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パラドキシカル分布を「封筒を開ける前に交換型」と「封筒を開けた後に交換型」の二封筒問題に当てはめたときの数学的混乱について、考えたり、文献を調べたりしました。
二封筒問題のパラドキシカル分布参照
まったく同じ確率分布で「封筒を開ける前に交換型」の二封筒問題を考えたら、こちらの方も常に交換した方がよいのではないか、と心配になってきます。
これは数学者も手こずる錯覚らしく、いくつも論文が書かれていて、下記の文献が参考になります。
Norton, J.D. 1998.
Chalmers, David J. (2002).
シュレーディンガーの猫との類似性
上記の話は 「シュレーディンガーの猫」 とよく似ています。
一方、封筒を開けなかった場合に両方の封筒が互角に見えるのは、金額の確率分布が同一であるからです。
つまり条件付き期待交換利得が常にゼロより大であることと、封筒を開ける前には交換しても意味がないこととの間に矛盾はありません。
封筒を開けた場合と開けなかった場合で封筒を比較する基準が異なることから、他方の結果からもう一方の結果に対する制約がなくてもおかしくないからです。
2013/09/07 に私は、この錯覚は「数学的」錯覚ではなく「心理学的」錯覚らしい、と気づきました。
2013/09/25 に以下の冗長な部分をすっきりさせ、2013/12/31 にあやふやな部分を削除して簡素化しました。
上記の謎めいた思考を整理すると次のようになります。
言い換えれば、封筒の中の金額すべてについて、その金額を証拠事象とする期待交換利得が 0 より大となったことを理由に、封筒を交換した方が有利であると結論する 「数学的推論規則」 はなくて、あるのは 「直観的推論規則」 だけだからです。(少なくとも私の数学知識の範囲では)
こういったことから、パラドキシカル分布の謎は封筒を開けた後に使える基準が開ける前にも使えるだろうと錯覚する心理現象なのかもしれません。
二封筒問題のルールを次のように変えると、封筒を開ける前にはどちらも互角だという確信があやしくなってきます。
このようなルールでしかもパラドキシカル分布の場合、次のような悩みが発生します。
2013/12/31 に下記を書き足しました。
また、このようなルールの場合、封筒を開けたら開けてない封筒の方が有利で、開けなければ選んだ封筒の方が有利だということも起こり得ます。(交換期待倍率にもよりますが)
従って、開ける前の封筒を比較する基準と、開けた後の封筒を比較する基準は異なっていてよさそうです。
2014/01/16 に表題を 「平均値が∞だということの意味に立ち返れば解決するかも知れない」 から 「平均値が∞だということの意味に立ち返っても無駄らしい」 に変えました。
二封筒問題の金額の平均値が金額を表す確率変数の値に確率密度を掛けて(0, ∞) で積分したものだということを思い出すと、ヒントが得られるかも知れません。
つまり、 確率変数の値に確率密度を掛けて(0, ある値) の範囲で積分した結果について、「ある値」を∞まで大きくして行ってときの極限値が平均値だということを思い出すのです。
平均値が∞であるような二つの確率分布を比較するためには、「ある値」を∞まで大きくして行く「プロセス」の 個々の局面を比較したらよいのかも知れない ・・・ ような気がして来ました。
そのような比較方法をとれば、選んだ封筒におまけの千円が加算される場合には、封筒を開ける前には選んだ方の封筒の方が有利だという結果を導けるかも知れません。・・・平均値の∞に比べたら無視できるほどの差異ですが差異には違いない・・・
ところが Norton, J.D. 1998. を読むとそれほど甘くなかったことがわかります。
上記の 「プロセス」 を数列ととらえ、数列の和の極限を考えた場合、数列の項のグルーピングで極限値が異なってしまうからです。
「情報と物質の関係から見た世界像 ー情報と物質の科学哲学事始ー」 というホームページの、 「§情報と量子力学の密接な関係」 というリンクの先の、 「「波束の収縮/粒子と波動の矛盾」は錯覚 ー 情報と物質の関係による量子力学の哲学ー」 というページを読むと、冷静さを取り戻すことができるような気がします。
