新型コロナの流行が沈静化するにつれて、彼らが目標とするPCR検査数を減らしている。PCR検査をどうしても売り込みたい気持ちの表れに見える。
- PCR検査費用の安さや所要時間の短さを強調しながら、「ランダムPCR検査のコストを左右する要因」 で上げたような重大なコストを隠蔽している。 (← 2020/08/16 追加)
- 現行のPCR検査件数に対して不安や不信を煽るイメージ操作を行っている。 (← 2020/08/16 追加)
-
独自にランダムPCR検査を推し進め始めたある自治体の首長が、介護施設などの防護型PCR検査をその活動の一部としてとして推進すると、ネットで公表した。新型コロナ対策に詳しくない人たちがこれを読んだら、今まで防護型PCRが政策的に抑止されていたと勘違いしてしまう。
ランダムPCR検査と防護型PCR検査の違いをぼかすレトリックは有害である。
(↑ 2020/08/18 追加)
ダブルスタンダードである
-
自粛や3密回避やマスクは国民の権利を侵害しているといいつつ、全国民検査など個人の意思を尊重しない方策を推奨している。
ランダムPCR検査に反対する人の多くがCOCOA を推奨している。
COCOAなら、感染者は他の人に通知されても匿名なので我慢できそう。
接触者は「うつされたかも」であるので自発的にPCR検査を受けそう。
2020年8月6日ごろのデータ
2020年8月6日ごろのデータによるとPCR検査件数と死者数の間に一貫した関係がないことから、PCR検査だけが新型コロナ感染症対策の要点でないことがわかる。(Worldmeter というサイトの "Coronavirus Update (Live)" というページを 2020/08/06 ごろ参照して作成) (← 2020/09/06 追加)
2020年9月6日ごろのデータ
(2020/09/06 この段落を追加)Our World in Data という Webサイトの "Daily confirmed COVID-19 deaths per million people" という ページで人口当たりの日次死亡者数グラフを見ると、スウェーデンのようなランダムPCR検査と縁がなさそうな国も、英国やフランスなど人口当たりPCR検査数が日本より格段に多い国も、同様な収束傾向を示している。
このことはPCR検査よりも集団免疫の方が流行収束の主要な要因であることを示唆している。
世界的権威の発言が参考になる
ドイツの大量PCR検査を牽引したドロステン博士が、第2波を乗り切るにはクラスターに的を絞った検査へのシフトが必要で、そのために日本のやり方が参考になると述べている。 (← 2020/08/18 修正)参考文献: Christian Drosten 博士の 2020/8/5 ごろの意見
ランダムPCR検査に関する妄想の元になっている数学的錯覚
(2020/09/06 標題を修正)時間軸の無視
ランダムPCR検査の検査率を高くすれば、極端な場合全国民一斉同時に検査すれば、その後しばらくは感染がピタッととまるかも知れない。しかし実際は何人かずつに分けて(例えば1日2万人ずつに分けて)検査しなければならない。そうすると、次のような要因で、実効再生産数が期待ほど下がらないと思われる。- 検査待ちの感染者からの伝染
- 早めに検査した者が、しばらくして感染して伝染開始
- 感染者のPCR検査のタイミングが早すぎて偽陰性になって隔離失敗
基準率錯誤より有害な「無症状者」という言葉のあいまいさ
(2020/08/18 この章を追加)ランダムPCR検査の有効性と確率の錯覚の関係でよく議論されるのが事前確率を特異度の関係である。つまり、感染している事前確率が小さくてPCR検査の特異度が高い場合、実際の偽陰性の割合よりも非常に小さく偽陰性の割合を見積もってしまうという錯覚現象(基準率錯誤)である。
私はこれによくにた錯覚現象があるかもしれないと思っている。つまり、「無症状者」という言葉の意味は本来は「無症状の非感染者+無症状の感染者」という意味であるが、非感染者のことが頭から抜けてしまい、無症状者に対するPCR検査の有効性を過大に評価してしまう錯覚現象があるのではないか、と私は思っている。
比較対象の間違い
(2020/09/06 この章を追加)ランダムPCR検査を求める声、あるいはそれを煽るテレビ番組は、PCR件数の多い外国の事例を根拠として上げている。特にニューヨーク州や市の事例が取り上げられることが多い。
しかし、本来、日本の新型コロナと比較すべきは日本の他の感染症であって、他の国の新型コロナではない。日本の人口当たり死者数は欧米より 2桁少ないが、他の東アジア諸国と比べると同程度だということが、それを示唆している。
それでは何と比較したらよいのか? 考えられるのは、周辺諸国の新型コロナの流行具合との比較と、自国のインフルエンザの流行具合との比較である。
周辺諸国との比較
Our World in Data という Webサイトの "Daily confirmed COVID-19 deaths per million people" という ページで日次の人口当たり死者数のグラフを見ることができるので、表示する国の組み合わせを変えてみたら次のようなグループのそれぞれに地域性があるように見えた。(2020/09/06 実施)ここでは 「地域性がある」 という言葉を 「同一地域内の国同士は似通っていて隣接する他の地域と違いがある」 という意味で使っている。
