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Kent G. Merryfield, Ngo Viet, and Saleem Watson (1997). によると次のような問題だったそうです。
二人の男が相手の財布の中身を知らないことは明白ですが、自分の財布の中身を知っているかどうかは不明です。
「財布のゲーム」 にも色々なバージョンがあるらしいので、上記のバージョンを「財布のゲーム(元祖版)」 と呼ぶことにします。
Wikipedia(英語版) の "Two envelopes problem" の記事 (01:06, 5 April 2014 の版) に載っている "wallet game" の問題文は、上記のものとかなり異なっているように私には思えます。
例えば、自分も相手も平均で千円が入っているとして、自分はたいてい千円入っていて、相手は五百円と千五百円の間を行ったり来たりしているような場合、 確率 50% で勝つことになるので、一ゲーム当り、平均して二百五十円もうかります。
Kent G. Merryfield, Ngo Viet, and Saleem Watson (1997). ではさらに詳しく分析していて、 ゲームの参加者にとって公平になる条件を議論しています。 二つの封筒が互角であることが最初から保証されている二つの封筒問題では議論されないテーマです。
「財布のゲーム(元祖版)」でも事情は同じで、問題文の中の、
「自分は手持ちの金額を失うかもしれないが、それ以上を得るかもしれない」 という下りを読んで、
「金額を特定したら負ける確率と勝つ確率が等しいとは限らない」 と 「確率の錯覚説」 を唱えることもできるし、
「負けやすいのは自分の金額が高めのときで勝ちやすいのは自分の金額が低めのときだ」 と 「変数の誤用説」 を唱えることもできるからです。
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2014/08/31 10:09:27
初版 2014/01/22
「財布のゲーム」 のパラドックスと 「二つの封筒問題」 のパラドックスの違う点と似ている点
「財布のゲーム」とは
Martin Gardner が1981年の Aha! Gotcha に載せた 「財布のゲーム」 のパズルは、二つの封筒問題の原型の一つです。Kent G. Merryfield, Ngo Viet, and Saleem Watson (1997). によると次のような問題だったそうです。
二人の男がそれぞれの財布をテーブルに置く。
自分の財布に最少額の金額が入っていたら相手の財布の金を勝ち取る。
お互いが次のように考えた。
自分は手持ちの金額を失うかもしれないが、それ以上を得るかもしれない。
だからこのゲームは自分に有利だ。
自分の財布に最少額の金額が入っていたら相手の財布の金を勝ち取る。
お互いが次のように考えた。
自分は手持ちの金額を失うかもしれないが、それ以上を得るかもしれない。
だからこのゲームは自分に有利だ。
二人の男が相手の財布の中身を知らないことは明白ですが、自分の財布の中身を知っているかどうかは不明です。
「財布のゲーム」 にも色々なバージョンがあるらしいので、上記のバージョンを「財布のゲーム(元祖版)」 と呼ぶことにします。
Wikipedia(英語版) の "Two envelopes problem" の記事 (01:06, 5 April 2014 の版) に載っている "wallet game" の問題文は、上記のものとかなり異なっているように私には思えます。
「財布のゲーム(元祖版)」 と 「二つの封筒問題」 のパラドックスとしての共通点
「二人とも自分が有利だと考えるのはおかしい!」 という 「財布のゲーム(元祖版)」 のパラドックスと、「こちらの封筒でも交換すると有利で、あちらの封筒でも交換すると有利なのはおかしい!」 という二つの封筒問題のパラドックスの構造が共通しています。「財布のゲーム(元祖版)」 と 「二つの封筒問題」 のゲームの設定上の違い
- 二つの封筒問題では 「封筒を開ける前に交換型」の二つの封筒問題なのか、 「封筒を開けてから交換型」 なのか明記されることが通常ですが、「財布のゲーム(元祖版)」 では自分の財布の中身を見てからテーブルに置いたのかどうか、規定していません。
- 二つの封筒問題では 「ある人物」 が 「同時あるいは連続して」 お金を入れますが、「財布のゲーム(元祖版)」 では、「それぞれの男」 が 「互いに無関係に」 お金を入れたり出したりして来た点が大きく異なっています。
- 二つの封筒問題では封筒の金額の比が 1 対 2 に決められていますが、「財布のゲーム(元祖版)」 では決まりはなく、まったく同額のこともあります。 同額のときは互いに中身を交換することになります。
- 次に述べるように数学的な面でもかなり異なります。
「財布のゲーム(元祖版)」 と 「二つの封筒問題」 の数学的計算上の違い
「二つの封筒問題」 では金額の平均値が無限大でもないかぎり、常に交換した方が有利だというようなことはありませんが、「財布のゲーム(元祖版)」 ではふつうに起きてしまいます。例えば、自分も相手も平均で千円が入っているとして、自分はたいてい千円入っていて、相手は五百円と千五百円の間を行ったり来たりしているような場合、 確率 50% で勝つことになるので、一ゲーム当り、平均して二百五十円もうかります。
Kent G. Merryfield, Ngo Viet, and Saleem Watson (1997). ではさらに詳しく分析していて、 ゲームの参加者にとって公平になる条件を議論しています。 二つの封筒が互角であることが最初から保証されている二つの封筒問題では議論されないテーマです。
「財布のゲーム(元祖版)」 と 「二つの封筒問題」 の心理学(哲学?)上の共通点
「二つの封筒問題」ではパラドックスの原因がいまだにはっきりしません。パラドックスの原因を 「確率の錯覚」 に求めることも、「変数の誤用」 に求めることもできるからです。「財布のゲーム(元祖版)」でも事情は同じで、問題文の中の、
「自分は手持ちの金額を失うかもしれないが、それ以上を得るかもしれない」 という下りを読んで、
「金額を特定したら負ける確率と勝つ確率が等しいとは限らない」 と 「確率の錯覚説」 を唱えることもできるし、
「負けやすいのは自分の金額が高めのときで勝ちやすいのは自分の金額が低めのときだ」 と 「変数の誤用説」 を唱えることもできるからです。
参考文献
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Kent G. Merryfield, Ngo Viet, and Saleem Watson (1997).
The Wallet Paradox
American Mathematical Monthly,104,1997,647–649.
用語解説
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変数の誤用
二つの封筒問題で封筒を交換した後の金額の期待値を計算するときに、金額ペア(A, 2A) の A が確率1/2 で自分の封筒に入っていて、交換すると倍になる、2A も確率1/2 で自分の封筒に入っていて交換すると半分になる。 だから交換した後の期待値は(1/2) 2X + (1/2) (X/2) だと、A や2A が無意識に一つの変数 X に混ざり合ってしまう現象です。
こういう現象が実際に人の頭の中で起きているのだという仮説が 二封筒問題のおまじないの王様 – 変数誤用説 – の中核をなしています。
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確率の錯覚
二つの封筒問題で封筒を交換した後の金額の期待値を計算するときに、金額ペア(A, 2A) の A が確率1/2 で自分の封筒に入っていて、2A も確率1/2 で自分の封筒に入っている。 だから自分の封筒の金額を X とすると もう一つの封筒にX/2 や2X の金額が入っている確率がどちらも1/2 だと錯覚する現象です。(X/2, X) と (X, 2X) という二組の金額ペアを考えるときに、一組の金額ペア(A, 2A) を考えていたときの確率をそのまま当てはめてしまう現象です。
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