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2013/06/07 に 「自己流の期待値計算をしたり、期待値から目をそむけたりして、交換しても有利なわけがないと、そればかり念じるパラドックス」 を二つに分けました。
2013/06/07 に 「パラドックスを起こさない考え方を見つける問題だと勘違いした人にとってのパラドックス」 を追加しました。
「二封筒問題」(Two envelopes problem) は「二つの封筒のパラドックス」( Two Envelope Paradox) とも呼ばれます。
しかしそのパラドックスは一つではありません。
ある人にとっては、
「交換した後の期待値が選んだ封筒の金額によらず交換する前の 1.25 倍であること」
がパラドックスです。
ある人にとっては、
「封筒の中身によらず常に封筒を交換した方がよいという事実が二つの封筒は互角だという信念を脅かす」
ことがパラドックスです。
その他、さまざまなパラドックスを人々は感じます。
このページでは、二つの封筒問題で人々が感じるパラドックスの整理を試みました。
そして二つの封筒問題に関する怪しげな説(おまじない)をそれらのパラドックスと関係づけて整理しました。
2015/08/30 18:07:19
このページの初版 2015/03/30
「二つの封筒問題のパラドックスたち」の初版 2013/11/04
「二封筒問題のおまじない」の初版 2013/09/02
二つの封筒問題のパラドックスたちとそのおまじない
2013/03/29 に 「二つの封筒問題のパラドックスたち」 と 「二封筒問題のおまじない」 を合体させました。2013/06/07 に 「自己流の期待値計算をしたり、期待値から目をそむけたりして、交換しても有利なわけがないと、そればかり念じるパラドックス」 を二つに分けました。
2013/06/07 に 「パラドックスを起こさない考え方を見つける問題だと勘違いした人にとってのパラドックス」 を追加しました。
「二封筒問題」(Two envelopes problem) は「二つの封筒のパラドックス」( Two Envelope Paradox) とも呼ばれます。
しかしそのパラドックスは一つではありません。
ある人にとっては、
「交換した後の期待値が選んだ封筒の金額によらず交換する前の 1.25 倍であること」
がパラドックスです。
ある人にとっては、
「封筒の中身によらず常に封筒を交換した方がよいという事実が二つの封筒は互角だという信念を脅かす」
ことがパラドックスです。
その他、さまざまなパラドックスを人々は感じます。
このページでは、二つの封筒問題で人々が感じるパラドックスの整理を試みました。
そして二つの封筒問題に関する怪しげな説(おまじない)をそれらのパラドックスと関係づけて整理しました。
二つの封筒問題のパラドックスの大分類
2014/09/22 になって私は、二つの封筒問題の主要なパラドックスが次のように大分類できることに気づきました。- 期待値計算式の確率部分に誤りを予想できる人が感じるパラドックス
- 期待値計算式の誤りを予想できない人が感じるパラドックス
- 条件付期待値が理解できずに、期待値計算式の変数記号の解釈を変えてでも誤りを見出そうとする人が感じるパラドックス
- 自己流の期待値計算をしたり、期待値から目をそむけたりして、交換しても有利なわけがないと、そればかり念じるパラドックス
さらに、2015/6/7 になって分類を次のように修正しました。
- 期待値計算式の確率部分に誤りを予想できる人が感じるパラドックス
- 期待値計算式の誤りを予想できない人が感じるパラドックス
- 条件付期待値が理解できずに、期待値計算式の変数記号の解釈を変えてでも誤りを見出そうとする人が感じるパラドックス
- 自己流の期待値計算をしたりして、交換しても有利なわけがないと、そればかり念じるパラドックス
- 期待値から目をそむけたりして、交換しても有利なわけがないと、そればかり念じるパラドックス
- パラドックスを起こさない考え方を見つける問題だと勘違いした人にとってのパラドックス
二つの封筒問題のおさらい
二つの封筒問題のパラドックスを分類する前に、二つの封筒問題をおさらいします。「封筒を開ける前に交換型」 と 「封筒を開けてから交換型」 の 2種類がある
「封筒を開ける前に交換型」の二封筒問題とは次のような錯覚現象を言います。- お金もしくは小切手の入った二つの封筒があり、一方には他方の倍の金額が入っている。
- どちらが大きな金額か知らないでランダムに封筒を選ぶと中身がもらえる。
- 選らんだ封筒の中身を x とすると、もう片方の中身は
確率 1/2 で x/2、確率 1/2 で 2x だ。 - だから選ばなかった方の金額の期待値は
(1/2)(x/2) + (1/2)2X = 1.25x で x より大きい。 - 選ばなかった方の金額の期待値の方が大きいから封筒を替えさせてもらおう。
- その後で同じことを考えるので永久に封筒を替え続けることになってしまう???
