トップページに戻る
こうした哲学者たちの論文を調べているうちに、Frank Jackson, Peter Menzies, and Graham Oppy の論文がこうした風潮の切っ掛けとなったらしいことに気づきました。
この論文の中で金額ペアを一組にに限定する計算方法に言及していますが、二つの封筒問題の解として取り上げているわけではなさそうです。
短い論文ですが、いくつものテーマを書いていて理解しづらい論文です。 しかし、二つの封筒問題が今日 (2017/05/26現在)も混乱が続いているきっかけになった論文だと思うので、内容を整理してみました。
冒頭で「封筒を開ける前に交換型」の二封筒問題のパラドックスを次のように表している。
次に間違った判断をさせない期待値があることを述べている。
最初の間違った期待値計算式のどこがおかしいか分析している。
唐突にアリババ型問題文によく似た問題を取り上げている。
次に金額に上限がない場合を考えている。
トップページに戻る
2018/06/29 2:05:03
初版 2017/05/26
Frank Jackson, Peter Menzies, and Graham Oppy の論文
1994年ごろから、一組の金額ペア だけで期待値を考えることが二つの封筒問題の解決だと考える哲学者が現れ初め、2005年ごろから英語版の Wikipedia の "Two envelopes problem" の記事の中で主要な解として取り上げられ続けています。こうした哲学者たちの論文を調べているうちに、Frank Jackson, Peter Menzies, and Graham Oppy の論文がこうした風潮の切っ掛けとなったらしいことに気づきました。
この論文の中で金額ペアを一組にに限定する計算方法に言及していますが、二つの封筒問題の解として取り上げているわけではなさそうです。
短い論文ですが、いくつものテーマを書いていて理解しづらい論文です。 しかし、二つの封筒問題が今日 (2017/05/26現在)も混乱が続いているきっかけになった論文だと思うので、内容を整理してみました。
Jackson, F., Menzies, P., & Oppy, G. (1994). The two envelope'paradox の内容
(2017/06/01 に修正)冒頭で「封筒を開ける前に交換型」の二封筒問題のパラドックスを次のように表している。
次のような 「開ける前に交換型」 の問題文を示している。
次の理由でこの式が間違っているとしている。
選んだ封筒を A、もう一方の封筒を B とする。
A の中身を $x と置く。 (封筒はまだ開けていない)
B の中身の期待値 =0.5 × $2x + 0.5 × $0.5x = $1.25x.
A の中身を $x と置く。 (封筒はまだ開けていない)
B の中身の期待値 =
次の理由でこの式が間違っているとしている。
- 封筒を開けるまでは二つの封筒の状況は対称的なのだから交換が有利になるのはおかしい。
- もう一方の封筒を選んでも交換有利になるのでおかしい。
私の注:
一方の封筒の金額を思い浮かべたことにより期待値計算上の対称性はなくなっています。
開けてから交換型の場合、どちらの封筒を選んでも、交換有利になる例を簡単につくることができます。
結局、選んだ封筒の金額を思い浮かべたときに交換が有利になる計算方法を好まないという態度を、この論文の執筆者たちが表明しているに過ぎません。
一方、数学的な解は次のようになります。
一方の封筒の金額を思い浮かべたことにより期待値計算上の対称性はなくなっています。
開けてから交換型の場合、どちらの封筒を選んでも、交換有利になる例を簡単につくることができます。
結局、選んだ封筒の金額を思い浮かべたときに交換が有利になる計算方法を好まないという態度を、この論文の執筆者たちが表明しているに過ぎません。
一方、数学的な解は次のようになります。
思い浮かべた金額を条件として条件付期待値を予想すると交換有利になったり交換不利になったりする。
しかし、平均値が有限な場合には、期待値の平均をとると交換が有利でも不利でもない結果になるので、封筒同士の同等性は損なわれていない。
さらに言うと、封筒を開ける前に思い浮かべた金額を条件として条件付期待値を予想しても意味がないと思う人にとっての二つの封筒問題は、そもそも数学の問題ではないので、好きなように考えればよいのです。
しかし、平均値が有限な場合には、期待値の平均をとると交換が有利でも不利でもない結果になるので、封筒同士の同等性は損なわれていない。
次に間違った判断をさせない期待値があることを述べている。
