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2018/11/18 9:59:28
初版 2017/06/06

ある有名論文

英語版の Wikipedia の "Two envelopes problem" という記事に初めて参考文献が掲載されたのはの 21:47, 3 October 2005 の版です。
その参考文献の中にある論文を見つけました。その論文は次のような特徴を持っています。 このようなことから、この論文が英語版 Wikipedia の記事の編集者に強い影響力を持っていたのではないかと思い、内容を整理してみました。

英語版 Wikipedia に影響を与えたと私が想像している論文の内容

冒頭で「封筒を開ける前に交換型」の二封筒問題のパラドックスを次のように表している。
次のような問題文を提示しています。
  • 開ける前に交換型である。
  • 「選んだ封筒の金額 x」 → 「確率半々で選んだ封筒が高額側か小額側」 → 「選んだ封筒が小額側か高額側かにより他方が 2x または x/2」 → 「交換後の金額の期待値」の順に話を進めている。
  • パラドックスの説明として、「交換が有利だという結論は直観に反する」 ことを採用している。
    「永久に交換しつづける羽目になる」 とか、「どちらの封筒でも交換が有利なのはおかしい」 といったパラドックスは採用していない。
これらの特徴は英語版 Wikipedia の記事 "Two envelopes problem" の 22:13, 3 October 2005 の版とそっくりです。


この論文が引用している他の論文に対する反論
この論文が引用している Jackson, F., Menzies, P., & Oppy, G. (1994). Nalebuff, Barry.(1989). などが 「確率の間違いがパラドックスの原因だとしているのは次の理由から不適切だ」 と、この論文の執筆者たちが主張しているように、私には読めました。
  • 貨幣でなく数字を書いた紙が封筒に入れるタイプのゲームを考えると金額の上限はなくなるので、これらの論文が採用している金額の最大値のロジックは不適説である。
  • 確率分布が正規化できるかどうかを議論するのは、数学が得意でない普通の人が起こす錯誤の議論に相応しくない。

私の注1:
Jackson, F., Menzies, P., & Oppy, G. (1994). などが金額の上限による考察で、確率が 1/2に限定されるという考えを 「論理的」 に否定したのですから、数学が苦手なため理解できなくても、その結論に従わなければなりません。

私の注2:
Nalebuff, Barry.(1989). などこの論文が反論している論文のいくつかは期待値の正しい計算式も書いていますが、この論文ではそれに触れていません。

私の注3:
この論文に限らず、数学者や数学の得意な哲学者たちによる数学的な説に反論する人たちは、数学的な説の中で書かれた事実を 「確率が常に 1/2 である」 という仮説の 「反例」 でなく 「一般論」 だと読み替えて議論しているように見えます。 それらの事実が 「反例」 であることに気づいていないのか、気づかないふりをしているのかは、私には分かりません。 (← 2017/06/8 加筆)


自説の開陳
二組の金額ペア妄想説を次のような形式で表現しています。
期待値計算式を組み立てるときに、選んだ封筒の金額を固定することと、両封筒の合計金額を固定することを混同したこと (confusion) がパラドックスの原因である。 (← 2018/11/18 修正)
誤った式の中では選んだ封筒の金額を固定して考えているが、二つの封筒の金額の合計を固定して考えるのが正解である。
選んだ封筒の金額を固定して考えてよいのは、選んだ封筒の金額が決まってから他方の金額の封筒に入れる金額が決まるようなゲームの場合である。
標準的な二つの封筒問題では、封筒を選ぶ前に二つの封筒の金額が両方とも決まっている。

私の注1 :
二つの封筒の金額の合計を固定して期待値を計算する問題は、いわゆる 「二つの封筒問題」 とは別の問題ですから、 そのような問題にパラドックスを感じることのできる珍しい人のためにパラドックスを解決したとしても、 いわゆる 「二つの封筒のパラドックス」 の解決にはなりません。

私の注2 :
(2018/11/18 追加)
"confusion" という言葉が使われている背後に次のような心理メカニズムが隠れていそうです。


変数誤用説に似た説
次のような説を書いています。
「選んだ封筒が小額側か高額側かにより他方が 2x または x/2」 という文を見た場合、両ケースを通して x が選んだ封筒の金額を表していると解釈することはできない。
選んだ封筒が小額側なら x は選んだ封筒が高額側だったときの金額を表せないし、逆も真なり。

私の注1 :
上記の説は変数誤用説に似ていても別物です。
変数誤用説なら期待値計算式の項によって x の値が異なることが誤りの内容だと考えますが、 この論文では、封筒の金額の和を固定したならば、x が単一の値を表していると解釈することはできないと述べているからです。

私の注2 : (← 2017/11/17 追加)
変数誤用説であれば二組の金額ペア妄想説と両立しませんが、この説は二組の金額ペア妄想説と両立します。 このことからも、この説が変数誤用説でないことがわかります。

私の仮説:
英語版 Wikipedia の記事 "Two envelopes problem" の編集者がこの説を勘違いして、「変数誤用説」 として Wikipedia に書いた。
  ↓
それを読んだ心理学者が英語版 Wikipedia の記事と別の論文 (ある論文) を合わせて自分の論文で紹介した。
  ↓
英語版 Wikipedia の記事とその心理学者の論文を読んだ私が変数誤用説のような心理現象を起こす人が実在したかも知れないと勘違いした。
  ↓
私は 「二封筒問題のおまじないの王様 – 変数誤用説 –」 を研究する羽目になった。
  ↓
最近 (2016年ごろ) ようやく私はを変数誤用説は幻だったと悟った。