- 不思議だ。
- お金もしくは小切手の入った二つの封筒があり、一方には他方の倍の金額が入っている。
- どちらが大きな金額か知らない二人の兄弟がランダムに別々の封筒を選ぶ。
- 二人は相手に分からないようにして封筒の中身を見る。
- 兄弟の一人の封筒の中身は x だったので、次のように考えた。
- もう一人の封筒の中身は
確率 1/2 で x/2、確率 1/2 で 2x だ。 - だからもう一人の封筒の金額の期待値は
(1/2)(x/2) + (1/2)2X = 1.25x で x より大きい。 - もう一人の封筒の金額の期待値の方が大きいから封筒を交換することを提案しよう。
- 兄弟ともに同じことを考える???
- 不思議だ。
パラドックスの元となる期待値計算式
二封筒問題のパラドックスは、封筒の金額に対して、封筒を交換したときに倍になる確率と半減する確率が等しいという錯覚に端を発します。こうした錯覚のため、最初に選んだ封筒の金額 x に対して選ばなかった方の封筒の金額の期待値を次のような式で計算してしまいます。
これが二つの封筒問題のさまざまなパラドックスを引き起こします。
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期待値計算式の確率部分に誤りを予想できる人が感じるパラドックス
二つの封筒問題のパラドックス期待値計算式は
e = (1/2) (x/2) + (1/2) 2x = 1.25x
であるが、そうすると常に封筒を交換した方がよくなってしまう。 どこがおかしいのか?
であるが、そうすると常に封筒を交換した方がよくなってしまう。 どこがおかしいのか?
に対して、 1/2 という確率の値がパラドックスの原因だと見抜いた人が、それでもなお感じ続けるパラドックスです。
確率の錯覚が原因だと気づいても安心できないパラドックス
数学が得意な人たちは 「確率の錯覚」 が二つの封筒問題のパラドックスの原因であることにすぐ気が付きます。しかし、論理的にパラドックスを解消しただけでは安心できずに、次のような数学的な疑問 (不安?) を感じます。
- 交換で半減する確率 (注) と倍増する確率 (注) が常に等しい 「同確率条件」 が成立する場合もあるのではないか?
注:選んだ封筒の金額を条件とする条件付確率
確率の錯覚が原因だと気づいても安心できないパラドックスを解決しようとするおまじない
–––同確率条件が常に成立することがないことを証明しただけでパラドックスが解決したとする勘違い–––
封筒を交換して金額が倍や半額になる確率が常に等しい金額分布は上限がない一様分布である。
しかしそのような確率分布は存在しない。
したがって二封筒問題のパラドックスはもともと存在しない。
あり得ないことを仮定したことがパラドックスの原因である。
しかしそのような確率分布は存在しない。
したがって二封筒問題のパラドックスはもともと存在しない。
あり得ないことを仮定したことがパラドックスの原因である。
このような議論は数学的には間違っていませんが、数学的議論として次のような物足りない部分があります。
- 同確率条件にのみ関心をよせていますが、常に交換が有利な金額分布についての議論が欠けています。 二つの封筒問題の数学的研究の主要テーマを外してはいけません。
- 金額の平均値に無限大を許せば、同確率条件 が成り立つ金額分布に限りなく近づけることができることに気づいていません。 …金額ゼロの近傍を除いた話ですが…
- ベイズ理論により確率分布を推定するプロセスの出発点としてなら、確率の総和が ∞ の確率分布もありうるとする立場があることを外してはいけません。
- 「あり得ないことを仮定したことがパラドックスの原因である」 という説は心理学的には考えづらく、確率の錯覚の原因は別のところにあります。 そんな器用な仮定が出来る人が確率を錯覚するはずもないからです。
期待値計算式の誤りを予想できない人が感じるパラドックス
二つの封筒問題のパラドックス期待値計算式は
e = (1/2) (x/2) + (1/2) 2x = 1.25x
であるが、そうすると常に封筒を交換した方がよくなってしまう。 どこがおかしいのか?
