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2018/05/11 5:16:13
初版 2018/04/21

長きにわたって英語版Wikipedia が参照している論文

英語版 Wikipedia の記事 "Two envelopes problem" の初期 (2005年) から参照されている論文が 2018年にも参照されていました。 Google Scholar で調べるとあまり価値はなさそうな論文なので逆に興味をそそります。
以下、その論文を 「この論文」 と呼ぶことにします。

この論文の内容

書かれた時期
英語版 Wikipedia の記事
"Two envelopes problem"
のリビジョン
参照されている
この論文 の版
21:47, 3 October 2005 February 2004
18:05, 11 February 2018 March 2008

2008 年販が一番すっきりしていて読みやすそうなので、以下、これを読んでいくことにします。

使用している問題文
「開ける前に交換型」 の問題文を採用していて、次のような期待値計算式を示している。
The expected value of Envelope B = (0.5)½X + (0.5)2X = (1.25)X.

私の注: この式の前に次のような文言を書いているので、この論文の著者が二組の金額ペアのイメージを持っていることがわかります。
Double or nothing is a fair bet, double or half is more than fair.
一組の金額ペアだけなら unfair な掛けになり得ないからです。


「開けてから交換型」の問題に対する意見
「開けてから交換型」 の問題の議論を好まない理由を上げている。
  • 封筒を交換すべきかどうかが開けてみた金額によって変わるということは常識である。
    奇妙な確率分布のみ、開けてみた金額に関係なく封筒を切り替えなければならない結果を生じる。
  • あるいは、彼らは数学的根拠が不明な発言をしている。
  • あるいは、彼らは期待対計算式の中の変数に必要以上の制約を与えている。 

私の注:
  • 「封筒を交換すべきかどうかが開けてみた金額によって変わるということは常識である」 という意見はとても不思議です。
    「開けてから交換型」 の場合は確率が 1/2 とは限らないということを理解しながら 「開ける前に交換型」 の場合には確率が 1/2 固定だと思っているのでしょうか?
  • この論文が参考にしている論文の中から数学者による論文の主要なものを抜き出してみました。 これらは皆、パラドキシカル分布を扱っているので、この論文が言う "weird probability distributions"(奇妙な確率分布)とはこのことだと思われます。
  • 「彼らは数学的根拠が不明な発言をしている」 というのは、金額に上限や下限を与える思考方法のことかも知れません。
    確率が常に 1/2 であることの反例として上限や下限があるケースを考えていることに、この論文の著者たちは気づかなかったのかも知れません。
  • 「彼らは期待対計算式の中の変数に必要以上の制約を与えている」 というのは、この後の Frank Jackson, Peter Menzies, and Graham Oppy の論文への批判 で具体的に書かれています。


問題を解くヒントになる類似の問題
次のようなゲームを類似問題として上げている。
一つの封筒に数種類の金額が等確率で入っている。
金額の種類には10ドル未満の種類と10ドル以上の種類があり、どちらも同数である。
10ドル未満だったら倍の金額を貰えて10ドル以上だったらその金額をもらえる賭けと、10ドル以上だったら倍の金額を貰えて10ドル未満だったらその金額をもらえる賭けのどちらの賭けをするか?
そして、「二つの封筒問題の論法ではこれら二つの賭けが同等になってしまう」 と主張している。
封筒の金額を X であらわすと、どちらの賭けでも倍になる確率は 1/2 なので、どちらの期待値も (1/2)2X + (1/2)X = (3/2)X となり、二つの賭けは同等である。
そして、平均値誤用説的な解を提案している。
最初の賭けでは、倍になるXは倍にならないXより小さく、2番目の賭けでは、倍になるXは倍にならないXより大きい。

私の注:


上記の類似問題の解から二つの封筒問題の解を類推
平均値誤用説を下記のような表現で述べています。
2X の項の X の期待値と ½X の項の X の期待値は異なる。
(↑ 2018年5月10日 修正)

私の注:
  • 2018/04/21 に 「前の段では平均値誤用説的な解を提案しながらこの段で変数誤用説に進んでしまったため、この論文をややこしものにしています」 と書いてしまいましたが、勘違いでした。
    (↑ 2018年5月10日 修正)


正しい期待値計算式
次のようにして二分の三説の平均値版を唱えています。
次のように考えることが適切である。
  • 小額側の封筒の金額を X と置き、封筒B の金額の金額の期待値を (1/2)X+(1/2)2X = (3/2)X のように計算する。
  • 封筒A の金額の期待値も同様に計算する。
このような計算式では、最初の項の X の期待値と二番目の項の X の期待値が一致する。
(↑ 2018年5月10~11日 修正)

私の注:
(↑ 2018年5月11日 追加)


期待値計算式の中の確率変数が一般的に満たすべき条件
(2018/04/22 に内容を訂正)
次のような式を提案しています。
倍率とマージンでケースを分類します。
全てのケース Aiについて、E(X|Ai) = E(X)。