次のように一組の金額ペアで期待値を計算すれば交換有利にならないことを示している。
A の中身が $x なら B の中身は $2x。
A の中身が $2x なら B の中身は $x。
よって、A の中身の期待値と B の中身の期待値は等しく $1.5x。
A の中身が $2x なら B の中身は $x。
よって、A の中身の期待値と B の中身の期待値は等しく $1.5x。
私の注:
数学の得意な人にとっては無意味で当たり前な記述に過ぎません。
こういう蛇足を書いてしまったために哲学者たちを惑わしたのかもしれません。
数学の得意な人にとっては無意味で当たり前な記述に過ぎません。
こういう蛇足を書いてしまったために哲学者たちを惑わしたのかもしれません。
最初の間違った期待値計算式のどこがおかしいか分析している。
二つの計算方法の違いを示している。
そして金額の最大値を考えて、最初の式の確率が常に 1/2 ではあり得ないことを示している。
-
最初の式
"B の中身の期待値 =0.5 × $2x + 0.5 × $0.5x = $1.25x"
では $x が封筒 A の金額だけを示している。 -
後の式
"A の中身の期待値と B の中身の期待値は等しく $1.5x"
では $x が封筒 A の金額だったり B の金額だったりしている。 -
前の式ではある封筒の金額 $x が何であれ他の封筒の金額が等しい確からしさで $2x または $0.5x であることを仮定している。
しかしこの仮定はこのパズルの設定に含まれていない。
(↑ 2018/05/14 追加)
そして金額の最大値を考えて、最初の式の確率が常に 1/2 ではあり得ないことを示している。
私の注:
「最初の式の確率が常に 1/2 ではあり得ないことを示している。」 と私が解釈したのは、次のような文章があるためです。
確率が常に 1/2 だという間違った仮定を暴いたことによりパラドックスは解決したと言っているのかも知れないし、 前の式を訂正するなら後の式に変更するしかないと言っているのかも知れないからです。
「最初の式の確率が常に 1/2 ではあり得ないことを示している。」 と私が解釈したのは、次のような文章があるためです。
This means that the first way of doing the calculation involves supposing that for any value of x, if $x is the amount of money in some particular envelope, it is equally likely that $2x or $0.5x is the amount in the other envelope.
しかし、確率が常に 1/2 ではあり得ないということの意味はあいまいです。
確率が常に 1/2 だという間違った仮定を暴いたことによりパラドックスは解決したと言っているのかも知れないし、 前の式を訂正するなら後の式に変更するしかないと言っているのかも知れないからです。
唐突にアリババ型問題文によく似た問題を取り上げている。
James Cargile とかいう人が考えた変形問題を取り上げている。
この変形問題では金額の最大値を考える方法を採用できないと言っている。
- 最初の金額を赤い印のついた封筒に入れる。
- 確率半々で2倍または半分の金額をもう一方の封筒(無印)に入れる。
- プレーヤーは赤い印の意味を知っている。
この変形問題では金額の最大値を考える方法を採用できないと言っている。
私の注1:
変形問題では無印の封筒が常に有利だということを言いたいのだと思います。
私の注2:
最大値の半分を超える金額が印の付いた封筒に入る可能性があるという考え方はあやしいです。
最初の金額を入れるときに、そのくらいのことは考えるでしょう。
考えないでいれてしまうなら、考えないで入れた最大値の2倍が正味の最大値でしょう。
私の注3:
(2018/06.27 追加。2018/06/29 修正)
Cargyle, J. (1992)に出てくる変形問題が上記の変形問題の元になっていると思います。
Cargyle, J. (1992)では次のような意見を述べていて、この論文で「印のついた封筒を選ぶと他方の金額が確率半々で倍または半分である」と述べているのは、これを参考にしているのだと思います。
変形問題では無印の封筒が常に有利だということを言いたいのだと思います。
私の注2:
最大値の半分を超える金額が印の付いた封筒に入る可能性があるという考え方はあやしいです。
