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2014/03/23 7:52:52
初版 2013/07/17

二封筒問題のパラドキシカル分布

2013/08/23 に交換した方がよいかどうかを判別する一般式による説明方法を導入しました。
2013/08/26 に封筒を開ける前に交換する二封筒問題を「封筒を開ける前に交換型」と呼称するようにしました。
2013/11/17 に封筒の中の金額を証拠事象とする条件付き期待倍率の計算式も書き足しました。
2013/12/28 に Jhon D. Norton の論文の中のパラドキシカル分布も紹介しました。
2014/01/15 に 条件付き期待利得の計算式を訂正しました。条件付き期待倍率から 1 引くのを忘れていました。
2014/03/23 に Elliot Linzer の論文に関する記述を加えました。

「封筒を開けてから交換型の二封筒問題」で、金額に上限を無くして金額の確率分布を工夫すると、常に封筒を交換した方がよいという奇妙な確率分布 (パラドキシカル分布) が見つかるらしい。

封筒を交換した方が有利か否かの判別式を求めてから、パラドキシカル分布の具体例をご紹介しましょう。

「封筒を開けてから交換型」の場合に交換した方が有利か否かを判別する一般式

Yahoo!知恵袋 に kemikarumanx さん が出した質問 「現在までの時点で、「2封筒問題」は、解決されたのでしょうか?」 に対する joushikijinz さん の解答や、有名な論文などを参考にして一般式を求めると次のようになります。

二つの封筒に入っている小額の金額と高額の金額の倍率を k とする。
封筒に入っていた金額を m として、金額ペア (m/2, m)(m, 2m) をそれぞれ小額側ペアと高額側ペアと呼ぶことする。

条件付き交換期待倍率と条件付き交換期待利得

「封筒に入っていた金額を条件とした」 ときの、 封筒を切り替えた後の金額の条件付き期待倍率は、 小額側ペアの事後オッズを s 、高額側ペアの事後オッズを b とすると、
 
(s/k) / (s + b) + kb / (s + b) =
 (s/k + kb) / (s + b)
となる。
従って、条件付き期待利得は m ((s/k + kb) / (s + b) - 1) となる。
注: 利得とは交換後の金額から交換前の金額を引いたものです。

交換が有利であることの判別式

この値が 1 より大なら封筒を交換すると有利になるので、それを不等式で表すと、次のようになる。
 s/k + kb > s + b
すなわち
 s < kb
ならば交換が有利となる。

交換すると半額になりやすいことの判別式

 s > b
ならば交換すると半額になりやすい。

金額の分布が離散的な場合

封筒に入っている金額の組みあわせが a と ka である確率を p(a) とする。
最初に選んだ封筒を開けたら a の金額が入っていて、a が封筒に入ることのある金額の最小値でない場合、出現したペアは次のどれかである。
ペア 事前オッズ
(a/k , a ) p(a/k)
(a , ka ) p(a)

a の金額が入っていたことに関する尤度比は 1対1なので事後オッズは次のようである。
ペア 事後オッズ
(a/k , a ) p(a/k)
(a , ka ) p(a)

条件付き交換期待倍率と条件付き交換期待利得

条件付き交換期待倍率 (s/k + kb) / (s + b)を書き換えると、
 (p(a/k) / k + kp(a)) / (p(a/k) + p(a))
従って、条件付き期待利得は a ((p(a/k) / k + kp(a)) / (p(a/k) + p(a)) - 1) となる。

交換が有利であることの判別式

 s < kb
を書き換えると、
 p(a/k) < kp(a)

この式が、金額の分布が離散的な場合の、封筒を交換すると有利になるか否かを判別する一般式になる。

交換すると半額になりやすいことの判別式

 s > b
を書き換えると、
 p(a/k) > p(a)

この式が、金額の分布が離散的な場合の、封筒を交換すると半額になりやすいと判別する一般式になる。

金額の分布が連続的な場合

封筒に入っている金額の組みあわせが x と kx である確率密度関数を f(x) とする。
最初に選んだ封筒を開けたら x の金額が入っていて、x が封筒に入ることのある金額の最小値でない場合、出現したペアは次のどれかである。
ペア 事前オッズ密度
(x/k , x ) (1/k) f(x/k)
※注参照
(x , kx ) f(x)
※注 積分の変数変換を考慮した式になっている。

x の金額が入っていたことに関する尤度比は 1対1なので事後オッズは次のようである。
ペア 事後オッズ密度
(x/k , x ) (1/k) f(x/k)
(x , kx ) f(x)

条件付き交換期待倍率と条件付き交換期待利得

条件付き交換期待倍率 (s/k + kb) / (s + b)を書き換えると、
 (f(x/k) / k2 + kf(x)) / ((1/k) f(x/k) + f(x))
従って、条件付き期待利得は x ((f(x/k) / k2 + kf(x)) / ((1/k) f(x/k) + f(x)) - 1) となる。

交換が有利であることの判別式

 s < kb
を書き換えると、
 (1/k) f(x/k) < kf(x)
すなわち
 f(x/k) < k2f(x)

この式が、金額の分布が連続的な場合の、封筒を交換すると有利になるか否かを判別する一般式になる。

交換すると半額になりやすいことの判別式

 s > b
を書き換えると、
 (1/k) f(x/k) > f(x)
すなわち
 f(x/k) > kf(x)

この式が、金額の分布が連続的な場合の、封筒を交換すると半額になりやすいと判別する一般式になる。

Elliot Linzer という人の論文や、 John Broome という人の論文などに出てくる確率分布 (離散版)

