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2014/01/26 21:31:24
初版 2014/01/14

パラドキシカル分布の数学

2014/01/25 に、「2のべきを金額とする金額分布の一般式」、「Norton, J.D. 1998. に出てくるパラドキシカル分布」、「Clark, Michael. & Shackel, Nicholas. (2000). に出てくるパラドキシカル分布」 の三本立てにしました。

2のべきを金額とする金額分布の一般式

パラドキシカル分布の題材としてよく用いられるのが、2n n=0 , 1, 2, 3, … を金額とする金額分布です。
よく出てくるので、基本的な計算式を求めて見ます。

可能な金額ペアは、(20, 21) , (21, 22) ···
金額ペア (2n, 2n+1) の出現確率を g(n) と置く。
Pn = g(n) / 2 と置く。
選んだ封筒の金額と他方の封筒の金額を表す確率変数をそれぞれ A, B とする。

2Nが金額の上限の場合

2014/01/26 に下の表に部分和の列を追加しました。

A 確率 B
Aが少額側
B
Aが高額側
E(B|A) 交換利得の
条件付き期待値
の平均
E(E(B|A)-A)を
計算する級数の項
交換利得の
条件付き期待値
の平均
E(E(B|A)-A)を
計算する級数の
部分和
20 P0 21 21 P0 P0
21 P1+P0 22 20 (22P1+20P0)
÷
(P1+P0)
21P1 − 20P0 21P1
2k-1 Pk-1+Pk-2 2k 2k-2 (2kPk-1+2k-2Pk-2)
÷
(Pk-1+Pk-2)
2k-1Pk-1 − 2k-2Pk-2 2k-1Pk-1
2k Pk+Pk-1 2k+1 2k-1 (2k+1Pk+2k-1Pk-1)
÷
(Pk+Pk-1)
2kPk − 2k-1Pk-1 2kPk
2N-1 PN-1+PN-2 2N 2N-2 (2NPN-1+2N-2PN-2)
÷
(PN-1+PN-2)
2N-1PN-1 − 2N-2PN-2 2N-1PN-1
2N PN-1 2N-1 2N-1 − 2N-1PN-1 0

この表の E(E(B|A)-A) を計算する級数の項から E(E(B|A)-A) = 0 すなわち、交換利得の選んだ封筒の金額を条件とする条件付き期待値の平均がゼロであることがわかりました。

2Nが金額の上限がない場合

上の表から、2nPn n → ∞ で収束する場合、その値が交換利得の選んだ封筒の金額を条件とする条件付き期待値の平均値となることがわかります。

Norton, J.D. 1998. に出てくるパラドキシカル分布

題材とするパラドキシカル分布

Broome,John.(1995). で最初に出てくるパラドキシカル分布の確率分布の平坦度をパラメータ化した分布が Norton, J.D. 1998. に出てくるので、それを題材にします。 ただし、確率分布の表現方法は Broome,John.(1995). のやり方に従います。

可能な金額ペアは、(20, 21) , (21, 22) ···
金額ペア (2n, 2n+1) の出現確率を g(n) と置く。
金額分布は次のようなパラドキシカル分布とする。

1/2 < k < 1 として、
g(0) = 1-k
g(n) = (1-k) kn

Broome,John.(1995). に最初に出てくる有名な金額分布は k = 2/3 と置いたものと一致します。

期待値の計算

パラドキシカルであること

以上から、この金額分布がパラドキシカルであることがわかります。

金額の平均が ∞ であること

金額の平均 = (1-k)20 + ∑2n(1-k) kn = (1-k)(1 + ∑(2k)n > (1-k)(1 + ∞) = ∞

交換利得の条件付き期待値の平均値が ∞ であること

2014/01/25 に 「2のべきを金額とする金額分布の一般式」 での計算結果を応用する書き方に書き直しました。

2nPn = 2n(1-k) kn/2 =k > 1/2 であることから n → ∞ で発散します。 よって、この金額分布での条件付き期待交換利得の平均値が ∞ であることがわかりました。

ゲームを反復したときの計算

2014/01/15 にこの項を加えました。

N回ゲームを行ったときの二つの封筒の金額それぞれの総和の差について、Norton, J.D. 1998. で研究しています。

Nゲームの平均交換利得

Norton, J.D. 1998. の中の 「付録A: 二封筒問題で多数回交換したときの利得の平均」 ( "APPENDIX A: AVERAGE GAIN FROM SWAPPING IN MANY PLAYS OF THE EXCANGE PARADOX GAME"  ) で、次の結果を導いています。

ゲームを n 回反復するときの i番目のゲームで封筒を交換したときの利得を表す確率変数を Xi とし、Sn = ∑Xi とする。 そうすると、
Snの絶対値の平均が L より大である確率の n → ∞ での極限値1/2 より大であるような L > 0 がある。

この結果を私は、ゲームを反復すると交換利得の振れ幅が広がって行くということだと解釈しました。

Nゲームの平均倍率

直感的には、たとえパラドキシカル分布であっても、ゲームを何度も繰り返すと交換後の総額と交換前の総額の比が 1 に近づきそうですが、どうでしょうか?
この疑問を解いた論文があるかも知れませんが、今の私には疑問のままです。