二分の三説に似た説
( 2017/08/09 追加)
二分の三説に似た説が書かれています。
二つの封筒の金額の合計を 3x で表すと、選んだ封筒が小額側なら交換すると x だけ失い、選んだ封筒が高額側なら交換すると x だけ得るので、この正しい計算方法は、失う可能性のある( stand to) 金額と得る可能性のある金額が等しいという望ましい結果を導く。

私の注1 :
"stand to" は 「~しそうだ」 という意味があるらしいので、この部分は暗黙で確率を考慮していると解釈した場合、交換による損得の期待値を計算していると言えなくもないでしょう。

私の注2 :
この論文の著者にとっては、正しい期待値計算式よりも、二つの封筒が同等であることの確認の方が重要なのだろうと思います。
このことは二分の三説を唱える人の心理を研究するときにも考慮すべき重要ポイントだと思います。


結論
( 2017/08/09 追加)
結論として次のように書いています。
選んだ封筒の金額を固定して考える方が適当である場合、0.5 × 2x + 0.5 × (x/2) という計算式は正当 (legitimate) である。
二つの封筒の金額の和を固定して考える方が適当な場合には正当でない(illegitimate)。
このことを区別すればパラドックスはなくなる。

私が期待していた二分の三説そのものはどこにも出てきませんでした。
言い換えると、この論文の中に "(1/2)a + (1/2)2a" という期待値計算式が出て来ませんでした。


ここで内容整理はおしまい

この後にはいくつかの想定問答が書いてあるだけなので、ここで内容整理を終えます。

・・・と思いましたが 2017/11/13 に内容整理を再開しました。

反論1
反論1として、次のような想定反論を書いています。
選んだ封筒の金額が決まってから他方の金額の封筒に入れる金額が決まるようなコイントスバージョンのゲームでは選んだ封筒の金額を固定して考えることが許されるので交換することが有利となる。 同様に交換した後で金額を固定して考えると再び交換が有利になり、永遠に交換しつづけることになる。
そして反論1に対する反論として最初の交換の後には金額を固定して考えることはできないと説明しています。

私の注:
この論文の主旨が選んだ封筒の中の金額を固定して考えてはならないとするものなので、コイントスバージョンで封筒を交換した後に金額を固定して考えるとおかしくなるという趣旨の反論を持ち出す必要はないような気がします。


反論2
反論2として、次のような想定反論を書いています。
そして上記の二つの反論に対して次のように反論しています。
  • いずれの場合も可能な二つの金額が 異なる可能世界 に属しているので確率を定めることができません。
  • コイントスバージョンについて言えば、交換した後の封筒の金額を例えば 20ドルに固定してしまうと最初に選んだ封筒には 10ドルまたは 40ドル入っていたことになります。
    それら二つの金額は 異なる可能世界 に属しているので確率を定めることができません。

私の注:
この想定反論2に対する反論の中に次のような興味深い表現が出て来ます。
「異なる可能世界」 に属する選択肢の間には、「無差別の原理」 を含めて、確率を定める原理がなにもない。
このことはこの論文の 「異なる可能世界」 をまたいだ確率を忌避する態度の裏側に 「条件付き確率」 を忌避する態度があることをうかがわせます。


反論3
反論3として、次のような想定反論を書いています。
下記の二つの仮定のどちらが正しいか知らない場合にどのように判断すべきかという問題こそが 「二つの封筒問題」 である。 これにあなたの解は答えていない。
  • 仮定(a) : 最初に選んだ封筒の金額が固定されている。
  • 仮定(b) : 二つの封筒の金額の合計が固定されている。
そして反論3に次のように反論しています。
この反論の提唱者は次の二通りのケースを思い描いているだろう。
  • ケース1 (部分的無知のケース) : 私は一つの封筒を手渡されてから、(ⅰ) ある固定された金額を 2対1 に分けて二つの封筒に入れた、あるいは (ⅱ)手渡された封筒の金額の倍または半額が他方の封筒に入れたと伝えられつつ、交換するかしないか決定するよう指示される。 (← 2018/08/02 修正)
  • ケース2 (完全無知のケース) : 私は一つの封筒を手渡されてから、 (ⅰ) ある固定された金額を 2対1 に分けて二つの封筒に入れた、あるいは (ⅱ)最初の封筒の金額の倍または半額が二番目の封筒に入れた (どれが最初の封筒でどれが二番目の封筒かは不明) と伝えられつつ、交換するかしないか決定するよう指示される。 (← 2018/08/02 修正)
ケース1 (部分的無知のケース)では (ⅰ) の場合なら交換してもしなくても同等であり、 (ⅱ) の場合なら交換が有利なので、全体として交換が有利である。
ケース2 (完全無知のケース)の (ⅰ) のケースは我々の議論でカバーされているので残りの (ⅱ) の場合を考えよう。
もしも (1) 私の封筒が最初の封筒であれば交換後の期待値は交換しない場合の期待値の 1.25 倍 になる。
しかしもしも (2) 私の封筒が二番目の封筒ならば交換しない場合の期待値は交換した場合の期待値の 1.25 倍になる。
(1) と (2) は対称的 (symmetry) なので結果的に交換してもしなくてもよくなる。
これに続く考察の部分を要約すると次のようになります。
総額が私の選択とは無関係である固定合計ケースとしてケース2をとらえることができるので、我々(この論文の著者)の議論で直接カバーされている。
そしてケース1も2も彼らの主張を損なうものでないと結論しています。

私の注:
反論3で選んだ封筒の金額を固定されている場合と二つの封筒の合計が固定されている場合を想定して議論していることから、この論文の著者たちが 「固定して考えるべきは選らんだ封筒の金額か、封筒の金額合計か」 がポイントだと考えていることがわかります。
しかし選んだ封筒の金額を手掛かりにして条件付期待値を計算することが二つの封筒問題のであるので、この論文の考え方では本来の二つの封筒問題の解決はできません。


参考文献


用語解説



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