選んだ封筒の中の金額を特定した世界は、「この世の世界」 (有限の世界) の出来事なので、それを無限個集めて平均をとることができても、その結果の無限大を、選んだ封筒の中の金額を特定する前の「あの世の世界」 (平均値無限大の世界) の無限大と関連付ける必要性はもともと無かったのかも知れません。
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2014/01/16 21:04:57
初版 2013/09/13
パラドキシカル分布の謎
2013/12/31 に 「数学の問題ではなくて心理学の問題としての面もある」 という項の内容を簡素化しました。パラドキシカル分布を「封筒を開ける前に交換型」と「封筒を開けた後に交換型」の二封筒問題に当てはめたときの数学的混乱について、考えたり、文献を調べたりしました。
「封筒を開ける前に交換型」と「封筒を開けた後に交換型」の二封筒問題をいっしょに考えるとどうなるか
「封筒を開けてから交換型」の二封筒問題の場合、金額の確率分布によっては常に封筒を交換した方が有利になることがあります。二封筒問題のパラドキシカル分布参照
まったく同じ確率分布で「封筒を開ける前に交換型」の二封筒問題を考えたら、こちらの方も常に交換した方がよいのではないか、と心配になってきます。
パラドキシカル分布の場合、封筒の中の金額を証拠事象とした条件付き期待交換利得が常に正なので、
その条件付き期待交換利得のすべての金額を通した平均値も正である。
したがって、パラドキシカル分布の場合、「封筒を開ける前に交換型」 の二封筒問題で 封筒を交換したときの期待交換利得が正であるので、封筒を交換した方が有利である。
したがって、パラドキシカル分布の場合、「封筒を開ける前に交換型」 の二封筒問題で 封筒を交換したときの期待交換利得が正であるので、封筒を交換した方が有利である。
これは数学者も手こずる錯覚らしく、いくつも論文が書かれていて、下記の文献が参考になります。
Norton, J.D. 1998.
Chalmers, David J. (2002).
「開ける前型」と「開けてから型」の問題は別次元
2013/11/16 にこの項を加えました。金額の平均値が無限大であることに着目した場合
次のように考えると、「封筒を開ける前に交換型」のパラドキシカル分布と、「封筒を開けてから交換型」のパラドキシカル分布は、 数学的に別世界 の問題だと気付きます。- 封筒を開ける前には、封筒の中身の平均値が ∞ であるような神 (お化け?) の世界のできごとである
- 封筒を開けた後には、封筒の中身が ∞ ではない通常の数値 であるような地上の世界のできごとである
シュレーディンガーの猫との類似性
上記の話は 「シュレーディンガーの猫」 とよく似ています。
- パラドキシカル分布の二封筒問題は無限の世界と有限の世界を無理やり繋ごうとしています。
- シュレーディンガーの猫は量子力学の世界と巨視力学の世界を無理やり繋ごうとしています。
封筒の比較の仕方に着目した場合
封筒を開けた後に、開けなかった方の封筒が有利に見えるのは、開けた封筒の金額を条件とする条件付き期待値を根拠にしています。一方、封筒を開けなかった場合に両方の封筒が互角に見えるのは、金額の確率分布が同一であるからです。
つまり条件付き期待交換利得が常にゼロより大であることと、封筒を開ける前には交換しても意味がないこととの間に矛盾はありません。
封筒を開けた場合と開けなかった場合で封筒を比較する基準が異なることから、他方の結果からもう一方の結果に対する制約がなくてもおかしくないからです。
数学の問題ではなくて心理学の問題としての面もある
2013/11/16 に表題を変えました。2013/09/07 に私は、この錯覚は「数学的」錯覚ではなく「心理学的」錯覚らしい、と気づきました。
2013/09/25 に以下の冗長な部分をすっきりさせ、2013/12/31 にあやふやな部分を削除して簡素化しました。
上記の謎めいた思考を整理すると次のようになります。
- 開けた封筒の金額によらず封筒を替えた方が有利である。
- そのことを知った人は封筒を開けずに交換するようになる。
- 金額の確率分布が同じなら「封筒を開ける前に交換型の二封筒問題」でも常に交換する戦略が有利である。