であるが、そうすると常に封筒を交換した方がよくなってしまう。 どこがおかしいのか?
に対して、 「そうすると常に封筒を交換した方がよくなってしまう」 という結論の方に原因を見出そうとする人たちのパラドックスです。
このおまじないには次のような種類があります。
封筒を交換する方が有利だとしても封筒の同等性を回復したい人の感じるパラドックス
「毎回封筒を交換する方が有利であったとしても二つの封筒に優劣は無い」 ということを確信させてくれる説明を求める人たちが感じるパラドックスです。開ける前の二つの封筒にもともと優劣がないことの証明や何回もゲームを反復したときの総計の比が 1 : 1 に近づくことを考えたりします。
私がこのパラドックスの存在に気づいたきっかけはこうです。
QAサイトや掲示版などで、二封筒問題に関する議論を見ていると、二つの封筒にもともと優劣がないことの証明や、ゲームを繰り返していくと封筒を交換してもしなくても有利さに差がなくなることなどの説明で安心してしまう人たちがいました。 それがこのパラドックスの存在に気づいたきっかけです。
こうした人たちにとっては
このような人たちが唱えがちなおまじないはこちらです。
「封筒を交換する方が有利だとしても封筒の同等性を回復したい人の感じるパラドックス」 を解決しようとするおまじない
–––可能な金額全体を考えるパターン–––
まず、用語の曖昧さをなくすために次の用語を定義します。
- 「条件付期待交換倍率」 という言葉で、選んだ封筒の金額に対する交換後の金額の倍率の選んだ封筒の金額を条件とする期待値を表すことにします。
- 「条件付期待交換利得」 という言葉で、交換後の金額と選んだ封筒の金額の差額の選んだ封筒の金額を条件とする期待値を表すことにします。
そのためによく使われるのが、選んだ封筒の金額を特定して議論するのでなく、可能な範囲全体で考えて、封筒を交換してもしなくても有利さに差がないことを証明しようとするおまじないです。
このような考え方がおまじないであることは次のようにしてわかります。
- 「封筒を開ける前に交換型」の二封筒問題であれば、封筒を交換してもしなくても変わりがないことは数学的には自明なので、そのことを証明しても「おまじない」としての価値しか持たない。
-
「封筒を開けてから交換型」の二封筒問題であれば、「条件付期待交換倍率」 が1より大であるという条件のもとでは、 選んだ封筒の金額全体での 「条件付期待交換利得」 の平均がゼロより大であることは自明です。
(補足 : 金額の平均値が有限なら、「条件付期待交換倍率」 が1より大であるという条件のもとでは、ゲームを繰り返したときに選んだ封筒の金額の総計と他方の封筒の金額の総計の比が 1 に収束しないことも証明できそうです。)
例1 個々の金額について交換利得の期待値が正でも全体を均せば互角だとするおまじない
ある人が書いた文に現れたおまじないを要約すると次のようになります。
選んだ封筒の金額を証拠事象とする交換利得の条件付き期待値は正である。 · · · (1)
しかし、個々の金額ペアに着目すると、封筒を開ける前なら二つの封筒が互角である。 · · · (2)
個々の金額について交換利得の期待値が正でも全体を均せば互角になる。 · · · (3)
したがって (1) と (2) は矛盾しない。
しかし、個々の金額ペアに着目すると、封筒を開ける前なら二つの封筒が互角である。 · · · (2)
個々の金額について交換利得の期待値が正でも全体を均せば互角になる。 · · · (3)
したがって (1) と (2) は矛盾しない。
そして (3) を導くために独特の理論を繰り広げていました。
このおまじないの特徴は、個々の金額に着目したときの交換利得の期待値が金額によらず常に正でも問題ないとしている点です。
金額の期待値が無限大でなければ、このようなことが起きないことに気づいていません。
二つの封筒が互角であることを証明した満足感が、パラドックスを消し去ったかのような錯覚を感じさせているのでしょう。
例2 金額の上限が無い場合を重視して実数全体で考えるおまじない
個々の金額について、交換期待倍率は 1.25 で間違いない。
しかし、実数全体で、金額の上限がない場合を考えれば、2倍にする前の金額も2倍にした後の金額も 等しく分布しているのだから、実際にもらえる金額の期待値に差異はない。
しかし、実数全体で、金額の上限がない場合を考えれば、2倍にする前の金額も2倍にした後の金額も 等しく分布しているのだから、実際にもらえる金額の期待値に差異はない。
このおまじないを唱えているページを二つ見かけました。探せばもっとありそうです。
「封筒を交換する方が有利だとしても封筒の同等性を回復したい人の感じるパラドックス」 を解決しようとするおまじない
–––ゲームの反復を考えるパターン–––
「個々の金額について交換利得の期待値が正でも全体を均せば互角だとするおまじない」には次のような変形版があります。
一回一回のゲームで選んだ封筒の金額 x に対する他方の封筒の金額 y の期待値が x より大だとしても、ゲームを無限に反復すれば、封筒を常に交換する戦略と決して交換しない戦略の獲得金額の比が 1 に収束するから二つの封筒の互角性が証明された。
期待値1.25倍のゲームを繰り返すと1倍に近づいて行く???
