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2020/02/23 20:59:31
初版 2017/07/24

別の論文

別のページ「ある論文」の中で「ある二つの論文」と呼んでいるもののうち、哲学者によって書かれた方の論文に興味深い内容を見つけました。
それは「変数混乱説」の「2重コインフリップ版」とでも呼ぶべき説でした。 (← 2019/07//28 修正)

変数混乱説」の「2重コインフリップ版」とでも呼ぶべき説が書かれた論文の内容

(2019/07//28 に表題を修正)

書かれた時期その他
1994 年に発表
Google Scholar 調べ (2017年7月) で、引用文献数 13 (多からず少なからず)

金額の表現形式
この論文の中では封筒の中の金額を表現するときに "emv ( … )" のように表現しています。
"emv" とは "expected monetary value" の略なので、金額の期待値を表しているようです。
論文の最後の方に「他方の封筒の emv はあなたの封筒の emv の 1.25 倍だというのは …」という語句が現れることから、 この論文では渡された封筒の金額の期待値と他方の封筒の金額の期待値の関係を論じていることがわかります。
"expected … value" とは意思決定論の分野で使われる用語かも知れません。


使用している問題文 (2重コインフリップ版の二つの封筒問題)
(2019/07/28 表題を修正)
この論文が採用している問題文は「開ける前に交換型」で、 最初の封筒選択の前に次のような金額配置プロセスが記述されています。
  • A封筒と B封筒を用意する。
  • A封筒に種金額を入れる。
  • 確率半々で B封筒に種金額の倍または半分を入れる。
  • 確率半々で、どちらかの封筒があなたに渡されるが、それが A封筒なのか B封筒なのか、あなたには分からない。 (← 2019/03/24 追加)
パラドックスを起こす期待対計算式として次のような式が提示されています。
他方の封筒の金額の期待値 = 0.5 (0.5 × あなたの封筒の金額の期待値) + 0.5 (2 × あなたの封筒の金額の期待値) = 1.25 × あなたの封筒の金額の期待値
私の注 1:
(2018/06/11 修正)
この論文が Nalebuff, Barry.(1989) を引用していることと、上記の内容から上記の問題文は Nalebuff, Barry.(1989) に書かれているアリババ型問題文とオリジナルの二つの封筒問題をミックスした問題文を考えているように思います。
Nalebuff, Barry.(1989) では次のようにして二つの封筒問題の問題文を提示しています。
  • アリババ型問題文を提示
  • オリジナルの二つの封筒問題では一方の封筒が他方の倍であることしか決まっていないことを説明
アリババ型問題文がオリジナルの二つの封筒問題より前に提示されるので読者は混乱します。
現に私は Barry Nalebuff が二つの封筒問題を勘違いしていると勘違いしました。

私の注 2:
パラドックスを起こす期待値計算式の中に「あなたの封筒の金額の期待値」が出て来ますが、この論文では平均値誤用説を唱えません。アリババ型問題文の影響かもしれません。
(↑ 2018/06/10 追加)


封筒A、封筒B、渡された封筒、他方の封筒のそれぞれの金額の期待値の関係
次のような関係式を立てています。
渡された封筒の金額の期待値 = 0.5 × 封筒Aの金額の期待値 + 0.5 × 封筒Bの金額の期待値 = 他方の封筒の金額の期待値


渡された封筒と他方の封筒の金額の平均値
(2019/02/23 追加)
封筒の金額の平均値を計算する方法ならパラドックスが起きないことを示しています。
種金額が s であるようなゲームを 400 回繰り返した場合、
渡された封筒の金額の平均値 = 200 × s + 100 × 2s + 100 × 0.5s = 450s
他方の封筒の金額の平均値 = 200 × s + 100 × 2s + 100 × 0.5s = 450 s

私の注 :
上記の式には2重コインフリップ版の二つの封筒問題に特有の 1.125 (=9/8) という数字が隠れています。 450 s / 400 回 = 1.125 s だからです。
この数字はこの論文を引用している「ある論文」にも出てきます。

