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Tierney, John (2007).の中で取り上げた、同大学の Egan, Louisa C., Santos, Laurie R., & Bloom, Paul (2007) による実験について Chen 博士が統計数学的疑問を提示していたので、Tierney は さっそく博士に取材して 「認知的不協和の研究者は一種のモンティ・ホール問題に落ち込んでしまったのだ」 という言葉を聴き出している。
ところがこの記事をよく読むと、モンティ・ホール問題を引き合いに出すのは間違っていることがわかる。
ボタン型のミルクチョコレートをカラーコーティングして 1袋に 6色入れたものが代表的で、注文すれば色の数を増やしてもらえるらしい。
最近(2012年)日本のコンビニで見かけないので記憶を手繰れば、色が違っても味はまったく同じだった。
もともと色分けされていて、中身がいっしょで、味の区別はなくて、「お口で溶けて、手で溶けない」から、実験材料に最適だったのだろう。
Egan, Louisa C., Santos, Laurie R., & Bloom, Paul (2007) によると、次のような手順の実験だった。
2013/08/18 14:36:41
認知的不協和の実験の錯覚はモンティ・ホール問題の錯覚に似ているか
New York Times のコラムニスト John Tierney によるは 2008年8月8日のコラムによると、それまでに行われていた認知的不協和の実験結果の解釈に関して、イェール大学の Chen 博士が統計数学的な疑問点を発表しているらしい。Tierney, John (2008).Tierney, John (2007).の中で取り上げた、同大学の Egan, Louisa C., Santos, Laurie R., & Bloom, Paul (2007) による実験について Chen 博士が統計数学的疑問を提示していたので、Tierney は さっそく博士に取材して 「認知的不協和の研究者は一種のモンティ・ホール問題に落ち込んでしまったのだ」 という言葉を聴き出している。
ところがこの記事をよく読むと、モンティ・ホール問題を引き合いに出すのは間違っていることがわかる。
サルと M&M を使った実験の内容
M&M はマース社のチョコレートキャンディのブランドで、もともとはマースとムリーが始めたマース・アンド・ムリーズ社の製品として出発。ボタン型のミルクチョコレートをカラーコーティングして 1袋に 6色入れたものが代表的で、注文すれば色の数を増やしてもらえるらしい。
最近(2012年)日本のコンビニで見かけないので記憶を手繰れば、色が違っても味はまったく同じだった。
もともと色分けされていて、中身がいっしょで、味の区別はなくて、「お口で溶けて、手で溶けない」から、実験材料に最適だったのだろう。
Egan, Louisa C., Santos, Laurie R., & Bloom, Paul (2007) によると、次のような手順の実験だった。
実験方法
実験対象
6匹のサル
実験の順序
①好みテスト
②最初の選択セッション
③最初の非選択セッション (2ヶ月後)
②最初の選択セッション
③最初の非選択セッション (2ヶ月後)
最初の選択セッションで使ったのと同じ 3色の M&M を使う
③2度目の選択または非選択セッション
それまでに使わなかった 3色の M&M を使う
④2度目の非選択または選択セッション
それまでに使わなかった 3色の M&M を使う
筆者注 :
好みテストで M&M を食べるためにサルが移動する時間の長短を使って M&M の色の好みが均等な3色の組合せを決めているが、本来なら 2色の組合せごとに直接比較させるべきである。比較する行為そのものが実験に含まれているのでそうしたくてもできなかったのだろう。
好みテスト
各サルごとに各 20トライアル、1トライアルごとに各 2セッションを行う。
9色の M&M を用意して、色ごとに M&M を取れる場所まで移動する時間を計る。
時間の短い程好みが強いとして、それぞれのサルに対して同程度に好みの3色の組合せを決める。
9色の M&M を用意して、色ごとに M&M を取れる場所まで移動する時間を計る。
時間の短い程好みが強いとして、それぞれのサルに対して同程度に好みの3色の組合せを決める。
選択セッション
フェーズ1
2色の M&M から1つを選ばせる(1 トライアル)
フェーズ2(
フェーズ1で選ばなかった色と残りの色の M&Mから1つを選ばせる(10トライアル)
非選択セッション
フェーズ1
2色の M&M のうち実験者が許しただものだけを取らせる(1 トライアル)
フェーズ2(
フェーズ1で与えられなかった色と残りの色の M&Mから1つを選ばせる(10トライアル)
「実験者が許しただものだけを取らせる」という操作は次のようにして行う。
サルに M&M の乗ったトレイを 2つ見せるがトレイとの間の窓は片方しか開いていない。