私の注:
後に出てくる彼らの説の一般化 で、著者たちが考えているゲームが、種金額が何倍かされて、それにいくらかの金額が足されたり引かれたりして金額が決まる形式のものだとわかります。
つまり、二つの封筒問題の期待値計算式を一般化した形式の期待値計算式を考えていたことがわかります。
さらに、平均値誤用説に立脚しながら二分の三説に誘導するためにこのような条件を考えたこともわかります。
(↑ 2018年5月11日 修正)


Frank Jackson, Peter Menzies, and Graham Oppy の論文への批判
Jacksonらの論文の内容の一部に対して次のような批判を述べています。
Jacksonらは、"E(Y)=(1/2)(X/2)+(1/2)2X" という期待値計算式が成り立つためには、Xのすべての値に対してY=X/2とY=2Xが等確率でなければならないと述べている。
しかしこの条件は、二つの封筒問題に妥当する他のケースを排除してしまう。
そして上記の原則が排除してしまうケースとして次のような Mさん、Tさん、Gさんのケースを上げています。
あなたはMさんから金を奪おうとしている。
そのとき、TさんやGさんがその場に来る確率は等しい。
通常、Tさんの所持金はMさんの所持金の半分である。
通常、Gさんの所持金はMさんの所持金の倍である。
Mさんの所持金をXとし、ちょうどそこへ来たMさん以外の人の所持金をYとすると、Mさん以外の人から金を奪った場合の期待値は E(Y)=(1/2)(X/2) + (1/2)2X である。
しかし、個々のケースではTさんの所持金がMさんの半分とは限らず、Gさんの所持金がMさんの倍とは限らない。
そして、平均の倍率ではなく個々のケースでの倍率を論じることについて次のような意見を述べています。
個々のケースごとにYの期待値を論じるような純粋主義がパラドックスの原因だ。
Jeffrey, R.C. (1995). で述べているように X が定数なら個々のケースで考えてよい。

私の注:
  • Jacksonらの論文には次のような文言がありますが、上記の批判はこれに対するものかも知れません。
    This means that the first way of doing the calculation involves supposing that for any value of x, if $x is the amount of money in some particular envelope, it is equally likely that $2x or $0.5x is the amount in the other envelope.
  • 上記の「通常、Tさんの所持金はMさんの所持金の半分である」といった表現は数学的に曖昧です。
  • この Mさん、Tさん、Gさんのケースはこの論文の他の段落と整合性が取れていません。他の段落では、倍率がいくつかの種類に限定されているからです。(二つの封筒問題で選んだ封筒の金額を種金額とすれば 2倍と 1/2倍。 小額側の金額を種金額とすれば 1倍と 2倍。)
    このことから、Jackson らの論文を批判するこの段落は全体の中で遊離しているように思います。
  • 数学的標準説では個々のケースでの期待値を何の問題もなく計算できます。


彼らの説の一般化
(2018/04/22 に内容を訂正)
次のような二つの賭けを比較しています。
賭け1 : 種金額の半分をもらえるケースと種金額の2ドル増しをもらえるケースがあり、それぞれの種金額の平均がどちらも2ドルである。
賭け2 : 種金額の7割に1ドル加えた額をもらえるケースと種金額の7割をもらえるケースがあり、それぞれの種金額の平均がどちらも2ドルである。
そしてどちらの賭けの種金額も 「期待値計算式の中の確率変数が一般的に満たすべき条件」 を満たしているので、種金額を変数として期待値を計算して比較することがきると結論付けています。
そして、そのようなことが許されることを次のような論法で証明しています。
倍率とマージンでケースを分類します。
そうすると、
個々の種金額を使って計算する期待値
= ケース毎の種金額の平均値を使って計算する期待値
= 全ケースでの種金額の平均値を使って計算する期待値
そして、種金額の平均値を額面の確率変数に置き換える方法で、二つの封筒問題の直観的な期待値計算式 E(Y)=(1/2)X + (1/2)2X が得られるとしています。

私の注 :
結局、この論文は二分の三説を信奉する人が考えた新種の説明だということになりそうです。
平均値誤用説とは似て非なる物のようです。
最終的に確率変数を使って期待値計算式を表現することにこだわっているからです。

結論
彼らの説は二つの封筒問題に興味をもった人にとって有用であると主張しています。

私の注 :
下記の理由で迷惑な論文です。
  • 平均値誤用説のようでもあり、変数誤用説二分の三説のようでもある。
    (↑ 2018年5月11日 修正)
  • 期待値計算式中の確率変数について 「全てのケース Aiについて、E(X|Ai) = E(X)」 という特殊な条件を提案している。 (← 2018/05/07 修正)


