モンティ・ホール問題好きのホームページ    プライバシーポリシー

トップページに戻る
2019/10/01 0:37:47
初版 2019/10/01

Jeremy J. Siegelの論文

Siegel, J. J. (1972)という論文が、二つの封筒問題のパラドックスとよく似たシーゲルのパラドックスが考案されるきっかけになったらしいので、調べてみました。
以下、その論文を 「この論文」 と呼ぶことにします。

この論文 (Siegel, J. J. (1972)) の内容の抜粋

以下、この論文の内容からシーゲルのパラドックスに関係する部分を抜粋します。

第1章 リスク中立の下での外国為替価格と利率の関係

使用している記号
記号 意味
c0 外国通貨の自国通貨建てスポット価格
cta 時間t における外国通貨の予想スポット価格
ctf 時間t における外国通貨の先物レート
rtd 自国利率の時間t における値
r0 自国利率の現在値
rf 外国利率


予想為替レートの平均と先物価格の関係式
次のように計算を進めています。
  • 投資家がでリスク中立のとき、E を統計平均オペレータとすると、国内証券と外国証券の利回りの同等性から
    (1) exp(rtdt) = E[c0×exp(rft) / cta] = exp(rft) ×E(c0/cta).
  • 先物レート ctf に対して裁定取引の条件が成立すると
    (2) exp(rtdt) =exp(rft) × (c0/ctf).
  • cta が正の分散を持つ場合
    (3) E(c0/cta) > c0/E(cta).
  • (1), (2), (3) から
    (4) E(cta) > ctf.

私の注1 :
この論文の式(1) や (2) に、複利計算を指数関数で近似する方法が関係していそうだと思って調べたところ、 日本語販 Wikipedia の「複利」の記事 (2019年4月8日 (月) 11:06 のリビジョン) に次のような式が書かれていました。
元金を a とし、単位期間当たりの利率を r として、期間t での元利合計を期間 t の分割数 n → ∞ として計算すると次のようになる。
a limn→∞[1 + r × (t/n)]n = a × exp(rt).
これで式(1)や(2)に指数関数が出てくるわけがわかりました。
為替取引が頻繁に行われているのであれば、n→∞ とすることも、あながち乱暴な近似でないのでしょう。

私の注2 - 式(1) について -:
exp(rtdt) が国内証券の利回りを表し、
E[c0×exp(rft) / cta] が外国証券の利回りを表していると思います。

私の注3 :
「cta が正の分散を持つ場合」というくだりは、イェンセンの不等式を前提にしていると思います、

パラドックスの認識
式(4) が意味するパラドックスを論じています。
投資家がリスク中立でも、予想スポット価格の期待値は先物価格よりも大きい。
注意すべきは、次の関係式から、外貨建て自国通貨について、このパラドックス的な関係は成立しないことである。
C = 1/c と置くと、E(Cta/C0) = E(Cta)/C0.
ただし、自国通貨の単位が自然数であるため、前述の分析は適切な定式化である。

私の注1:
この論文ではパラドックスがあってもなくても気にしていないように思えました。

私の注2:
「シーゲルのパラドックス」という言葉は、この論文を引用している下記の論文で使われ始めたようです。

この章の後半
外国通貨の予想将来価格と利率との関係式を求めていて、シーゲルのパラドックスとは全く関係なさそうです。

これより後の章

「第2章 スポット価格が固定の場合への応用」と最後の「結論」の章はシーゲルのパラドックスと関係なさそうなので、詳しく調べませんでした。

シーゲルのパラドックスの簡素化

利率の効果を無視
この論文の式(1),(2) の中の exp(rtdt) と exp(rft) の比が α 対 1 に固定だとすると、次のようになります。
  • 投資家がでリスク中立のとき、E を統計平均オペレータとすると、国内証券と外国証券の利回りの同等性から
    (1) α = E(c0/cta).
  • 先物レート ctf に対して裁定取引の条件が成立すると
    (2) α = (c0/ctf).
  • cta が正の分散を持つ場合、イェンセンの不等式から
    (3) E(c0/cta) > c0/E(cta).
  • (1), (2), (3) から
    (4) E(cta) > ctf.

上記をさらに簡素化したものが、Beenstock, M. (1985)でシーゲルのパラドックスとして紹介されています。
  • イェンセンの不等式から
    (1) E(cta) > 1/(E(1/cta)).
  • 裁定取引の条件が成立するとき、シーゲルの仮定によると、先物レート ctf に対して
    (2) 1/ctf = E(1/cta).
  • (1), (2) から
    (3) E(cta) > ctf.

Beenstock, M. (1985)Roper, D. E. (1975). による解決が引用されていることから、シーゲルが発見したパラドックスから利率に関係する部分をそぎ落としたものが、いわゆる「シーゲルのパラドックス」として普及し始めていたのかも知れません。

私の感想

この論文の式(1) も (2) もあやしい
この論文の式(1) に「予想将来スポットレートの平均」が出て来ますが、ちがっているような気がします。
式(2) を見ると先物レートだけで国内利率と外国利率の比が決まることになりますが、ちがっているような気がします。

そもそもパラドックスでない?
式(1)、(2)では先物レートが固定されているようなので、予想将来レートの平均より下回っても不思議でないような気がします。
現実の将来レートの平均より先物レートが常に下回っていたら、先物を買って売ることを繰り返すと必ずもうかりますが、そんなことをしている人がいないようなので、予想でない現実の将来レートについてはパラドックスが成立しなそうです。

二つの封筒問題風のシーゲルのパラドックス

予想将来レートも先物レートも出てこないシーゲルのパラドックスもあって、私が知っているものは為替レートが倍や半分になる確率が等しい場合を考えたりしていて、二つの封筒問題とそっくりです。 Black, F. (1989)がその例で、オレンジとリンゴを為替に見立てています。(英語販 Wikipedia の記事 "Siegel's paradox" の 01:22, 1 September 2019 のリビジョンで引用されています)

参考文献

用語解説



トップページに戻る