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Jhon D. Norton の論文にそうした考え方をパラドキシカル分布に応用した例を見ることができます。
A = 1 − 1 + 1 − 1 + ···
という数列の和の項のグルーピングを 2種類考えます。
A =(1 − 1) + (1 − 1) + ··· = 0 + 0 + 0 + ··· = 0
A =1 + (− 1 + 1) + (−1 + 1) + ··· = 1 + 0 + 0 + ··· = 1
これも一種のパラドックスとして解釈されているようです。
余談
数列の項をグルーピングしたら別の数列になるから和がが変わっておかしくない、と思うのは私だけでしょうか?
グルーピングで和が変わるのを不思議に感じるのは数列の和が収束する場合にグルーピングしても和が変わらないことに慣れきった人の錯覚でしょう。
そこで、この論文独自の金額分布の確率表現を一般的な表現に置き換えてご紹介します。
従って、下記の表記は論文中の表記とは異なることにご留意ください。
どちらのプレイヤーも中身を見ないで交換すべきか否かを判断します。(20, 21) , (21, 22) ···
金額ペア (2n, 2n+1) の出現確率を g(n) と置く。
ここが論文と異なるので、以下の式すべてが論文と異なります。
金額分布は次のようなパラドキシカル分布とする。
1/2 < k < 1 として、
g(0) = 1-k
g(n) = (1-k) kn
2014/01/11 に金額分布の内容を論文のとおりに具体的に書くようにしました。
私の注
2014/01/15 に次の文を訂正しました。
Broome,John.(1995). に最初に出てくる有名な金額分布はk = 2/3 と置いたものと一致します。
(2 − 1)(1/2)g(0) + (1 − 2)(1/2)g(0) + (22 − 21)(1/2)g(1) + ···
+ (2n + 1 − 2n)(1/2)g(n) + (2n − 2n + 1)(1/2)g(n) + ···
論文では述べられていませんが、この数列の和は 0 と ∞ に発散する数の間を振動します。
[ (2 − 1)(1/2)g(0) + (1 − 2)(1/2)g(0) ] + ···
+ [ (2n + 1 − 2n)(1/2)g(n) + (2n − 2n + 1)(1/2)g(n) ] + ··· = 0
それぞれのグループは金額ペアを条件とする期待交換利得に他なりません。
(2 − 1)(1/2)g(0) + [ (1 − 2)(1/2)g(0) + (22 − 21)(1/2)g(1) ] + ···
+ [ (2n − 2n + 1)(1/2)g(n) + (2n + 2 − 2n + 1)(1/2)g(n + 1) ] + ···
(2n − 2n + 1)(1/2)g(n) + (2n + 2 − 2n + 1)(1/2)g(n + 1) =
[ (2n − 2n + 1)(1/2)(g(n)/(g(n) + g(n + 1))) + (2n + 1 − 2n)(1/2)g(n + 1)/(g((n) + g(n + 1))) ] (g((n) + g(n + 1)) =
プレイヤー1の封筒の金額が 2nであることを条件とする条件付き期待交換利得とプレイヤー1の封筒の金額が 2nである確率の積
(2 − 1)(1/2)g(0) =
プレイヤー1の封筒の金額が 20であることを条件とする条件付き期待交換利得とプレイヤー1の封筒の金額が 20である確率の積
従って、
選んだ封筒の金額を条件としない封筒を交換したときの利得の平均値 =
プレイヤー1の封筒の金額を条件とする条件付き期待交換利得の平均値
2014/01/11 に条件付き交換利得の平均値を出す級数を書き下してみました。確率分布を表す関数の表記は論文と異なります。
一方、1/2 < k < 1 の場合、
プレイヤー1の封筒の金額を条件とする条件付き期待交換利得の平均値 =
(2-1)g(0) + ∑[(((2n-1-2n)g(n-1) + (2n+1-2n)g(n))/(g(n-1) + g(n)))(1/2)(g(n-1) + g(n))] =
(1-k) + ∑[(1/2)(1-k)2kn-1(2k-1)] = ∞
∑ はn = 1 から n = ∞ までの総和です。
従って、
選んだ封筒の金額を条件としない封筒を交換したときの利得の平均値 = ∞
封筒を交換したときのプレイヤー1の利得の平均値 =
(1 − 2)(1/2)g(0) + (2 − 1)(1/2)g(0) + (21 − 22)(1/2)g(1) + ···
+ (2n − 2n + 1)(1/2)g(n) + (2n + 1 − 2n)(1/2)g(n) + (2n + 1 − 2n + 2)(1/2)g(n + 1) + ···
