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2013/09/27 21:45:33

Chalmers の論文

数学オリンピックで銅メダルをとってから哲学者になった Chalmers の論文が連続金額分布の計算方法をよくまとめているので内容を整理してみました。

Chalmers, D.J. 1994.
The two-envelope paradox: A complete analysis? の内容

冒頭で「封筒を開けてから交換型」の二封筒問題のパラドックスを次のように式で表している。
選んだ封筒の金額の確率変数をA,もう一方の封筒の金額の確率変数をBとする。
全てのnについて (B>A|A=n) = 0.5 らしいから E(B|A=n) = 1.25n
ゆえに E(B)=1.25E(A)。

私の注:
E(B) =
(E(B|A = n)P(A=n))の総和/P(A=n)の総和
= (1.25n P(A=n)) の総和
= 1.25(n(P(A=n) の総和)
= 1.25E(A)
金額分布が連続の場合は、「総和」を「nによる積分」と読み替えてください。

したがって E(B),E(A) ともに0より大なら E(B) > E(A)となる。
A,Bを入れ替えてもなりたつから、E(A) > E(B) となってしまう。
しかし対称性から E(A) = E(B) でなければならない。
どこで間違ったのか?


現実の通貨がdiscreteであることや、世界全体の通貨の量に上限があることは この問題にとって本質的でないので、金額として任意の正の実数値をとれるものとしている。

この論文の中では金額ペアの確率密度関数を少額側の金額 x の関数 g(x) で表している。

p(B>A|A=n) = 0.5 とならない具体例をあげている。

F. Jackson, P. Menzies, and G. Oppy, `The Two Envelope "Paradox"', Analysis 54:43-45. の説を紹介している。
現実的な金額分布は上限と下限がある
A が中間的なら、B が Aより大と BがAより小の確率は等しい。
A が小さければ、B はAより小になりやすい。
A が大きければ、B はAより大になりやすい。
よって、パラドックスは消え去る。


P. Castell and D. Batens, `The Two-Envelope Paradox: The Infinite Case'. Analysis 54:46-49.
の説を紹介している。
数学的には上限下限のない確率分布も許さなければならない。
実数上の一様分布を考えると全ての n について p(B>A|A=n) = 0.5となるが しかしそのような確率分布は存在しない。

・・・Charmers による P. Castell らの説の詳しい紹介は省略・・・

P. Castell ら は proper 分布ならAが十分大きければBはAより小になりやすいから パラドックスは起きなそうだと考えて、 パラドックスが起きる確率分布は improper でなければならないことの証明を提案した。


これに対してDavid J. Chalmers は P. Castell らが出発点としている計算式の誤りを指摘している。
P. Castell ら
p(B>A|A=n) = g(n)/(g(n) + g(n/2))

正しくは
p(B>A|A=n) = 2g(n)/(2g(n) + g(n/2)


「交換して倍になる確率と半減する確率が共に等しく0.5である」 ことと、 「2g(x) = g(x/2) である」 ことが同値であると述べている。
私の注
少額側の確率分布をg(x)、高額側の確率分布をf(x)とすると 少額側の確率分布を2倍に広げて半分に潰したものが高額側の確率分布であるから
f(x) = g(x/2)/2
したがって、
「交換して倍になる確率と半減する確率が等しい値 0.5である」ということは、 f(x) = g(x) と同値、
したがって、 g(x/2)/2 = g(x) と同値、
したがって、 2g(x) = g(x/2) と同値である。


連続した範囲で交換期待倍率が1.25 倍になるような確率分布を工夫している。
g(x) = 1/x という関数を確率密度関数の材料にして、
金額の上限下限を設定し、適当な係数を掛けて確率密度の積分が1になるようにすると、
少額側と高額側の変域の重なる部分で交換期待倍率が 1.25倍になる。

私の注:
2013/09/22 に係数 k を考慮するようにしました。
少額側の確率分布をg(x) = k/x とし、高額側の確率分布をf(x)とすると 少額側と高額側の変域の重なる部分で
f(x) = g(x/2)/2 = k/x = g(x)


全ての範囲で交換期待倍率が1より大であるような確率分布も工夫している。
g(x) = x-1.5 という関数を確率密度関数の材料にして 金額の下限Lを設定し、適当な係数を掛けて確率密度の積分が1になるようにすると、

2Lより小さな金額nではもう一方の封筒の金額の期待値は2n

2L以上の金額nでは
2g(n) : g(n/2)
= 2n-1.5 : (n/2)-1.5
= 1 : 20.5
よって 2013/09/27 に次の行を修正しました。
もう一方の封筒の金額の期待値は (2n + (20.5n/2) / (1 + 20.5) = 約1.12n となる。

私の注:
2g(n) : g(n/2)
= g(n) : g(x/2)/2
= g(n) : f(n)


直観的に理解できる金額分布の例も示している。

私は直観的に理解できなかったので内容を省略します。


期待金額が∞であることの意味を検討している。
上記の確率分布では期待金額が∞である。
例えば
  g(x) = x-1.5 (x>=L)
の場合、 期待金額 integral[L, ∞] x-0.5dx は∞である。

しかし、期待金額が無限大なら

Bの期待値 = 1.12Aの期待値



Aの期待値 = 1.12Bの期待値

が同時に成り立ってもおかしくない。


最終ステップとして、 期待金額が有限ならパラドックスが起きないことを示している。
全てのnについてE(B|A=n) > n であるような状況が最も強い形式のパラドックス状況である。

hをAの確率密度関数とすると
h(x) = (g(x) + g(x/2)/2)/2
= (2g(x)+g(x/2))/4.

私の注: (g(x) + g(x/2)/2)/2 はxが少額側である確率と高額側である確率の和の半分

E(B|A=x) を値とする確率変数をKとする。

E(K-A) = integral[0,infinity] h(x) (E(B|A=x) - x) dx   (1)
= integral[0,infinity] ((2g(x) + g(x/2))/4) ((2x.2g(x) + x/2.g(x/2))/(2g(x)+g(x/2)) - x) dx   (2)
= integral[0,infinity] (2xg(x) - x/2 . g(x/2))/4 dx   (3)
= (integral[0,infinity] 2xg(x)dx - integral[0,infinity] 2yg(y)dy)/4   (4)
= 0   (5)

(4)と(5)は integral[0,infinity] xg(x)dx すなわち、E(A) が有限のときに限り正しい。

ゆえに、E(A)が有限のときは、B が A と独立でないときですら、 A から B に交換すべきだという結論は得られない。

この結論の系
E(A) が有限のとき、「全ての n について E(B|A=n) > n」 ということは成り立たない。
つまり、強い形式のパラドックス状況はあり得ない。

E(A)が∞のときは、E(A) = E(K) (どちらも∞) で E(K-A) > 0 ということがあり得る。

この状況は、有限の確率変数の期待値が∞であるという点で、 古典的なセントペテルスブルグのパラドックスをしのばせる。


しめくくり
有限の値と∞の期待値が組み合わさった直観に反する結論を導けたとしても、 直観的にその結果を想像することは∞が関係しているときにはできないものだ。


読んだ後で

下記の文献も同じようなテーマを扱っているので、読み比べると面白いでしょう。

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