Clark, Michael. & Shackel, Nicholas. (2000). に出てくるパラドキシカル分布

2014/01/25 にこの項を追加しました。

題材とするパラドキシカル分布

金額の平均値が無限大で、しかもパラドキシカル分布でありながら、交換利得の条件付き期待値の平均が正数に収束する金額分布が Clark, Michael. & Shackel, Nicholas. (2000). に書かれているので、それをご紹介します。

可能な金額ペアは、(20, 21) , (21, 22) ···
金額ペア (2n, 2n+1) の出現確率を 2Pn と置く。
金額分布は次のようなパラドキシカル分布とする。

P0 = 1/12
Pn = (1/2)Pn-1 + (1/2)(1/4)n

期待値の計算

パラドキシカルであること

以上から、この金額分布がパラドキシカルであることがわかります。

金額の平均が ∞ であること

詳細は省略しますが、論文に書かれている計算を私が見た限りでは確かに発散します。

交換利得の条件付き期待値の平均値が収束すること

2nPnn → ∞ で 7/12 に収束するので、交換利得の条件付き期待値の平均値は 7/12 です。

この金額分布の意義

この論文の後半あたりから、交換利得の期待値の平均の計算方法に関する 「べき論」 を主張する内容に変わっています。 このましい計算方法なら、ゼロに収束するが、このましくない計算方法だと、ゼロに収束しないし、証拠事象として着目する封筒を入れ替えると符号が反対になってしまう、といったところを根拠にしています。
前半はせっかく数学論文風だったのに、後半になると一転して思想風になり、この主張を様々な形で説明しています。

さて、全体を通して読むと、後半の 「べき論」 の根拠として、上記の金額分布を持ち出したように見えます。
そういう目的なら、交換利得の条件付き期待値の平均が収束しようが発散しようが関係ないように思えるので、この論文の主旨は私には理解できませんでした。

論文執筆者の意図はともかくとして、交換利得の条件付き期待値の平均が収束する パラドキシカル分布 の例として貴重ではあります。

付録

Norton, J.D. 1998. に出てくる、ある程度パラドキシカルながら大数の弱法則 が成り立つ金額分布

Norton, J.D. 1998. の中の 「付録C: 交換利得の平均がゼロに収束する二封筒問題」 ( "APPENDIX C: AN EXCHANGE PARADOX IN WHICH THE AVERAGE GAIN IN SWAPPING CONVERGES TO ZERO"  ) で、次の条件を満たす金額分布の例を上げています。 その分布は次のようなものです。

次のような (選んだ封筒の金額、もう一つの封筒の金額) という形式の金額ペアを考えています。
n = 0, 1, … として、
(fnk-n, fn+1k-(n+1))  または (fn+1k-(n+1), fnk-n)
n = 0, 1 のとき、fn = 1
n > 1 のとき、fn+1 = k(1/n + fn)

注:ここでの金額ペアは低額側と高額側の金額ペアでなく、プレイヤー1側とプレイヤー2側の金額のペアであることに注意!

各金額ペアの確率は
P(fnk-n, fn+1k-(n+1)) = P(fn+1k-(n+1), fnk-n)= (1/2)(1-k)kn

そして各々の金額ペアにおける交換利得の式を立てています。 (私も数学的帰納法で確かめて見ました。これらの式は合っています。)
金額ペア 交換利得
(f0k0,  f1k1) k-1 - 1
(f1k1,  f0k0) - (k-1 - 1)
(fnk-n,  fn+1k-(n+1)) (1/n)k-n
fn+1k-(n+1),  fnk-n) - (1/n)k-n

そして、この金額分布について、次のような性質を引き出しています。
  • 交換利得の確率変数をX 、その期待値を E(X) と置くと、
    E(X) = E(X|X>0) + E(X|X<0)
    E(X|X>0) = ∞
    E(X|X<0) = − ∞
    このことから E(X) が収束しないことや、E(X|X>0) と E(X|X<0) に含まれている項の順序によって E(X) の値が変わることがわかる。
  • N回ゲームを繰り替えしたときの交換利得の平均値 AN がゼロに収束することについて 「大数の弱法則」 が成り立つ。

私の感想

各々の金額ペアにおける交換利得の式と確率から交換利得の期待値を計算してみました。
金額ペア 交換利得 確率 プレイヤー1の金額が fnk-nであることを条件とする交換利得の期待値
(私の計算では)
(fnk-n,  fn-1k-(n-1)) -(1/(n-1))k-(n-1) (1/2)(1-k)kn-1 (k-(n-1)/(1+k)) ((1/n) - (1/(n-1)) < 0
(fnk-n,  fn+1k-(n+1)) (1/n)k-n (1/2)(1-k)kn

私の計算間違いかもしれませんが、条件Ⅰの逆になりました。
仮にこの金額分布が パラドキシカル分布 だとしても、交換期待倍率は金額を大きくすると、未確認ですが 1 に収束するような気がするので、かなり弱めのパラドキシカルです。



参考文献



用語解説



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