Linzer.E.(1994). や、 Broome,John.(1995).、  Norton, J.D. 1998.  などに出てくるパラドックスな確率分布 (離散版) は次のようなものです。

n を 0 以上の整数として、封筒に (2n, 2n+1) の金額のペアが入り、各ペア (2n, 2n+1) の出現確率が (2/3)n/3 であるような金額分布

この確率分布に対して、上で求めた一般式を当てはめると、次のようになります。

交換が有利であることの判別式

最初に選んだ封筒を開けたら a = 2n (n > 0) の金額が入っていたとすると、
p(a/k) = p(a/2) = p(2n-1) = (2/3)n-1/3
p(a) = p(2n) = (2/3)n/3
したがって、p(a/k) = (3/2)p(a) < 2p(a) = kp(a) となり、
冒頭で求めた一般式を満たすので、封筒を交換する方が有利である。最初に選んだ封筒に 20 が入っていたときも封筒を替えた方が有利なので、常に封筒を替えた方が有利となる。

交換すると半額になりやすいことの判別式

最初に選んだ封筒に 20 が入っていたときを除いて、
 p(a/k) = (2/3)n−1/3 = (3/2)(2/3)n/3 > (2/3)n/3 = p(a)
であるので全体的に交換すると半額になりやすい。

余談1
この結果は不思議であるが、金額の最大値が ∞ であることや、金額の平均値も ∞ であることや、隣あう金額ペアの出現確率の比が一定であることを思えば、不思議さも多少は和らぎます。

余談2
念のため条件付き交換期待倍率求をめると次のようになります。(封筒に金額 20 が入っていた場合を除く)
 (p(a/k)/k + kp(a))/(p(a/k) + p(a)) = 11/10

2014/01/14 に 「余談3」 と 「余談4」 の内容を別ページ 「パラドキシカル分布の数学」 に移動しました。

この確率分布での条件付き期待値の平均や、ゲームを反復したときの総額に関する議論について、別ページ 「パラドキシカル分布の数学」 でご紹介します。

封筒を開けない場合を考えると不思議である

封筒を開けると必ず交換する方が有利であることから、次のような謎が発生します。

常に封筒を交換した方がよいと分かったら、封筒を開けずに交換するようになるだろう。
それでも交換した方が有利だとしたら、「封筒を開ける前に交換型」の二封筒問題の場合にも交換する方が常に有利だということになる。
しかし封筒を開けないのであれば、最初に選んだ封筒と残りの封筒は互角であるはずだから、不思議である。

その謎はこう解ける

2012/9/8 にここにあった記述をパラドキシカル分布の謎に移動しました。

John Broome という人の論文に出てくるもう一つの確率分布 (連続版)

Broome,John.(1995). で示されているもう一つのパラドックスな確率分布 (連続版) を取り上げてみます。

x を 0 より大の実数として、封筒の金額の各ペア (x, 2x) の出現確率密度関数 f(x) が 1/(x + 1)2 であるような金額分布

この確率分布に対して、冒頭で求めた一般式を当てはめると、次のようになる。

交換が有利であることの判別式

金額の範囲は0より大の任意の実数とする。
最初に選んだ封筒を開けたら x の金額が入っていたとすると、次のようになる。
 f(x/k) = f(x/2) = 1/(x/2 + 1)2
 f(x) = 1/(x + 1)2
したがって、f(x/k) = ( (x + 1)2 / (x/2 + 1)2 ) f(x) < 4f(x) = k2f(x) となり、
冒頭で求めた一般式を満たすので、x の値によらず封筒を交換する方が有利である。

交換すると半額になりやすいことの判別式

 f(x/k) = ( (x + 1)2/(x/2 + 1)2) f(x) > 2f(x) = kf(x)

であるので全体的に交換すると半額になりやすい。

Nalbuff のパラドキシカル分布

2013/08/27 にこの項を追加しました。

Nalebuff, Barry.(1989). の "Paradox Found?" の章で示されている確率分布を取り上げてみます。

n を 0 以上の整数として、封筒に (2n, 2n+1) の金額のペアが入り、各ペア (2n, 2n+1) の出現確率が (21/2/(2-21/2))2-n/2 であるような金額分布

この確率分布に対して、冒頭で求めた一般式を当てはめると、次のようになる。

交換が有利であることの判別式

最初に選んだ封筒を開けたら a = 2n (n > 0) の金額が入っていたとすると、
 p(a/k) = p(a/2) = (21/2/(2-21/2))2-(n - 1)/2
 p(a) = p(2n) = (21/2/(2-21/2))2-n/2
したがって、p(a/k) = 21/2p(a) < 2p(a) = kp(a) となり、
冒頭で求めた一般式を満たすので、封筒を交換する方が有利である。最初に選んだ封筒に 20 が入っていたときも封筒を替えた方が有利なので、常に封筒を替えた方が有利となる。

交換すると半額になりやすいことの判別式

最初に選んだ封筒に 20 が入っていたときを除いて、
 p(a/k) = 21/2p(a) < p(a) = p(a)
であるので全体的に交換すると半額になりやすい。

この確率分布はパラドキシカル分布の元祖かも知れないと私は思っています。

パラドキシカル分布の条件

Broome,John.(1995). の付録Bで、
金額の平均値が有限の場合、
「開けた封筒の金額xを証拠事象とする残りの封筒の金額の事後期待値が x より大きいことが、すべての x ついて成り立つ」
ことはないと証明されています。

参考文献



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