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2022/06/20 9:28:14
初版 2022/06/20

ワクチン推進者が相対リスクや相対リスク減少効果を論じる誤謬

2021年暮れの厚生労働省のワクチン勧奨リーフレットに心筋炎のリスクが論じられていたり、2022年春のある政党のWebページでワクチンのコロナ死抑止効果を論じられていましたが、前者では相対リスクのデータ、後者では相対リスク減少効果のデータを用いていました。
これは薬の使用を判断する目的には相対リスクでなく絶対リスクを比較しなければならないという医学的原則から逸脱しているという誤謬によるものですが、実はそれ以前にリスク・」ベネフィット評価を怠っているという根本的な問題も含んでいました。

目次

 

ワクチンと心筋炎の関係に関連する厚生労働省のリーフレット

当該資料を読む方法

Webページ "厚生科学審議会 (予防接種・ワクチン分科会 副反応検討部会)"
からリンクされている第70回の資料
(標題「第70回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和3年度第19回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催) 資料」)
のリンク「 参考資料7 新型コロナワクチン接種後の心筋炎・心膜炎について」からリンクされているpdfファイルに
10代・20代の男性に、モデルナ製よりも心筋炎のリスクの少ないファイザー製ワクチンを勧める内容の
「新型コロナワクチン接種後の心筋炎・心膜炎について」と題するリーフレットの紙面が画かれている。
リーフレット右上隅の日付は「2021年10月〇日」である。

問題になった箇所に書かれているロジック

心筋炎発症数をグラフで比較

ワクチンを接種した場合の心筋炎・心膜炎疑い報告数(100万人当たり)と新型コロナウイルス感染症にかかった場合のそれをグラフにして比較する。報告数の目盛は共通で、報告数が等しければ同じ高さになる。
ワクチンを接種した場合のグラフは12~19歳男子と20~29歳男子で別のグラフとし、新型コロナウイルス感染症にかかった場合のグラフは国内の15~39歳男子と12~17歳男子で別のグラフにしてある。

グラフをもとに10代・20代の男性にワクチンを推奨

下記のように推奨している。
(女性はワクチン接種による心筋炎・心膜炎の発症が少ないのでこのリーフレットの読者に想定していないのだろう)
〇新型コロナウイルス感染症に感染した場合にも、心筋炎・心膜炎になることがあります。感染症による心筋炎・心膜炎の頻度に較べると、ワクチン接種後に心筋炎・心膜炎になる頻度は低いことがわかっています。
〇新型コロナワクチンは、発症予防効果などの接種のメリットが、副反応などのデメリットよりも大きいことを確認して、皆様に接種をおすすめしています。しかしながら、ワクチン接種は、あくまでご本人の意思に基づき受けていただくものです。ご本人が納得した上で、接種をご判断ください。

このリーフレットが犯した誤謬

ワクチンを接種しようかどうか迷っている人に見せるグラフでありながら、その人本人の立場でなく、たまたまワクチンを打った誰かの心筋炎・心膜炎発症頻度と、たまたまコロナにかかった誰かの心筋炎・心膜炎発症頻度を比較しているため、次のような誤謬を生じている。 その結果、ワクチンによる心筋炎リスクを約半分に見せかけ、ワクチンを打たない場合の心筋炎リスクを大幅に大きく見せかけるという詐欺的なグラフになってしまっている。

さらに、気づかれにくいトリックが隠されていた

コロナにかかった場合の心筋炎・心膜炎の国内分のグラフにおける「かかった」の意味が、実態と異なっていた

このグラフの下の方に小さい字で
「出典:第70回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和3年度第19回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(令和3年10月15日開催)資料」
と書かれていて、その資料「心筋炎関連事象疑い報告の状況」のページ11に
「新型 コロナウイルス感染症(国内)は、 国内の新型コロナ感染症の入院患者の 15 40 歳未満の男性で、100 万人当たり 834 人」と書かれてあった。
「かかった」の意味は通常は「感染した」、あるいは「PCR検査が陽性だった」の意味にとられるから、新型 コロナウイルス感染症(国内)の心筋炎リスクに関してこのリーフレットのグラフの示す数値は実態より誇大に解釈されることになる。
現に、私もそのように解釈した一人である。さらに、私以外にも騙された人がいることがツイッターでの議論を読むとわかる。

政府や官庁などワクチンを推奨する立場の人が相対リスクを比較したがるのはなぜか

下記のようなことから、ワクチンの心筋炎副作用を心配する人にワクチンを推奨するためには、「ワクチンとコロナのどっちが怖いか」という感情に訴えるしか道がなく、「相対リスクの比較」が感情にうったえる効果が高いので、うってつけだったのだろう。

