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2019/05/29 0:05:40
初版 2019/05/29

James Cargileの論文

Cargyle, J. (1992)は哲学論文として最初期の論文で、被引用数も 2019年5月 Google Scholar 調べで重複を除いても 7 と比較的高く、Jackson, F., Menzies, P., & Oppy, G. (1994). などいくつかの著名な哲学論文も引用している論文なので、調べてみました。
哲学論文誌に載ったのが 1992 年なので、二つの封筒問題ができた 1987 年ごろの約 5年後になります。哲学者による論文で私が知っている最も初期のものです。
以下、その論文を 「この論文」 と呼ぶことにします。

この論文の内容の要約

以下、この論文の内容の要約を試みました。

パラドックスの提示

下記のような流れで、二つの封筒問題のゲームの紹介からパラドックスの提示までが書かれています。

ゲームのルール
  • 「あなた」は、お金の入った二つの封筒 e1とe2から一つを選ぶことができる。
  • 二つの封筒の片方が他方の2倍の金額である。

私の注 1:
この論文を通して、効用を感じる主体は「あなた」です。

私の注 2:
封筒の交換や封筒の選択の変更など、通常の問題文で重要なアクションに触れていない点が特筆すべき特徴です。

私の注 3:
封筒に入れる金額の決め方が書かれていないので、普通の人は金額の組み合わせに制限を付けないと思いますが、特定の一組の金額ペアだけを考える人も中にはいるかも知れません。 特定の一組の金額ペアを考える人はそのペアを a と 2a などのように書く傾向がありますが、この論文ではそうした記述がないので金額ペアを限定していなさそうです。


パラドックス
パラドックスに関する記法
  • 「封筒 e1 を選んだ」という命題をE1で表す。
  • 「封筒 e1 が高額側だ」という命題をLで表す。
  • 命題 P の否定を¬Pで表す。
  • 命題 P、Q の和(選言)を P?Q で表す。
  • 命題 Q という条件での命題P の効用を U(P/Q)で表す。
  • 封筒 e1, e2 の金額をそれぞれm, n で表す。
  • 命題 Pの確率をPr(P)で表す。
パラドックスの提示
U(E1/L?¬L) > U(¬E1/L?¬L) かつ U(¬E1/L?¬L) > U(E1/L?¬L)
理由:
U(E1) = 2nPr(L)+(n/2)Pr(¬L) = 1.25nで、同時に U(¬E1) = n.。
U(¬E1) = (m/2)Pr(L)+2mPr(¬L) = 1.25mで、同時に U(E1) = m.。

私の注:
封筒 e1と e2 の選択に関するパラドックスを論じていると解釈すべきなのかも知れません。そうすると「開ける前に交換型」の二つの封筒問題の一種なのかも知れません。

パラドックスの解決

ある段落とそれに続く1文だけの段落に次のような意味のことが書かれています。
  • 標準的な方法(the standard method)において e1の金額と e2の金額の両方を使うことが問題の元なのかも知れない。
  • 計算に使うdesignationのmodeに制限を加えることが必要かも知れない。
  • m と n について "modes of designation" に関する疑問が投げかけられいますが、私の意見ではこの点について論理的な誤りはない。
    しかし、最初にe1の金額の観点で (in terms of)、次にe2の金額の観点で (in terms of) 標準的な方法を使用することが問題のもとかも知れない。
  • 標準的な方法に対して、計算に使える "mode of designation" の観点で制約が必要かも知れない。

私の注 1:
この論文の中の "A restriction on the standard method might this be put in terms of the mode of designation allowed for the calculation." という文で予想している制約を適用したならば、次のようになると思います。
パラドックスの解明:
Um, Un でそれぞれm, n を基準とした期待効用を表すと次のようになる。
確率がいずれも 1/2 であるようなケースを考える。
Un(E1) = 2nPr(L)+(n/2)Pr(¬L) = 1.25nで、同時に Un(¬E1) = n.。
Um(¬E1) = (m/2)Pr(L)+2mPr(¬L) = 1.25mで、同時に Um(E1) = m.。
従って、Un(E1) > Un(¬E1)で、同時に Um(¬E1) > Um(E1)となるが矛盾はない。 したがって確率がいずれも 1/2 であるようなケースにおいても上記のパラドックスは発生しない。

私の注 2:
数学的標準説では、m, n のそれぞれを基準とする期待効用を区別するだけでなく、確率が一般的には 1/2 でないことの考慮も必要だとしますが、この論文で提示されたパラドックスを解明するにはそこまでする必要はありません。

私の注 3:
この論文の執筆者も m を基準とする期待効用と n を基準とする期待効用の大小比較に意味がないことに気づいているので、条件付期待値の概念に近づきつつあるように見えます。条件付期待値を考えた場合には二つの封筒が同等でないこともあるという数学的理解にも近づいているかも知れません。