この数列の和は 0 と −∞ に発散する数の間を振動します。
次にグルーピングを行います。
封筒を交換したときのプレイヤー1の利得の平均値 =
(1 − 2)(1/2)g(0) + [ (2 − 1)(1/2)g(0) + (21 − 22)(1/2)g(1) ] + ···
+ [ (2n + 1 − 2n)(1/2)g(n) + (2n + 1 − 2n + 2)(1/2)g(n + 1) ] + ···
これはプレイヤー2の封筒の金額を条件とする条件付き交換期待利得の反数の平均値なので −∞ に発散します。
この論文を引用している Chalmers, David J. (2002). もパラドキシカル分布の謎を解明しきれていないので、この論文 Norton, J.D. 1998. も謎を解明しきれていないことがわかります。
2014/01/14 に付録として書いた 「この論文の中の 大数の弱法則 が成り立つ金額分布」 を新ページ 「パラドキシカル分布の数学」 に移動しました。
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2014/01/15 21:23:41
初版 2011/12/29
Jhon D. Norton の論文に見る数列の和の項のグルーピング問題
金額に上限がないときの封筒を開ける前の期待値の計算式を数列の和と解釈したとき、項のグルーピングによって総和が変わるという議論をしばしば見かけます。Jhon D. Norton の論文にそうした考え方をパラドキシカル分布に応用した例を見ることができます。
数列の和の項のグルーピングの例
数列の和を計算するとき、項のグルーピングによって値が変わることの例として次の例を良くみかけます。A = 1 − 1 + 1 − 1 + ···
という数列の和の項のグルーピングを 2種類考えます。
A =
A =
これも一種のパラドックスとして解釈されているようです。
余談
数列の項をグルーピングしたら別の数列になるから和がが変わっておかしくない、と思うのは私だけでしょうか?
グルーピングで和が変わるのを不思議に感じるのは数列の和が収束する場合にグルーピングしても和が変わらないことに慣れきった人の錯覚でしょう。
Jhon D. Norton の論文の中の例
Norton, J.D. 1998. の中の "4. Defense of Claim(ⅱ): Why Expectations Fail Player 1 if the Amount in his Envelope is Unknouwn" という章の中に面白い発見が書かれています。そこで、この論文独自の金額分布の確率表現を一般的な表現に置き換えてご紹介します。
従って、下記の表記は論文中の表記とは異なることにご留意ください。
ゲームの形式
二つの封筒に金額を入れてからプレイヤー1とプレイヤー2に分け与えます。どちらのプレイヤーも中身を見ないで交換すべきか否かを判断します。
表記法
可能な金額ペアは、金額ペア (2n, 2n+1) の出現確率を g(n) と置く。
ここが論文と異なるので、以下の式すべてが論文と異なります。
金額分布は次のようなパラドキシカル分布とする。
g(0) = 1-k
2014/01/11 に金額分布の内容を論文のとおりに具体的に書くようにしました。
私の注
2014/01/15 に次の文を訂正しました。
Broome,John.(1995). に最初に出てくる有名な金額分布は
グルーピングする前
封筒を交換したときのプレイヤー1の利得の平均値 =(2 − 1)(1/2)g(0) + (1 − 2)(1/2)g(0) + (22 − 21)(1/2)g(1) + ···
+ (2n + 1 − 2n)(1/2)g(n) + (2n − 2n + 1)(1/2)g(n) + ···
論文では述べられていませんが、この数列の和は 0 と ∞ に発散する数の間を振動します。
最初のグルーピング
封筒を交換したときのプレイヤー1の利得の平均値 =[ (2 − 1)(1/2)g(0) + (1 − 2)(1/2)g(0) ] + ···
+ [ (2n + 1 − 2n)(1/2)g(n) + (2n − 2n + 1)(1/2)g(n) ] + ··· = 0
それぞれのグループは金額ペアを条件とする期待交換利得に他なりません。
もう一つのグルーピング
封筒を交換したときのプレイヤー1の利得の平均値 =(2 − 1)(1/2)g(0) + [ (1 − 2)(1/2)g(0) + (22 − 21)(1/2)g(1) ] + ···
+ [ (2n − 2n + 1)(1/2)g(n) + (2n + 2 − 2n + 1)(1/2)g(n + 1) ] + ···
(2n − 2n + 1)(1/2)g(n) + (2n + 2 − 2n + 1)(1/2)g(n + 1) =