理由1:本来行うべきリスク・べネフィット評価は困難である

このグラフの目的はワクチンを接種すべきかの判断材料となることであるから、本来であれば「ワクチンを接種する」と「ワクチンを接種しない」の選択を行う意思決定材料としてリスク・べネフィット評価をすべきである。
そしてそのためには、ワクチンを打ってからコロナにかかった場合も計算に入れなければならないし、心筋炎以外のリスクも評価しなければならないし、ワクチンの感染防止や重症化抑止効果も計算に入れなければならない。
しかし、そのためのデータのほとんどは得ることが不可能である。
ワクチンにどの程度害があるかについてのデータに関しては、ワクチンに起因する死亡はどの程度あるのか、ワクチンの後遺症はどの程度発生するかについては、ほとんど報告されておらず、報告されても病変組織の調査がなされていない。
ワクチンがどの程度効果があるかについてのデータに関しては、コロナに感染したことを原因とする死亡のデータは2倍程度に誇張されているし、感染防止効果もワクチン接種からの時間で変化して、逆効果になることもある。
重症化抑止効果については、重症病床の使用者にワクチン未接種者が多いなどの間接的データがあったりするので、ワクチンが重症化を抑止することについてはワクチン慎重派も理解していることが多い。しかし、その他のデータはまったくないといってよい状況である。

理由2:「入院した」というデータと「心筋炎・心膜炎」を発症したというデータは数値化しやすい

このリーフレットが作られた当時、入院した患者は、すべて保健所が把握していると私は思う。また心筋炎関連事象の発生の報告が入院先のコロナ専門病院に義務付けられているのではないか、と私は思う。

理由3:このリーフレットはワクチンの心筋炎副作用にフォーカスして心配する人を対象にしている(と私は思う)

そのような人は基本的にワクチンに懐疑的でないので、そのような人の心をワクチン接種に引き戻すには、心筋炎にだけフォーカスした議論で十分なのだろう。

ワクチンによるコロナ死の相対リスク減少効果を論じていた、ある政党のWebページ

以下、このWebページを「件の政党のWebページ」と呼称することにする。
その件の政党のWebページでは、The Expose によるWebページ
"Whilst you’ve been distracted by Russia’s Invasion, the UK Gov. released a Report confirming the Fully Vaccinated now account for 9 in every 10 Covid-19 Deaths in England – The Expose" (2022年3月1日)
を読んだ人たちによる SNS上の議論やネット新聞の記事、ネットテレビの放送内容などの論調を批判していた。
そのThe Expose によるWebページは、
英国のUK Health Security Agency による
"COVID-19 vaccine surveillance report Week 8"(2022年2月24日付け)、
および "COVID-19 vaccine surveillance report Week 51" (2021年12月23日付け)
というレポートを参照しながら書かれていた。
件の政党によるWebページの日付は 2022年3月23日であり、SNSでの話題に即反応して書かれたものらしい。

SNS上の議論やネット新聞の記事、ネットテレビの放送内容などの論調

主な主張内容は「ワクチンは結局、逆効果だったのではないか」というものである。
その根拠は、"COVID-19 vaccine surveillance report Week 8"(2022年2月24日付け)の Table 12に書かれた数値をもとに集計すると「コロナによる死者の10人中9人がワクチン接種者、死亡したワクチン接種者の5人中4人が3回接種者」となることである。

件の政党のWebページによる批判

接種者の方が致死率が低くても死者の割合が高くなることがあることを説明

「コロナによる死者の10人中9人がワクチン接種者、死亡したワクチン接種者の5人中4人が3回接種者」であることから、ワクチン接種者の方がコロナ死のリスクが高く感じられるが、それは誤解であることを、"COVID-19 vaccine surveillance report Week 9" の Table 10 の注意書きに書かれている下記内容で説明している。
【私の注】「コロナによる死者の10人中9人がワクチン接種者、死亡したワクチン接種者の5人中4人が3回接種者」であることから、ワクチン接種者の方がコロナ死のリスクが高く感じられる現象は「基準率錯誤」(行動経済学では"base rate fallacy"、医療英語では "base rate neglect")と呼ばれ、統計データが引き起こす認知心理学的錯覚現象のうち一番有名なものである。

全年代で未接種者や2回までしか接種していない人の方が3回接種者より致死率が高いことを説明

英国政府の報告書の Table 10 のコロナ感染者数と、Table12 のコロナ死者数の値をもとに、各年代の未接種者と3回接種者の致死率を比較している。
【私の注】これは相対リスク減少効果と呼ばれるものであり、ワクチンのような予防薬の効果を評価するときには、やってはならないことである。
本来は、感染しないケースも考慮した絶対リスク減少効果を評価すべきである。