2018/06/10 に、以下、大きな修正を加えました。

「可能世界(possible world) 」という用語
(2017/08/05 に追加。 2018/06/10 に大幅に修正)
「可能世界(possible world) 」という言葉が出て来ます。
種金額が $4 のとき、$2 か $8 が他方の封筒に入っている。
その封筒を渡された場合を考えると次のようにおかしな計算式になる。
$4 の期待値 = 0.5×(0.5×渡された封筒の金額の期待値) + 0.5×(2×渡された封筒の金額の期待値) = 1.25 × 渡された封筒の金額の期待値? (← 2020/2/23 修正)
そして次のように説明しています。
渡された封筒の金額が $2 と $8 の場合で、「可能世界(possible world)」が異なる。
他方の封筒の金額が $4 に固定され、渡された封筒の金額が可能世界によって異なると考えるべきところ、上記のおかしな式では、他方の封筒の金額が可能世界によって異なり、渡された封筒の金額が固定だと考えられている。

私の注 0:
"contents of envelope" という言葉が種金額でない方の金額、すなわち $2 や $8 を表していると、私は読みとっていました。
そのこと自体は合っていたのですが、その金額が「交換後の封筒」に、そして種金額の $4 が「渡された封筒」に入っている、というのは私の読み間違いだったので、上記のおかしな計算式を修正しました。
(↑ 2018/06/10 追加)


私の注 0.5:
$4 の期待値 = 0.5×(0.5×渡された封筒の金額の期待値) + 0.5×(2×渡された封筒の金額の期待値) という期待値計算式は次のような前提条件から導かれたものだと思います。 (← 2020/2/23 修正)
  • 種金額は $4 以外考えない。
  • 封筒Bを渡された場合に限定して期待値を計算する。
(↑ 2019/07/28 追加)

私の注 :
異なる可能世界をまたがってある確率変数の値を制限して「条件付期待値」を考えなければ数学的に二つの封筒問題を考えたことになりません。それを拒否したこの論文は数学的に二つの封筒問題を考えたくない人のための論文だと言えます。
この論文の著者がNalebuff, Barry.(1989) (Nalebuff は数学者) の冒頭部分しか読んでいないであろうこともわかります。


「厳格な指定子(rigid designator) 」という用語
(2017/08/05 に追加)
「厳格な指定子(rigid designator) 」という言葉が出て来ます。
「可能世界(possible world) 」で議論した式に関連して次のように説明しています。
上記のおかしな式の「渡された封筒の金額」が示す値が、項によって異なる「可能世界」に属している。 これは「渡された封筒の金額」という言葉が「厳格な指定子(rigid designator) 」でないことを示す。
(↑ 2018/06/10 修正)

私の注0 :
2018/06/10 に「交換後の封筒の金額」という言葉を「渡された封筒の金額」に訂正したことにともなって、下記の私の注も修正しました。

私の注1 :
この部分は「変数誤用説」に似ているようで別物です。渡された封筒が A封筒の場合には変数の使い方に問題がないので、この論文の執筆者が「変数の誤用が誤った期待値計算式を作った」と考えていないはずだからです。 (← 2019/07/28 修正)

私の注2 :
「渡された封筒の金額」という言葉を選んだことが「厳格な指定子」でなくなった原因だということにこの論文の著者は気づいていません。「渡された封筒の金額」を「渡された封筒に入った種金額の倍の金額」や「渡された封筒に入った種金額の半額の金額」、あるいは「渡された封筒に入った種金額」のように修正すれば済むことです。

2018/06/10 に、ここまで、大きな修正を加えました。

変数混乱説」の「2重コインフリップ版」とでも呼ぶべき説
(2019/07/28 表題修正)


