トップページに戻る
そのため、検査で陽性になった人は高い確率で癌になっていると心配するが、それは錯覚である。
マンモグラフィー検査の錯覚とモンティ・ホール問題の錯覚との間には次のような違いがある。
同じ事後確率の錯覚でありながら、このような違いがあることに驚かされるが、次に述べるような共通点があった。
このように、最後に与えられた情報のみから確率を判断する特性が、日常の確率判断にあるのではないだろうか?
北岡 元 : 仕事に役立つインテリジェンス (PHP新書, 2008)
印南 一路 : すぐれた意思決定―判断と選択の心理学 (中公文庫, 2002)
上記の Web ページで紹介されているヒューリスティクの誤りのうち、 モンティ・ホール問題や3囚人問題に関係しそうなものを抜き出すと次のようになる。
・条件付き確率を、確率だと認識する
2013/08/18 14:36:41
確率の錯覚に共通の原理はあるか
モンティ・ホール問題の確率の錯覚とマンモグラフィー検査の確率の錯覚のちがい
マンモグラフィーなどの癌検査では、「癌であれば何パーセントの率で見つけることができます」といった説明を受けることがあっても、「陽性になった場合に実際に癌である確率は何パーセントです」といった説明を受けることはまれである。(少なくとも 2010年ごろの日本ではそうだろう)そのため、検査で陽性になった人は高い確率で癌になっていると心配するが、それは錯覚である。
マンモグラフィー検査の錯覚とモンティ・ホール問題の錯覚との間には次のような違いがある。
事例 |
|
の有無 |
|
市川 伸一, 下條 信輔. (2010).による |
---|---|---|---|---|
|
癌に掛かっているときに検査結果が陽性になる確率を 陽性になったときに癌に掛かっている確率と 錯覚する。 |
あり 癌に掛かっている場合と掛かっていない場合のそれぞれについて、陽性になる確率と陰性になる確率が示される。 |
癌に掛かっているという条件での陽性や陰性になる確率を事後確率と錯覚する。 |
事前確率の無視(neglect of prior probability) 基準率錯誤(base rate fallacy) |
モンティ・ホール問題 |
三つの扉が当たりである確率が等しかったから、 二つだけ残ったときにも当りである確率は等しいと 錯覚する。 |
ない 当り扉と挑戦者が選んだ扉の組合せごとの、各扉をホストが開ける確率は明示されていない |
残った扉の確率に差異が生じるようなことは起きていないと錯覚する。 | 等比率の定理 |
同じ事後確率の錯覚でありながら、このような違いがあることに驚かされるが、次に述べるような共通点があった。
モンティ・ホール問題の確率の錯覚とマンモグラフィー検査の確率の錯覚の共通点
モンティ・ホール問題の確率の錯覚と、マンモグラフィー検査の確率の錯覚は、どちらも最後に言われた言葉にとらわれて標本空間を考えてしまって確率を錯覚しているという共通点がある。事例 | 最後に言われた言葉 | 錯覚した標本空間 |
---|---|---|
|
検査結果が陽性だと告げた後で、次のように告げられる。 癌に掛かっているときの検査結果が その後で、気休めのように 癌に掛かっていないときに検査結果が だと告げられる。 |
癌に掛かっているという条件で陽性になる事象と陰性になる事象で |
モンティ・ホール問題 |
ホストが扉3 を開けたので、 扉1 と扉2 が残った。 |
賞品の配置に関する標本空間からホストがあけた扉を除いたものを事後の標本空間とする。 |
このように、最後に与えられた情報のみから確率を判断する特性が、日常の確率判断にあるのではないだろうか?
この説を裏付けるような資料があった
「直観が誤りをおかしやすい点」 という Webページで、下記の書籍を元に、直感 (ヒューリスティク)による確率判断が誤りやすい点が分類整理されていた。北岡 元 : 仕事に役立つインテリジェンス (PHP新書, 2008)
印南 一路 : すぐれた意思決定―判断と選択の心理学 (中公文庫, 2002)
上記の Web ページで紹介されているヒューリスティクの誤りのうち、 モンティ・ホール問題や3囚人問題に関係しそうなものを抜き出すと次のようになる。
・条件付き確率を、確率だと認識する
※私の注: マンモグラフィ検査の錯覚と似ているが同じことを言っているか不明
・利用可能な情報 (思い出しやすい情報) を過度に重視する
短期的変化にむやみに反応する最初あるいは最後の選択肢を重視する
・均一なバラツキを過度に期待する
※私の注: モンティ・ホール問題の場合、標準仮定を仮定する人が大部分であることに対応している。
これらの中では 「利用可能な情報 (思い出しやすい情報) を過度に重視する」 というヒューリステlクの誤りが、上で上げた 「モンティ・ホール問題の確率の錯覚とマンモグラフィー検査の確率の錯覚の共通点」 とよく似ている。
参考文献
-
市川 伸一, 下條 信輔. (2010).
3囚人問題研究の展開と意義をふり返って . 認知心理学研究. 2010, Vol. 7, No. 2, p.137-145 .
用語解説
-
標準仮定
モンティ・ホール問題や3囚人問題を数学的に解くためには問題文に明示的に書かれていない条件を仮定する必要がある。
標準仮定はそうした仮定の一つであり、モンティ・ホール問題の場合、次のような内容となっている。
①当たり扉はランダムかつ等確率に設定される
②ホストは挑戦者の選んだ扉を開けない
③ホストは必ず残りの扉を一枚開ける
④ホストはハズレの扉しか開けない
⑤ホストは挑戦者の選んだ扉が当たりのとき、ハズレ扉をランダムかつ等確率に選んで開ける
⑥ホストは扉を開けた後に必ずswitchの機会を挑戦者に与える
1975年に モンティ・ホール問題を発案した Steve Selvin も、
1990~1991年に PARADE誌のコラム"Ask Marilyn"で論争した人々の多くも、
標準仮定のもとに議論していた。
「標準仮定」(the standard assumptions)とは Wikipedia(英語版)の "Monty Hall problem"の記事で導入された言葉である。
3囚人問題の標準仮定は、「⑥ホストは扉を開けた後に必ずswitchの機会を挑戦者に与える」を除いたものになる。
トップページに戻る