グループ | 国 |
累積死者数 百万人当 |
日次人口当たり死者数の特徴 |
---|---|---|---|
フランス周辺 | 英国 | 611 | イタリアは3月から先行するも、4月から周辺国と同歩調 |
フランス | 471 | ||
イタリア | 588 | ||
オランダ | 364 | ||
スイス | スイス | 232 | フランスとドイツの中間 |
ドイツ周辺 | ドイツ | 112 | 欧州の中では少ない |
デンマーク | 108 | ||
オーストリア | 82 | ||
オーストラリア周辺 | フィリピン | 34 | 5月にいったん収束も7月から増加に転じる |
オーストラリア | 29 | ||
中国周辺 東アジア |
日本 | 11 | 韓国とマレーシアは5月に収束、日本は6月に収束するも8月からやや増加(緊急事態宣言解除による緩みか) |
韓国 | 6 | ||
マレーシア | 4 | ||
台湾 | 台湾 | 0.3 | 厳重な水際対策? |
北欧 | ノルウェー | 49 | 欧州の中で特に少ない |
フィンランド | 61 | ||
スウェーデン | スウェーデン | 577 | 英国やフランスに近い |
中南米 | ブラジル | 590 |
死者数多い 5月から下げ止まり |
メキシコ | 518 | ||
チリ | 600 | ||
北米 | 米国 | 580 |
当初は両国とも英国を追随 7月ごろから米国が下げ止まり |
カナダ | 242 | ||
イラン | イラン | 262 | 中華人民共和国の影響か? |
中近東 | イラク | 182 |
イスラエルは3月のピーク後、7月から再流行 イラクは6月から高水準維持 |
サウジアラビア | 115 | ||
イスラエル | 108 |
この表を見ると、ニューヨークの過去の動向が日本の将来をまったく暗示していないことがわかる。
インフルエンザとの比較
私が調べた限りでは、次のようである。- 日本では新型コロナの死者数は圧倒的にインフルエンザの年間死者数より少ない。
- 米国では新型コロナの死者数が圧倒的にインフルエンザの年間死者数より多い。
ランダムPCR検査に関する妄想の元になっているその他の錯覚
(2020/08/30、この章を追加。2020/09/06 標題を修正)恐怖による人心操作
「PCR検査を誰でも受けられるようにしないと大変なことになる」という妄想を広めた責任はテレビ、新聞、雑誌などのマスコミにある。有名なテレビ番組の構成を見ると、次のような発言で構成されていることがわかる。- 「2週間後にニューヨークのようになる」などの恐怖心を煽る言葉
- 「海外ではPCR検査が誰でも受けられる」、「日本では全くPCR検査がされていない」などの誇張した表現
- 「ニューヨークでは誰でもPCR検査が受けられる」などの解決策としてのPCR検査の宣伝
陰謀説による人心操作
日本のPCR検査の少なさは異常だという妄想を広めたテレビ局などマスコミに次のような発言が多い。- 日本でも海外と同じようにPCR検査数を増やすことができるはずだ。それができていないのは何かの組織の都合によるのだ。
- 感染学の専門家によるランダムなPCR検査の有害説は、政府に忖度しているのだ。
欧米崇拝
(2020/09/06 この章を追加)日本人の心の底にある「欧米崇拝」の気持ちが、日本と比べて死者数が格段に多いニューヨークのPCR検査事情と日本のPCR検査事情を比較させる原動力になっているかも知れない。そのような気持ちが「欧米でランダムPCR検査を進めているのはきっと効果があるからに違いない」という妄想を引き出したのだろう。
実際には欧米でのランダムPCR検査に余り効果がないことを示唆するデータがある。
これらの妄想から逃れられない呪縛
高橋泰教授「データに合う新型コロナ観を持て」が参考になります。PCR検査で新型コロナを封じ込めた国はあるか
(2020/08/16 この章を追加)PCR検査推進者の中に次のような理由付けを行っている人がいる。
世界には大量のPCR検査により新型コロナの封じ込めに成功した国がある。日本でも、「誰でも、いつでも、何度でも、無料でPCR検査が受けられる体制」 にすれば新型コロナを封じ込むことができる。
しかし「封じ込め」という言葉は下記のようにいかがわしいものである。
- 「封じ込め」とは特定の地域や特定の集団の外に出ないようにするという意味だろうが、新型コロナは風邪の一種で、感染しても目立たない。このような感染症を特定地域や特定集団の外に出ないようにしたところで、他の地域や集団を感染源とする新たな感染が始まるのを防ぐことができない。
