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2017/07/25 9:05:52
初版 2017/05/30

ある論文

( 2017/06/14に 「変数誤用説」 の源流に関する記述を改めるために全体を修正しました。)

変数誤用説は英語版 Wikipedia の記事 "Two envelopes problem" において、2005年ごろから断続的ですが、主要な解として紹介され続けてきました。
モンティ・ホール問題で有名な心理学者も 2008年に変数誤用説唱えたことがあります。
こうしたことから、変数誤用説を唱える人が多いと勘違いした私は、2013年末からこの説を唱える人の心理について考えて来ました。

そして初期の論文を調べた私は、変数誤用悦を最初に唱えたのは 「ある二つの論文」 らしいと踏みました。
そして英語版の Wikipedia で長きに亘って紹介され続けている変数誤用説の源流なのだからこれらの論文は重要な論文だと思いました。

※「ある二つの論文」 のうち一つは哲学者によるもので、もう一つは数学者によるものです。 数学者による論文が本ページの主題 「ある論文」 に他なりません。 (← 22017/07/05 加筆)
※「ある二つの論文」 のうち哲学者によるものについて 「別の論文」 というページを書きました。 (← 22017/07/25 加筆)

しかしその後 「ある有名論文」 の方こそ変数誤用説の源流らしいと気づきました。
私が英語版の Wikipedia を調べ始めた 2013年末ごろの "Two envelopes problem" の記事 (例:10:46, 16 December 2013の版) で上記の 「ある二つの論文」 のうち数学者による論文がしきりに引用されていたため勘違いしていたのです。
ある有名論文」 の発表は数学者による論文の1年後ですが哲学論文誌に掲載されたので哲学者たちへの影響力はこちらの方が大きかったと思います。

一方、最近わたしは E = (1/2)a + (1/2)2a が正しい計算式だと考える人がそもそも少数派な上、そういう人の中で変数誤用説を唱える人が少数派らしいということに気づきました。しかし、英語版の Wikipedia は変数誤用説を主要な説として紹介しつづけていて、最近の版でもその数学者の論文を変数誤用説の歴史的な論文として引用しています。 (例: 03:45, 12 June 2017の版)
その数学者による論文を歴史的な論文に仕立て上げたのは当の英語版 Wikipedia だと思いますが、今後も英語版 Wikipedia の記事を通してその論文が重要視されつづけるでしょう。 (← 2017/07/05 修正)

その数学者による論文については、二封筒問題のおまじないの王様 – 変数誤用説 – というページにも書いていますが、誤解していた部分が多そうだと気が付いたので、ここで改めて内容を整理してみました。

変数誤用説の先駆けとなったと私が勘違いした らしい、ある数学者の論文の内容

その論文の内容から変数誤用説を唱えている部分を抜き出し、重要でない部分を割愛したり、記号を統一したり、分かりやすく書き換えたりして整理しました。

問題文の提示
冒頭で、別の数学者の論文に倣って次のような問題文を書いています。
封筒A の金額はランダムに決定される。
封筒B の金額は確率半々で封筒A の半額または倍額になる。
封筒A と B のどちらかがランダムにあなたに渡される。
問題1.渡された封筒の金額と他方の封筒の金額のどちらが好ましいか、あるいは同等か?
問題2.渡された封筒を開けて金額を知った場合、渡された封筒の金額と他方の封筒の金額のどちらが好ましいか、あるいは同等か?

この論文では問題1に関して変数誤用説を唱えています。

私の注:
封筒B の金額が A の倍に決まっていないことが、後の計算を複雑にします。



問題1のパラドックスの提示
次に、交換が有利になる計算を示し、パラドックスになることを示しています。
渡された封筒の金額を確率変数X で表し、他方の封筒の金額を確率変数Y で表すと、他方の封筒の金額は確率半々で 2X または X/2 である。
確率半々で Y = 2X または Y = X/2。
E(Y) = 0.5(2X + X/2) = 1.25 × X > X

この計算結果から、封筒を永久に交換しつづける羽目になるというパラドックスを得ています。

(2017/06/15 加筆修正)