私の注 4:
この論文を通して "probability" はもちろんのこと、"long run" とか "trial" とかいう文言がよく出てくるので、確率の計算がポイントだと考えているようです。 確率分布の考慮は必要ないと考えている他の多くの哲学論文との大きな違いです。

アリババ型問題文に関する考察

アリババ型のルール
mと nの組み合わせが次のようにして定まる。 他は前掲のルールと同一。
  • 最初に mを定める。
  • 次にコイントスの結果に従って、つまり確率 1/2 で n=2m、あるいは n=m/2 と定める。

私の注:
封筒 e1 に入れる金額(種金額)の決め方が書かれていないので、普通の人は特定の種金額だけ考えることはないと思いますが、この論文の執筆者がどうなのかは判然としません。
特定の種金額だけを考える例として、例えば種金額が $4 だとすると ($2, $4) と ($4, $8) の二組の金額ペアだけを考えることになります。

期待効用に関する基本的な計算
  • 封筒 e2 を選択する方が e1 を選択する方より 25%有利である。
  • 試行を繰り返すと e1 の選択と e2 の選択は同率になる。あなたが勝つときの利得が負けるときの損失を上回るので、平均で 25%以上を得る。(私の注)

私の注: 「25%以上」のくだりは誤りで「試行を繰り返した結果は m の平均を 12.5% 上回る」が正しいと思います。

nを使ってU(E1)やU(¬E1)を計算することに関して
n を使ってU(E1)やU(¬E1)を計算することの誤りを説明しています。その内容を要約してみました。
  • 「mが nの2倍である確率が1/2である」という言葉は二通りに解釈できる。
    解釈Ⅰ : 試行を多数回繰り返すと半分のケースで mが nの2倍になる傾向がある。
    解釈Ⅱ : 試行を多数回繰り返すと、「そのn」 に対して、半分のケースで mが nの2倍になる傾向がある。
  • mが $1だった20回の試行を考えると次のようになる。
    • m=$1, n=$0.5 が10回
    • m=$1, n=$2 が10回
    よって確率はこうなる。
    • それぞれ10回なので n=2m という命題の確率と n=m/2 という命題の確率はともに 1/2 である。
    • ところが n=$2の場合、n=2m という客観的チャンスの確率と n=m/2 という客観的チャンスの確率はそれぞれ、0, 1 である。
    • 同様に n=$0.5の場合、n=2m という客観的チャンスの確率と n=m/2 という客観的チャンスの確率はそれぞれ、1, 0 である。
    従って、解釈Ⅱは誤りである。

私の注 1:
後の方に「 e1 と e2 の間の選択」という文言が出てくるので、プレイヤーの「あなた」は封筒 e1 と e2 を区別できるらしいです。
Jackson, F., Menzies, P., & Oppy, G. (1994). ではこの論文を引用するときに 「e1」 を「赤い印のついた封筒」、「e2」 を「印のついていない封筒」と言い換えています。

私の注 2:
命題の確率と客観的チャンスの確率は、数学で云うところの非条件付確率と条件付確率に、それぞれ該当するように思います。

私の注 3:
非条件付確率と条件付確率の区別の重要性を説くことがアリババ型問題を論じた目的かも知れません。

m と n に関する命題の確率と 「そのn」を基準とする客観的チャンスの確率の性格の違いについて
原文が難しいので正確ではないと思いますが、それぞれの確率の性格の違いに関する説明の一部を要約してみました。
  • 問題における唯一の本物の偶然手順は、金額n が存在する前に行われたものであり、これは n ではなく m の特徴である。
  • e1の金額m を倍にする客観的なチャンスは1/2であるが、e2の金額n を半分にする客観的なチャンスは0または1なので、 真の偶然の問題ではないと言うことができる。

m の確率分布について
m の値の確率分布を考慮する数学的方法は無用だという意味の文が最後に書かれています。
  • 私のアプローチは、封筒 e1と e2 からの選択が、一つの未知の金額から公正なコイン投げで2倍または半分になる賭けを提示されることと因果的に同等であるという単純な仮定に基づいている。
  • この観点に立てば、e1の金額の確率の難しい話題は無関係である。

私の注 1:
e1の金額の確率分布に言及しているので m の値を特定の一つに限定しない考え方もあることをこの論文の執筆者は理解しているようにも見えます。
しかし、この論文では n の値を基準とした確率が 1 か 0 だというスタンスなので、基本的には m の値を1つに限定しているようにも見えます。

私の注 2:
この論文を引用している Jackson, F., Menzies, P., & Oppy, G. (1994). では金額の上限を考える手法をアリババ型問題文にも適用しようとしているので、その点がこの論文との大きな違いだと思います。

私の注 3:
種金額 m の値を1つに限定しながら確率分布を考えるのは心理的に抵抗があります。しかしそのことは確率分布を考えないことを正当化しません。

この論文が二つの封筒問題の歴史に与えた影響

以下の理由から、この論文が哲学者による二つの封筒問題の議論が始まるきっかけになったと思います。

参考文献

用語解説



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