- 「封じ込め」に成功した国があるように見えるのは、例えば「韓国やニュージーランドで新規感染者ゼロが数日間続いた」というような情報を元に思い付いたのだろう。しかし、実際に行われたことは実効再生産数を1未満に保つことだったにちがいない。 そのためにはランダムPCR検査だけでは間に合わない。 追跡型PCR検査や水際対策(入国者検疫)、病院や高齢者施設の防護型PCR検査、などに力を入れていないはずがない。 各種の3密回避策も、強度を弱めたかもしれないが継続しているはずである。
ランダムPCR検査に関するその他の疑念
(2020/08/18 「PCR検査で新型コロナを封じ込めた国はあるか」という章の後半部分をここに分離)「誰でも、いつでも、何度でも、無料でPCR検査が受けられる体制」という施策そのものは、一見、悪くないように思える。「うつされたかも」と身に覚えのある人や、老親と同居している人などは、「PCR検査して陰性なら安心できるし、陽性なら自分を隔離、または老親を逆隔離すればよい」と思っているだろうからである。身に覚えのある人も、「誰でも受けていいんだからどこに行ったか言わなくて済みそう」、などと思ったりもするだろう。しかし、重症化リスクなどで区別しないで一括して「無料」というのは行きすぎのような気がする。
PCR検査会社は一般入札されるのか?、セキュリティは大丈夫か?、などの点も気がかりである。
ある自治体が独自に進めてしまって、人の往来のある他自治体と共同歩調をとらないのでは意味がないように思う。
参考文献
-
「情報ライブ ミヤネ屋」(2020/8/3) での釜萢敏先生の解説
新型コロナウイルス感染症対策分科会の釜萢先生が、2020/8/3 放送のテレビ番組 「情報ライブ ミヤネ屋」 に出演されていた。この放送に関するライブドアニュースに書かれていた先生の解説によると下記のようである。- ウイルスを外に出すまで4⽇間くらい
- 強い期間が10⽇間くらい
- PCR検査で陽性になる期間が20⽇くらい
- (以下略)
-
抗体検査・抗原検査・PCR検査 どう使い分ける?(忽那賢志)
"抗体検査・抗原検査・PCR検査 どう使い分ける?(忽那賢志) - 個人 - Yahoo!ニュース" という title の Webページに、「発症からの日数とPCR検査、抗体検査、ウイルス分離の陽性率(doi:10.1001/jama.2020.8259より)」という図が提示されている。
-
⾼橋泰・武藤真祐・加藤雅之 (2020)
「新型コロナの実態予測と今後に向けた提⾔」『社会保険旬報』2020.6.21号、7.1号(№2787[pp.6-15]、№2788[pp.18-28])に、「図2-2 新型コロナの症状を抗体の出現時期(JAMA の図を一部抜粋・翻訳して筆者作成)」 という図が提示されている。
-
Christian Drosten 博士の 2020/8/5 ごろの意見
"Target clusters and superspreaders': Here's how Germany could prevent a second coronavirus wave - The Local" という title の Webページに、ドイツの新型コロナ対策の重要人物の一人であるドロステン博士にインタビューしたらしい記事が書かれている。
-
高橋泰教授「データに合う新型コロナ観を持て」
"新型コロナ、「2週間後」予測はなぜハズレるのか | コロナ後を生き抜く | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準" という title の Webページに、「人々が持っている新型コロナ観が実態からズレているため、罹ると大変なことになると思ってしまう」 という高橋先生の説が書かれている。
-
公立陶生病院 感染症内科 武藤義和先生の解説 (2020/7/26)
"今週のコロナニュース│コロナ制圧タスクフォース" という Webページから 「新型コロナウイルスのNow!! 令和2年7月26日 公立陶生病院 感染症内科 武藤 義和」 という PDFファイルを閲覧できます。
用語解説
-
実効再生産数
1人の感染者が次にうつす平均人数。人口密度などにより地域差がある。人々の行動の変化などにより時間とともに変化する。
-
COCOA
COCOAアプリをインストールしたスマホ同士の間で Bluetooth 通信を行ったり、スマホの所有者が感染したことを COCOA のサーバーに登録したりすることで、感染者が所有するスマホに接近したスマホの所有者に感染者が接近したことを通知するアプリ。
-
3密回避策
ダイヤモンド・プリンセス号での検疫データから、換気の悪い空間に人々が密集し会話や会食などを行うと伝染しやすいことが発見された。 このことから、密閉、密集、密接が同時に起きている「3密」を避けることを、内閣、厚生労働省、および各自治体が国民に呼びかけている。
満員電車は密集しているが換気はさほど悪くなく、まったく密接でないので、それほど問題ではない。このように、軽度の1密や2密はOKであることが、人々に周知されていないことが問題である。
常時マスクを付けていれば、知らず知らずに人に息を掛けることがないので安心だが、真夏日のマスクは熱中症の危険があるので、臨機応変が必要だ。
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