「選ばせる」という操作は次のようにして行う。
2つの窓のそれぞれにトレイがある。 どちらのトレイにも手を伸ばせるが同時には延ばせない。 サルが片方の M&M を取ったら即座に他方のトレイを引っ込める。
実験結果
フェーズ2 でフェーズ1 で与えられなかった選択肢 を選ぶ傾向が、選択セッションの方が非選択セッションに比べて高い。非選択セッションでは逆にフェーズ1 で与えられなかった選択肢をフェーズ2 で選ぶ傾向が高い。 (論文の中では、 「美味しい方を実験者が自分の物にした」 とサルが解釈したのだろうと書いている)
実験結果の考察
サルの実験とは別に行った 4歳児とステッカーを使った実験の結果と組み合わせて、論文の中で次のように述べている。同じようなパラダイムで成人に対して行われた実験と同様に、幼児やサルも、態度や好みを変えることにより、選ばなかった選択肢の価値を減らして自分が先に行った判断と整合させているように思える。
Chen 博士の意見
好みテストで好みに差が 「ほとんど」 ないことを確認した 3色の M&M の間に、ほんの少しでも好みの差があれば、選択セッションのフェーズ1 で優先度の低かった M&M がフェーズ2 でも優先度が低くなる可能性が高くなるので、認知的不協和の理論なしに実験結果を説明することができる。モンティ・ホール問題を引き合いに出すことの誤り
Chen 博士は 次のような図式でサルと M&M の実験者が、モンティ・ホール問題に落ち込んでいると考えている。
|
|
---|---|
挑戦者が扉1を選んだ |
一度目に |
ホストが扉3を開けた |
一度目の選択で |
残った扉1 と扉2 が当りである確率は互角だと錯覚した |
二度目の選択で選ばせる |
しjかしこのようにサルと M&M の実験をモンティ・ホール問題になぞらえるのは誤りである。
その理由:
- ◇モンティ・ホール問題ではホストの行動パターンは予め定まっているが、サルと M&M の実験ではサルの行動パターン自体を実験で明らかにしようとしている。(※注参照)
- ◇最初の選択の時点で隠れた嗜好の偏りがあったとするなら、当り扉の配置がランダムであるというモンティ・ホール問題の条件から外れてしまう。(※注参照)
- ◇モンティ・ホール問題は確率を、サルと M&M の実験は嗜好や態度を問題にしているので、形の上で似ていても本質で異なる。
- ◇モンティ・ホール問題の教訓は 「場合分けをしっかりせよ」 であり、サルと M&M の教訓は 「好みテストの結果と選択セッションや非選択セッションの結果の関係がわかるような実験にせよ」 であって、前者は確率論がテーマであり、後者は実験計画法がテーマである。
サルと M&M の実験結果に認知的不協和の兆候は見出せないとする Chen 博士の意見は正しいのか
サルと M&M の実験には次のような難点があるので、Chen 博士の意見は正しいかも知れない。実験の構造に関する難点
- ◇好みテストで同程度の好みとされた M&M の 2色の間に選択行動で差が無いことを直接示す実験がされていない。
- ◇非選択セッションと選択セッションで同じ 3色組を使っていない (実験の目的上、使いたくても使えない) 上に、非選択セッションのフェーズ2 が同じセッションのフェーズ1 の影響を受けているので、選択フェーズのフェーズ2 に対する統制群の役を果たしていない。
- ◇好みテストと本番の実験の間が 2ヶ月も開いていたら好みテストの意味が無くなるのではないか?
実験の規模に関する難点
- ◇実験にたったの 6 匹しかサルを使っていない。
- ◇9色のM&M から好みが同程度の 3色組を決めるとなると、用意した 9色全部を実験に使うことになる。
( 9色 = 3セッション × ( 3色 / セッション) )
これでは同程度の好みの3色組に微妙な好みの差が残りそうだ。
いずれにせよ、心理学の実験結果の統計処理は難しいと分かった。
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参考文献
-
Egan, Louisa C., Santos, Laurie R., & Bloom, Paul (2007)
The Origins of Cognitive Dissonance : Evidence From Children and Monkeys
Psychological Science 2007 18: 978
-
Tierney, John (2007).
"Go Ahead, Rationalize. Monkeys Do It, Too."
http://www.nytimes.com/2007/11/06/science/06tier.html
-
Tierney, John (2008).
"And Behind Door No. 1, a Fatal Flaw"
http://www.nytimes.com/2008/04/08/science/08tier.html
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