言い換えれば、封筒の中の金額すべてについて、その金額を証拠事象とする期待交換利得が 0 より大となったことを理由に、封筒を交換した方が有利であると結論する 「数学的推論規則」 はなくて、あるのは 「直観的推論規則」 だけだからです。(少なくとも私の数学知識の範囲では)
こういったことから、パラドキシカル分布の謎は封筒を開けた後に使える基準が開ける前にも使えるだろうと錯覚する心理現象なのかもしれません。
しかしやっぱり数学的に解決したい
しかし!二封筒問題のルールを次のように変えると、封筒を開ける前にはどちらも互角だという確信があやしくなってきます。
あなたは2つの封筒を渡されたとしましょう。
どちらにもお金が入っています。
一方は他方の2倍のお金が入っています。
あなたがどちらかを選べば、それに幾ら入っていようと自分の物にすることができます。
あなたがランダムに1つを選ぶと、その封筒に千円が追加で入れられます。
その上で、その封筒を開ける前に、他方に切り替える権利が与えられます。
どちらにもお金が入っています。
一方は他方の2倍のお金が入っています。
あなたがどちらかを選べば、それに幾ら入っていようと自分の物にすることができます。
あなたがランダムに1つを選ぶと、その封筒に千円が追加で入れられます。
その上で、その封筒を開ける前に、他方に切り替える権利が与えられます。
このようなルールでしかもパラドキシカル分布の場合、次のような悩みが発生します。
- 千円を足す前の二つの封筒は互角なのだから千円を足した方の封筒が有利だ。
- 千円を足したところで、封筒の中の金額の平均値に違いはない ( 両方とも ∞ ) から、千円足した後も互角だ。
2013/12/31 に下記を書き足しました。
また、このようなルールの場合、封筒を開けたら開けてない封筒の方が有利で、開けなければ選んだ封筒の方が有利だということも起こり得ます。(交換期待倍率にもよりますが)
従って、開ける前の封筒を比較する基準と、開けた後の封筒を比較する基準は異なっていてよさそうです。
平均値が∞だということの意味に立ち返っても無駄らしい
2013/11/16 にこの項を加えました。2014/01/16 に表題を 「平均値が∞だということの意味に立ち返れば解決するかも知れない」 から 「平均値が∞だということの意味に立ち返っても無駄らしい」 に変えました。
二封筒問題の金額の平均値が金額を表す確率変数の値に確率密度を掛けて
つまり、 確率変数の値に確率密度を掛けて
平均値が∞であるような二つの確率分布を比較するためには、
そのような比較方法をとれば、選んだ封筒におまけの千円が加算される場合には、封筒を開ける前には選んだ方の封筒の方が有利だという結果を導けるかも知れません。・・・平均値の∞に比べたら無視できるほどの差異ですが差異には違いない・・・
ところが Norton, J.D. 1998. を読むとそれほど甘くなかったことがわかります。
上記の 「プロセス」 を数列ととらえ、数列の和の極限を考えた場合、数列の項のグルーピングで極限値が異なってしまうからです。
再び冷静になって見ると
2013/12/15 にこの項を加えました。「情報と物質の関係から見た世界像 ー情報と物質の科学哲学事始ー」 というホームページの、 「§情報と量子力学の密接な関係」 というリンクの先の、 「「波束の収縮/粒子と波動の矛盾」は錯覚 ー 情報と物質の関係による量子力学の哲学ー」 というページを読むと、冷静さを取り戻すことができるような気がします。
選んだ封筒の中の金額を特定した世界は、「この世の世界」 (有限の世界) の出来事なので、それを無限個集めて平均をとることができても、その結果の無限大を、選んだ封筒の中の金額を特定する前の「あの世の世界」 (平均値無限大の世界) の無限大と関連付ける必要性はもともと無かったのかも知れません。
参考文献
-
Chalmers, David J. (2002).
The St. Petersburg Two-Envelope Paradox. Analysis 62 (2): 155?157.
-
Norton, J.D. 1998.
When the sum of our expectations fails us: The exchange paradox.
Pacific Philosophical Quarterly 79:34–58.
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