この論文の最後に書かれている説を分かりやすく書き直すと次のようになりました。
(2019/07/28 に重大な読み間違いを何か所か修正しました)
パラドックスを起こす期待値計算式を再掲する。
他方の封筒の金額の期待値 = 0.5 (0.5 × あなたの封筒の金額の期待値) + 0.5 (2 × あなたの封筒の金額の期待値) = 1.25 × あなたの封筒の金額の期待値
この式はあなたが封筒A を渡されたとあなたが知っている場合には正当だが、封筒B を渡されたと知っている場合や、どちらを渡されたかを知らない場合には正当でない。

ここで封筒A に入っている種金額を s と置くと次のようになる。 (← 2019/07/28 修正)
渡された封筒 この式の診断結果
封筒A この式の第1項と第2項の「あなたの封筒の金額」はどちらも種金額s を表している。(2019/07/28 修正) この部分は執筆者が二組の金額ペアを考えることができたことを示しています。
(2019/07/28 修正)
封筒B この式の第1項の「あなたの封筒の金額」は2s、第2項の「あなたの封筒の金額」は0.5s を表している。(2019/07/28 修正) この部分は
変数混乱説」の
2重コインフリップ版
と呼ぶことができます。
(2019/07/28 修正)

この診断により、すべてのパズルが解けた。

私の注1 :
この論法はこの論文を引用している「ある論文」の論法によく似ています。

私の注2 :
この論文が英語版 Wikipedia の記事 "Two envelopes problem" の初期の編集者に影響を与えたことはなさそうです。 ( "Two envelopes problem" の 2005年当時の参考文献に含まれていない)
しかし、変数誤用説の発生に、Nalebuff, Barry.(1989) が重要な役割を演じたという私の説を補強するものだと思います。
こんなややこしい論文のきっかけになった Nalebuff, Barry.(1989) はつくづく罪作りな論文だと思います。


この論文は二分の三説によく似た八分の九説を唱えている
(↑ 2020/02/23 修正)
1.25 という数字はこの論文に出てきますが、1.5 も 3/2 も出てこないことから、この論文で二分の三説を唱えていないことがわかります。
しかし八分の九説 が「400回のゲームの平均が450s である」という形で隠れていました。 (← 2020/02/23 修正)

私の注 :
この論文のように確率 1/2 を疑わない論文で二分の三説を唱えていないものは極めてまれだと思います。
ちなみに、この論文を引用している「ある論文」では八分の九説二分の三説の両方を唱えています。 (← 2020/02/23 修正)


この論文の趣旨に沿って条件付期待値の計算式を求めたらどうなるか

(2018/06/16 追加)

この論文の主旨を一言で言い表すと、「二つの封筒問題の期待値計算式は、種金額が他方の封筒に入っているケースを忘れている」 といった具合になります。
そこで種金額が他方の封筒に入っているケースも考慮に入れつつ、選んだ封筒の金額を条件として、確率分布が離散的な場合の期待値計算式を求めてみました。
種金額の確率分布を s(x) , 小額側の金額の確率分布を g(x) で表すことにします。
x が小額側の金額であるケースは x が種金額で他方が 2xのケースと 2x が種金額でx が他方の金額であるケースに分かれますから、
g(x) = (1/2)s(x) + (1/2)s(2x) = (1/2)(s(x) + s(2x))
となります。
よって、選んだ封筒の金額が x のときの他方の封筒の金額の期待値は、二つの封筒問題の期待値の公式により、
E = ((1/2)(s(x/2) + s(x))(x/2) + (1/2)(s(x) + s(2x))2x) / ((1/2)(s(x/2) + s(x)) + (1/2)(s(x) + s(2x))) = (s(x/2)(x/2) + s(x)(5x/2) + s(2x)2x) / (s(x/2) + 2s(x) + s(2x))
となります。
この論文でここまで筆を進めていたら、この論文を読んだ数学者がある論文を書くようなことは無かったでしょう。

2020/2/23 に「この論文の趣旨に沿って種金額を条件とする期待値の計算式を求めたらどうなるか」という段落を削除しました。

参考文献

用語解説



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