最初の金額を入れるときに、そのくらいのことは考えるでしょう。
考えないでいれてしまうなら、考えないで入れた最大値の2倍が正味の最大値でしょう。
私の注3:
(2018/06.27 追加。2018/06/29 修正)
Cargyle, J. (1992)に出てくる変形問題が上記の変形問題の元になっていると思います。
Cargyle, J. (1992)では次のような意見を述べていて、この論文で「印のついた封筒を選ぶと他方の金額が確率半々で倍または半分である」と述べているのは、これを参考にしているのだと思います。
封筒 e1 の金額 m を種金額にして封筒 e2 の金額 n を 確率半々で m の半分や倍にするようなケースを考えると次のようになる。
選んだ封筒が e1 の場合、e2 の金額が倍である確率は e1 の金額によらず 1/2 である。
しかし、選んだ封筒が e2 の場合、e1 の金額が倍である確率は e2 の金額によって 0 だったり 1 だったりする。
Cargyle, J. (1992)は確率に重点を置いて議論しているので数学的標準説に近そうに思いましたが、私の勘違いのようです。事前確率を議論の出発点にすることに批判的な文章もあるからです。
選んだ封筒が e1 の場合、e2 の金額が倍である確率は e1 の金額によらず 1/2 である。
しかし、選んだ封筒が e2 の場合、e1 の金額が倍である確率は e2 の金額によって 0 だったり 1 だったりする。
次に金額に上限がない場合を考えている。
無限大までの一様分布を考えているようにも見えますが、数学的記述でないのでよくわかりません。
計算上は常に交換有利になるが、封筒の対称性から交換有利と判断できないと主張した後、 このような金額分布では、通常の期待値計算式は適用できないと結論づけている
・・・ように読めます。
計算上は常に交換有利になるが、封筒の対称性から交換有利と判断できないと主張した後、 このような金額分布では、通常の期待値計算式は適用できないと結論づけている
・・・ように読めます。
私の注:
期待値が常に交換有利になるパラドキシカル分布の問題は、オリジナルの二つの封筒問題とは別次元の問題だとするのが数学的な考え方ですが、この論文の執筆者の考えはそれに近いのかもしれません。
期待値が常に交換有利になるパラドキシカル分布の問題は、オリジナルの二つの封筒問題とは別次元の問題だとするのが数学的な考え方ですが、この論文の執筆者の考えはそれに近いのかもしれません。
読んだ後で
この論文が哲学者たちに影響を与えて論文を書かせたのは、次のような特性を持っていたためだと思います。- 哲学論文誌の Analysis に載って、哲学者たちの目に触れたこと。
-
初めの方に出てくる
E=(1/2)2A+(1/2)A という式を 「正しい計算」 と形容していること。
(そのため、この式が本題の枕に過ぎないことが、読者の哲学者たちには理解できなかったかもしれません。) -
アリババ型の変形問題など副次的なテーマや金額が無限大になるような別次元のテーマも述べているので、確率が 1/2 とは限らないという標準的な解の重要性がぼけていること。
(そのため、読者の哲学者たちには標準的な解の重要性が理解できなかったかもしれません。) - 封筒を開けてから交換型の場合に必要となる確率計算の知識を必要としないこと。
参考文献
-
Cargyle, J. (1992)
On a Problem about Probability and decision
Analysis 52, 211{216.
用語解説
-
数学的標準説
私の造語です。
パラドックスの原因となった "E=(1/2)(x/2) + (1/2)2x " という期待値計算式の確率 1/2 に間違いを認める説です。
実際に人間の頭の中で生じた錯誤 (fallacy) を説明していて最も自然な説、あるいは最も素朴な説です。
-
アリババ型問題文
私の造語で、次のような問題文を指します。
最初にアリさんの封筒の金額が決まり、次にババさんの封筒の金額が決まります。
ババさんの金額は半々の確率でアリさんの金額の倍か半分になります。
下記はアリババ型問題文を紹介している論文の初期のものです。
Nalebuff, Barry.(1989). The other person's envelope is always greener. Jounal of Economic Perspectives 3 (1989) 171-181.
この中に Ali さんと Baba さんという名前が出てくるので、それにちなんで「アリババ型問題文」と私は呼んでいます。
トップページに戻る