[ (2n − 2n + 1)(1/2)(g(n)/(g(n) + g(n + 1))) + (2n + 1 − 2n)(1/2)g(n + 1)/(g((n) + g(n + 1))) ] (g((n) + g(n + 1)) =
プレイヤー1の封筒の金額が 2nであることを条件とする条件付き期待交換利得とプレイヤー1の封筒の金額が 2nである確率の積
(2 − 1)(1/2)g(0) =
プレイヤー1の封筒の金額が 20であることを条件とする条件付き期待交換利得とプレイヤー1の封筒の金額が 20である確率の積
従って、
選んだ封筒の金額を条件としない封筒を交換したときの利得の平均値 =
プレイヤー1の封筒の金額を条件とする条件付き期待交換利得の平均値
2014/01/11 に条件付き交換利得の平均値を出す級数を書き下してみました。確率分布を表す関数の表記は論文と異なります。
一方、
プレイヤー1の封筒の金額を条件とする条件付き期待交換利得の平均値 =
(2-1)g(0) + ∑[(((2n-1-2n)g(n-1) + (2n+1-2n)g(n))/(g(n-1) + g(n)))(1/2)(g(n-1) + g(n))] =
(1-k) + ∑[(1/2)(1-k)2kn-1(2k-1)] = ∞
∑ はn = 1 から n = ∞ までの総和です。
従って、
選んだ封筒の金額を条件としない封筒を交換したときの利得の平均値 = ∞
逆のグルーピング
まず、グルーピングする前の数列の項を並べ変えます。封筒を交換したときのプレイヤー1の利得の平均値 =
(1 − 2)(1/2)g(0) + (2 − 1)(1/2)g(0) + (21 − 22)(1/2)g(1) + ···
+ (2n − 2n + 1)(1/2)g(n) + (2n + 1 − 2n)(1/2)g(n) + (2n + 1 − 2n + 2)(1/2)g(n + 1) + ···
この数列の和は 0 と −∞ に発散する数の間を振動します。
次にグルーピングを行います。
封筒を交換したときのプレイヤー1の利得の平均値 =
(1 − 2)(1/2)g(0) + [ (2 − 1)(1/2)g(0) + (21 − 22)(1/2)g(1) ] + ···
+ [ (2n + 1 − 2n)(1/2)g(n) + (2n + 1 − 2n + 2)(1/2)g(n + 1) ] + ···
これはプレイヤー2の封筒の金額を条件とする条件付き交換期待利得の反数の平均値なので −∞ に発散します。
私の感想
私は次のような感想を持ちました。(2013/12/29)- 数列の項をグルーピングするということは全く別の数列をつくることになるので総和が異なっておかしくない。
- 同じ数列に対する3種類のグルーピングのそれぞれに次のような意味を与えることができたのは興味深い。
(1) 金額ペアを条件とする条件付き期待交換利得の平均
(2) プレイヤー1の金額を条件とする条件付き期待交換利得の平均
(3) プレイヤー2の金額を条件とする条件付き期待交換利得の反数の平均 - それでいながら、元々の数列の和が振動的発散をするところも面白い。
- 論文では最初の数列の和が 「封筒を交換したときのプレイヤー1の利得の平均値」 に等しいとしているが、「封筒を交換したときのプレイヤー1の利得の平均値」 というものはもともと値が定まらないものなので騙されているような気がする。
Jhon D. Norton の論文に対する反響
この面白い発見によって、この論文は Chalmers, David J. (2002). を始めとして、色々な論文で引用されています。この論文を引用している Chalmers, David J. (2002). もパラドキシカル分布の謎を解明しきれていないので、この論文 Norton, J.D. 1998. も謎を解明しきれていないことがわかります。
2014/01/14 に付録として書いた 「この論文の中の 大数の弱法則 が成り立つ金額分布」 を新ページ 「パラドキシカル分布の数学」 に移動しました。
参考文献
-
Broome,John.(1995).
The Two-envelope Paradox, Analysis 55(1): 6–11.
-
Chalmers, David J. (2002).
The St. Petersburg Two-Envelope Paradox. Analysis 62 (2): 155?157.
-
Norton, J.D. 1998.
When the sum of our expectations fails us: The exchange paradox.
Pacific Philosophical Quarterly 79:34–58.
用語解説
-
パラドキシカル分布
選んだ封筒の金額を条件とする条件付き期待交換利得が常にゼロより大であるような金額分布を言います。
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