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以下、その論文を 「この論文」 と呼ぶことにします。
期待値計算式の提示
一様分布のケースの検討
最後に離散確率分布を検討
その意味で歴史的価値が高い論文です。
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2018/07/16 22:01:40
初版 2018/07/16
Castell & Batens の論文
比較的初期の論文で、Chalmers の論文による引用など、引用もよくされている論文なので、調べてみました。以下、その論文を 「この論文」 と呼ぶことにします。
Castell, P., & Batens, D. (1994). "The two envelope paradox: the infinite case" の内容
書かれた時期
1994 年なので、二つの封筒問題ができた 1987 年ごろの約 7年後になります。導入部
Frank Jackson, Peter Menzies, and Graham Oppy の論文の中で金額に上下限がないケースを "fantastical" なケースと呼んでいることを引用してから、次のように述べている。
この論文では 「上下限のない」 ケースに 「標準的な手法」 を適用できることを示す。
第1章
冒頭部分
選んだ封筒の金額を $x とおいて、他方の期待値を (1/2)$2x+(1/2)($x/2) と計算すると 「x によらず封筒を交換すべし」 となることを述べてから、次のように整理している。
- 封筒を開ける前には交換による期待利得はゼロであることを示すのが容易であるので、封筒を開ける前にはパラドックスはない。
- 封筒を開けた後には「封筒を交換すべき」という理由が与えられたり、「交換すべきでない」という理由が与えられたりする。
私の注1:
封筒を開けた後ても金額の分布が有限ならパラドックスはないとしていることから、この論文が「二つの封筒問題」のパラドックスについて通常と異なるとらえ方をしていることがわかります。
私の注2:
封筒を開ける前にはパラドックスがないとしているので Frank Jackson, Peter Menzies, and Graham Oppy の論文と逆の立場に立っています。
封筒を開けた後ても金額の分布が有限ならパラドックスはないとしていることから、この論文が「二つの封筒問題」のパラドックスについて通常と異なるとらえ方をしていることがわかります。
私の注2:
封筒を開ける前にはパラドックスがないとしているので Frank Jackson, Peter Menzies, and Graham Oppy の論文と逆の立場に立っています。
期待値計算式の提示
少額側金額の確率密度関数を g と置いたときの、交換利得の条件付期待値の計算式を示している。
n を選んだ封筒の金額とすると、交換利得の期待値は次のようになる。
(g(n/2)/(g(n)+g(n/2)))(n/2) + (g(n)/(g(n)+g(n/2)))2n - n
私の注:
(g(n/2)/(g(n)+g(n/2)))(n/2) + (g(n)/(g(n)+g(n/2)))2n - n
は間違いで
(((1/2)g(n/2))/(g(n)+(1/2)g(n/2)))(n/2) + (g(n)/(g(n)+(1/2)g(n/2)))2n - n
が正解です。
は間違いで
が正解です。
一様分布のケースの検討
次に g が 定数 c の場合に、交換利得の期待値が n/4 であると述べている。
そして他方の金額が n であれば交換損失の期待値は n/4 だと述べている。
次に封筒を開ける前の交換期待利得が発散すると述べている。
最後に、上記のケースは次のような状況であるからパラドキシカルだと述べている。
私の注:
この論文の計算式の場合
(g(n/2)/(g(n)+g(n/2)))(n/2) + (g(n)/(g(n)+g(n/2)))2n - n
= (c/(2c))(n/2) + (c/(2c))2n - n
=n/4
正しい計算式の場合
((1/2)g(n/2)/(g(n)+(1/2)g(n/2)))(n/2) + (g(n)/(g(n)+(1/2)g(n/2)))2n - n
= ((1/2)c/((3/2)c))(n/2) + (c/((3/2)c))2n - n
=n/2
この論文の計算式の場合
=n/4
正しい計算式の場合
=n/2
そして他方の金額が n であれば交換損失の期待値は n/4 だと述べている。
次に封筒を開ける前の交換期待利得が発散すると述べている。
m を少額側の金額とすると交換利得の期待値は次のようになる。
(1/2)(g(m)m - g(m/2)(m/2)) を 0 から ∞ の範囲で積分したものが交換期待利得である。
私の注:
(1/2)g(m)m と (1/2)g(m/2)(m/2) のそれぞれの積分が発散することを述べる方が妥当だと思います。
最後に、上記のケースは次のような状況であるからパラドキシカルだと述べている。
- どちらの封筒の金額もわからなければ封筒を交換すべきかキープすべきか分からない。
- 選んだ封筒の金額がわかれば交換すべきである。
- 他方の封筒の金額がわかればキープすべきである。
第2章
パラドキシカルでない連続確率分布の条件を検討
選んだ封筒の金額によらず期待交換利得が非負であるための条件が g(m) ≥ (1/2)g(m/2) だとしている。
次に proper な確率分布で上記の条件を満たすものがないことを証明している。
そして proper な連続確率分布ではパラドックスはないと述べている。
私の注 1:
上記の条件は(g(n/2)/(g(n)+g(n/2)))(n/2) + (g(n)/(g(n)+g(n/2)))2n - n が非負であるという条件です。
私の注 2:
正しい条件はg(m) ≥ (1/4)g(m/2) だと思います。
上記の条件は
私の注 2:
正しい条件は
次に proper な確率分布で上記の条件を満たすものがないことを証明している。
そして proper な連続確率分布ではパラドックスはないと述べている。
私の注:
実際には proper でありながらパラドキシカルな連続確率分布が存在していて、Chalmers の論文 で詳しく検討されています。
実際には proper でありながらパラドキシカルな連続確率分布が存在していて、Chalmers の論文 で詳しく検討されています。
最後に離散確率分布を検討
選んだ封筒の金額によらず期待交換利得が非負であるような離散確率分布について平均値が発散することを証明している。
私の注:
連続確率分布と離散確率分布で考え方が異なる点が気にかかります。
連続確率分布と離散確率分布で考え方が異なる点が気にかかります。
読後感
この論文はChalmers の論文が書かれるきっかけの一つだったと思います。その意味で歴史的価値が高い論文です。
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