SNSやネット新聞、ネットテレビで議論している人たちを非難

「誤った結論」を導きがちな集計結果を、これらの人々があたかも意図して書いたかのように非難している
【私の注】基準率錯誤は錯覚現象であって意図して起こす類のものではないので、こんな風に非難してはいけません。

件の政党のWebページにとって、リスク・ベネフィット評価は不要なのだろう

件の政党のWebページは、ワクチンの副作用に関心のある人を読者として想定していないので、ワクチンの副作用のリスクの話題を議論に含める必要がないのであろう。
逆に、ワクチン死を含むワクチンの副作用のリスクを調べている人たちにとっては、件の政党のWebページは全く意味のないものとなっている。

件の政党のWebページが話題にしているのデータを元に、絶対リスク減少効果を計算してみたら・・・

方法

"COVID-19 vaccine surveillance report Week 9" の Table 10 の各欄の数値を、対応する年齢階級の対応する接種履歴(未、1回、2回、3回)の人口で除して絶対リスクを計算することを考えた。
しかし、年齢階級×接種履歴ごとの人口のデータを得ることが困難なので、同一年齢階級での各接種履歴の人口比で代用した。
同一年齢階級での各接種履歴の人口比は、"COVID-19 vaccine surveillance report Week 9" の "Figure 3. Cumulative weekly vaccine uptake by age" に描かれているグラフから目分量で決めた。

結果

Figure 3 を目分量で読み取った値による、同一年齢階級での各接種履歴の人口比
Death within 28 days of positive COVID-19 test by date of death between week 5 2022 (w/e 6 February 2022) and week 8 2022 (w/e 27 February 2022) Not vaccinated Received one dose Second dose Third dose
Under 18 55 20 22 3
18 to 29 30 7 28 35
30 to 39 31 1 23 45
40 to 49 20 2 18 60
50 to 59 12 1 17 70
60 to 69 8 1 7 84
70 to 79 5 2 1 92
80 or over 5 2 3 90

Table 12 を加工して得られたコロナ死の「絶対リスクもどき」の表
∗ 年齢階級×接種履歴ごとの人口を人口比で代用した「絶対リスクもどき」の表なので、異なる年齢階級間で見比べても意味はありません。
Death within 28 days of positive COVID-19 test by date of death between week 5 2022 (w/e 6 February 2022) and week 8 2022 (w/e 27 February 2022) Not vaccinated Received one dose Second dose Third dose
Under 18 0.055 0.050 0.000 0.000
18 to 29 0.100 0.143 0.143 0.057
30 to 39 0.355 1.000 0.348 0.133
40 to 49 1.050 3.000 1.333 0.317
50 to 59 3.750 15.000 2.529 0.929
60 to 69 6.000 15.000 11.143 2.488
70 to 79 19.200 11.000 155.000 5.967
80 or over 34.000 25.000 137.667 20.600

Table 10 を加工して得られたコロナ感染の「絶対リスクもどき」の表
∗ 年齢階級×接種履歴ごとの人口を人口比で代用した「絶対リスクもどき」の表なので、異なる年齢階級間で見比べても意味はありません。
Death within 28 days of positive COVID-19 test by date of death between week 5 2022 (w/e 6 February 2022) and week 8 2022 (w/e 27 February 2022) Not vaccinated Received one dose Second dose Third dose
Under 18 3081.5 2031.4 861.9 367.7
18 to 29 910.4 1494.3 1931.9 2544.3
30 to 39 789.3 6525.0 1939.2 2726.1
40 to 49 661.4 1630.5 1441.9 2274.5
50 to 59 489.3 1417.0 707.6 1699.3
60 to 69 282.9 617.0 578.7 897.6
70 to 79 186.4 151.0 1501.0 492.5
80 or over 151.0 148.0 602.3 299.9

考察

目分量で決めた人口比を使って作成した表であるので、参考にしかならないが、次のような発見があった。

表を作る前の予想
アドバイザリボードの資料「ワクチン接種歴別の 新規陽性者数(5/16-5/22)」 の中のワクチン接種歴別の 新規陽性者数の表から次のように予想していた。 また、ツイッターなど、Web上の情報を総合して、次のように予想していた。 しかし私の作った表は予想に反する結果となった 「重症化リスクが高くなる都度、追加接種すればよい」、という意見の人もいると思うが、私のようにワクチンのリスクを重大に考える人には到底受け入れられない。
こうしたことから、SNSでの議論の論調「ワクチンは結局、逆効果だったのではないか」は、的外れではなかったと思う。

参考文献



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