私の注 1:
この論文全体を通して、期待値計算式の中の確率が 0.5 とは限らないという議論はどこにも出て来ません。

私の注 2:
左辺が E(Y) で右辺の X が確率変数であるような式の立てかたをすると、渡された金額を条件とする条件付き期待値を議論の外に置くということに他ならないので、変数誤用説が自然に導かれるでしょう。
このことから変数誤用説でこういう式の立て方の間違いを説明できても、元々のパラドックスの説明にはならないということがわかります。

私の注 3:
この論文では出て来ませんが、このような式の立て方をした場合、「独立事象のように勘違いしたことがパラドックスの原因だ」 などと言う議論がよく出て来ますが、そういう議論でこういう式の立て方の間違いを説明できても、元々のパラドックスの説明にはなりません。

私の注 4:
こういう式で元々のパラドックスを説明するためには、確率 1/2 が間違いないことを心理学的に証明する必要があります。言い換えると基準率錯誤が起きていないことを心理学的に証明する必要があります。



ベイズ統計学的な計算方法を示している論文を引用
(2017/07/01 追加)

ベイズ統計学的な計算方法を示している論文 Christensen, R; Utts, J (1992) の "SOME FREQUENTIST CALCULATIONS" という章を引き合いに出して、「初等的な解法で同じ目的を果たせることを示す」 と述べています。
不思議に思って、Christensen, R; Utts, J (1992) とこの数学者の論文を読み比べたところ、次のような結果を得ました。
  • Christensen, R; Utts, J (1992) の "A BAYESIAN RESOLUTION" の章では次のように述べるにとどまっていて、確率の誤りがパラドックスの原因だとは述べていません。 そのためこの数学者は確率の誤りにまで頭が回らなかったのでしょう。
    あなたの封筒の金額が大きい方だと思えばあなたは交換すべきでない。 役に立たない (noninformative) ルールが交換すべきだと示すことが問題なのだ。 事前の情報を無視して意思決定しようとするからいけないのだ。
  • Christensen, R; Utts, J (1992) の "SOME FREQUENTIST CALCULATIONS" の章は単一の金額ペアを出発点とした解を述べているのでこの数学者が提案する解と似ていますが、 Christensen, R; Utts, J (1992) の方は 「開けてから交換」 型の問題を扱っているため数学的にはまったく異なります。 この数学者はその点に気づいていないのでしょう。


アリババ型の変形問題文により三つの金額を同時に考えることを考察
アリババ型の変形問題は次のようです。
封筒A に種金額S を入れ、封筒B に半々の確率で種金額S の倍か半分を入れる。
プレイヤー2はこのことを知らされてから封筒A と B のどちらか選ぶ。
プレイヤー2は種金額をどうやって決めたか知らない。
プレイヤー2が利益を最大化するには封筒B を選ぶべきか?
E(B) = 0.5(2S + S/2) = 1.25S > S だから、解は 「封筒B を取れ」となる。

アリババ型の変形問題なら S、2S、S/2 の三つの金額を同時に考えてもよいが、 問題1の場合には X、2X、X/2 の三つを同時に考えることは許されないと述べています。

私の注:
この論文で引用している二つの論文も、Nalebuff, Barry.(1989). に影響を受けて、コインフリップで 封筒B に封筒A の倍か半分を入れるルールを重視しています。
このような影響力を持っていたNalebuff, Barry.(1989). は二つの封筒問題の歴史上の重要論文の一つだと思います。



A の金額を決めてから B の金額を決める手順に限定しない計算方法
金額を決める手順に依存した議論でないことを示すために、次のような計算を示しています。
コインフリップ で 標本空間 { (S. S/2), (S, 2S) } からペアを決める。
そうすると、
E(X) = 0.5(S + S/2) P((S, S/2)) + 0.5(S + 2S) P((S, 2S)) = 1.125S。

私の注:
この部分を読むと、この論文の執筆者は二組の金額ペアを考えることができたことが分かるので、 変数誤用説を唱えたことが不思議です。



どうして E(Y) = 0.5(X/2 + 2X) = 1.25X という式が生まれたかの考察
変数誤用説に似たことを述べています。
0.5 × X/2 + 0.5 × 2X の最初の項と後の項の X が別の確率変数だということを次のように示しています。
渡された封筒の金額 X = S/2 のとき標本空間 { (S. S/2), (S, 2S) } に (S/4, S/2) という標本点が含まれていないので、 最初の項 0.5 × X/2 は 0 、すなわち、X = 0。
渡された封筒の金額 X = 2S のとき標本空間 { (S. S/2), (S, 2S) } に (2S, 4S) という標本点が含まれていないので、 2番目の項 0.5 × 2X は 0 、すなわち、X = 0。
これらのことから、0.5 × X/2 + 0.5 × 2X の最初の項と後の項の X が別の確率変数だということになる。
↑ 2017/07/05 修正