英語版 Wikioedia の記事 "Two envelopes problem" での参照

英語版 Wikipedia の記事
"Two envelopes problem"
のリビジョン
この論文 の参照のされ方
21:47, 3 October 2005 参考文献の一つとして参照しています。
22:05, 3 October 2005 Brian Weatherson という人とこの論文の著者との議論を参照しています。
2011年 編集戦争が激しかった年で、二分の三説が消されたり復活したりする中で、この論文への参照は消されました。
10:00, 9 February 2012 編集者のGさんが平均値誤用説の説明の後に、金額ペアを一つに限定したときの計算の例としてこの論文を取り上げました。
(2012年2月の 7日 20:18 から 11日 15:07 に掛けてGさんが一人で大編集をしました)
17:00, 16 November 2014 Gさんが平均値誤用説を前面に出したリビジョンです。
なぜかこの論文への参照が消されています。
17:45, 22 November 2014
(2018/05/01 修正)
編集者のHさんが二つ前のリビジョンで記号Xは変数でなく平均値だと解釈を変更しました。
そしてこのリビジョンで、平均値誤用説による下記の計算式の参考文献としてこの論文を取り上げました。
Expected value in B = 1/2 ( Expected value in A (given A is larger than B) + Expected value in A (given A is smaller than B) )
この論文のケース毎の平均値を考える考え方が共通すると言いたいのでしょう。
しかし、上記の式の右辺の各項に倍率の係数が書かれていないのでこの論文を参考文献とすることに無理があります。
(2018/05/01, 05/10 修正)
00:12, 10 January 2018
(2018/05/01 追加)
編集者のJさんによって、この論文を参考文献とする式が次のように修正されました。
Expected value in B = 1/2 ( (Expected value in B, given A is larger than B) + (Expected value in B, given A is smaller than B) )
右辺に種金額である A の中の金額が書かれていないので、修正前よりさらにこの論文から遠ざかりました。
(2018/05/10 修正)

これを見ると、"Two envelopes problem" の編集者には、この論文の主旨である確率変数の満たすべき条件に対する関心はなさそうです。
GさんとHさん以外の編集者がこの論文を重視していなそうなこともわかります。
過去に、この論文が参照されていなかった長い期間があったこともわかります。

全てのケース Aiについて、E(X|Ai) = E(X) という条件を数学的に検証

(2018/04/22 に内容を訂正)

倍率とマージンでケースを分類して、ケース Ai での倍率を Ri, マージンを Bi で表します。
X を種金額を表す確率変数とし、Yを賭けの結果を表す確率変数とします。
そうすると、
E(Y)
= ∑(P(倍率がRi ∧ マージンが Bi ∧ X=x) Rix + Bi)
= i(P(倍率がRi ∧ マージンが Bi) RiE(X | 倍率がRi ∧ マージンが Bi) + Bi)       ⋅ ⋅ ⋅ (1)
= i(P(倍率がRi ∧ マージンが Bi) RiE(X) + Bi)。       ⋅ ⋅ ⋅ (2)
(1) で law of total Expectation を使用。
(2) でこの論文が提唱している条件を使用。


この論文の著者たちの心理の推察

倍率毎に平均を考えたわけ

(2018/04/22 に内容を訂正)

あくまでも想像にすぎませんが、次のような説が考えられます。

倍率毎に平均を考えたにもかかわらず平均値誤用説に至らなかったわけ

(2018/04/22 に内容を訂正)

あくまでも想像にすぎませんが、次のような説が考えられます。

Wikipediaで参照されたことのある批判

(2018/04/22 にこの章を追加)

英語版 Wikipedia の記事 "Two envelopes problem" のリビジョン 22:05, 3 October 2005 で、Brian Weatherson という人とこの論文の著者との議論を参照しています。

Weatherson さんが行った批判

Weatherson さんが行った批判の前半部分は次のとおり。

神様が実数区間 [0, 1] を二つの非可測集合 S1 と S2 に分けたと思ってください。
神様は区間 [0, 1] からランダムに実数を一つ選びます。
神様は、それが S1 の要素なら赤封筒に10ドルを入れ、S2の要素なら20ドルを入れます。
次に神様は二つのサイコロを振り、6のゾロ目なら赤封筒の金額に5ドル加えた金額を青封筒に入れ、そうでなければ5ドル引いた金額を入れます。
貴方はどちらの封筒を選びますか?
私は赤を選びます。確率 35/36 で赤が青より5ドル多いからです。
S1 と S2 が非可測集合なので確率を計算できず、結果として赤封筒の金額の平均を計算できないため、この論文が提案する条件では私の判断は間違いになります。
しかし、赤封筒と青封筒の金額の差の期待値は計算できるので、この論文の提案は間違っています。

Weatherson さんが行った批判の後半部分では、次のようなことを述べています。

二つの封筒問題が期待効用理論で解決できるということに疑念を抱いている。

この論文の著者の一人による反論

この論文の著者の一人が、確率が計算できないときは無差別の原理 (principle of indifference) に則って確率を 1/2 にすればよいと反論しました。

別の人による反論

数学に詳しい人が非可測集合に対しても確率を定義できると反論しました。


参考文献

用語解説



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