私の注:
標本点が標本空間に含まれていない場合には確率変数の値は 0 になりません。未定義になります。
普通は標本空間を拡張して確率を 0 にするか、標本空間にない事象の項を式から削除するかします。

私の疑問:
X の値を S に限定しながら標本空間 { (S. S/2), (S, 2S) } を持ち出したのではないのですか?
↑ 2017/07/05 加筆


次に、「0.5 × X/2 + 0.5 × 2X の最初の項と後の項の X が別の確率変数だ」 ということを 「参照点」 という概念を使って言い換えています。
言い換えると、単一の記号 X が同時に参照点として使われたり、確率変数 として使われたりしてはいけない。


私の感じた疑問点:
この部分にはそもそも、次のような重大な疑義があります。
計算式の左辺について、次のようにするべきです。
左辺を E(Y) とするなら、右辺も確率変数の期待値で構成すべきです。
右辺を確率変数 X で構成するなら、左辺は E(Y|X) であるべきです。

結局、「渡された封筒の金額 X が参照点で、期待値計算式の中の X が確率変数だ」 という混乱は、 この論文が採用した記法に由来するものであって、E(Y) = 0.5(X/2 + 2X) = 1.25X という式が生まれた理由とは関係ないと私は思います。


私が確率変数を使って変数誤用説を唱えるならば 次のような式を正解として提示します。

E(Y) = 0.5 × 2E(X|Xは小額側) + 0.5 × (1/2)E(X|Xは高額側) = (3/2)E(X|Xは小額側)

英語版 Wikipedia の "Two envelopes problem" という記事を参考にして書きました。
この式のエッセンスは、「交換して倍になる金額と半減する金額の分布は異なる」 に尽きます。

参照点と確率変数の混同がパラドックスの元だというこの論文の説は間違いでしょう。



正しい計算式の提示
A の金額を決めてからコインフリップで B の金額を決めるという Nalebuff, Barry.(1989). スタイルをとらないで、 最初から一組の金額ペアを考えて、シンプルな式を示しています。
X が渡された封筒の金額を表す確率変数だとし、
G が交換で得られる利得を表す確率変数だとし、
標本空間を { (S, 2S) } とすると(つまり金額ペアの小さい方の金額を S とすると)、
E(G) = P(X=S)2S + P(X=2S)S - X = 1.5S - X。
ゆえに、 E(E(G)) = 1.5S - E(X) = 0。

私の注:
E(G) は E(G|X) の間違いでしょう。
普通の変数誤用説は次のような式を正解としています。
Y が他方の封筒の金額を表す確率変数だとすると、
E(X) = P(X=S)S + P(X=2S)2S = 1.5S。
E(Y) = P(X=S)2S + P(X=2S)S = 1.5S。


読んだ後で
「二つの封筒問題」 を 1988年にベイズ統計学者たちが作ったとき、「開けてから交換型」の問題を考えていました。
オリジナルに最も近い問題文をZabell, S. (1988)に見ることができますが、その中では「開ける前に交換型」の場合はパラドックスは無いとしています。
また、数学者が二つの封筒問題を論じる場合、大概、「開けた後に交換型」 を論じます。
このことについて、私は次のような仮説を立てててみました。

私の仮説:
  • 数学者でも、「開ける前に交換型」 の問題でパラドックスを感じることができる。
  • Zabell, S. (1988)が 「開ける前」 の場合にパラドックスが無いと感じたのは 「開けた後」 の場合がメインのテーマだったことに加えて、「開ける前」 の場合は封筒に封入する前の剥き出しの金額ペアのイメージが強かったためである。
  • 渡された封筒を開ける前に、その金額を条件として期待値を計算することに抵抗を感じるかどうかは、その人による。
    私のように期待値を効用の平均値だと思っている人は抵抗を感じない。
    期待値を意思決定の手がかりだと思っている人は抵抗を感じる。架空の期待値では役に立たないからである。

この論文の執筆者の場合どうだったのか、私にはわかりません。


用語解説

参考文献



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