個別の試行で封筒を交換した後の期待値が1.25倍というのは、
何回もゲームをして封筒を交換しつづけたときの期待倍率を意味しない。
では何を意味しているのか???
平均値が有限の場合
条件付き交換期待倍率が 1 より大なら、選ばなかった方の封筒の金額の平均値が選んだ方の封筒の金額の平均値より大になります。このようなことはあり得ないので、上記の説明は的外れな説明をしていることになります。
平均値が ∞ の場合
Norton, J.D. 1998. で調べている パラドキシカル分布 の場合、ゲームを無現に繰り返すと次のようになります。
- 条件付き期待交換利得の平均は ∞ に発散する。
- 選んだ封筒の金額の総和と選ばなかった方の金額の総和の差は、0 と ∞ の間を振動する。
「選んだ封筒の金額の総和と選ばなかった方の金額の総和の比がゲームを繰り返すと 1 に近づく」 というのは 「理論的予想」 ではなく 「希望的予想」 と呼ぶべきものでしょう。
ゲームを反復したときの結果を感覚的に考えるパターンもあります。
金額の上限がない場合を考えれば、大きな一発で大損して、それまでの得を失う可能性があるから、交換期待倍率が 1.25 でも、繰り返しても得にはならない。
大きな一発で得をして、それまでの損を挽回できる可能性もあることに気づかないのは、パラドックスを解消したい一心で目がくらんだのでしょう。
期待値があてにならないこともあるとしたい人の感じるパラドックス
期待値計算式を疑わないかわりに、計算結果の有効性を疑う人たちもいます。ある人は、期待値計算の結果に惑わされないようにすべきだと説いていました。
ある人は確率論や期待値の基礎を説きながら、期待値が有効でないケースの例として二つの封筒問題を取り上げていました。
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条件付き期待値が理解できずに、期待値計算式の変数記号の解釈を変えてでも誤りを見出そうとする人が感じるパラドックス
二つの封筒問題のパラドックス期待値計算式は
e = (1/2) (x/2) + (1/2) 2x = 1.25x
であるが、そうすると常に封筒を交換した方がよくなってしまう。 どこがおかしいのか?
であるが、そうすると常に封筒を交換した方がよくなってしまう。 どこがおかしいのか?
に対して、変数記号 x の方に原因を見出そうとする人たちのパラドックスです。
このおまじないには次のような種類があります。
期待値計算式の変数記号の間違いと考える人のパラドックス
次のような特徴を持った人たちは、二つの封筒問題について独特の考え方を示します。- 変数記号を使った数式や期待値の概念に慣れていない。
- 封筒の中身の金額について、ある金額とその倍額の二種類しか思い浮かべることができない。
こういう人たちが感じているパラドックスは、二つの封筒問題の通常のパラドックスとは異次元の世界のものなのですが、こまったことに後者の 「変数の誤用説」 は有名な心理学者までもが唱えたりしているので、「二封筒問題のおまじないの王様 – 変数誤用説 –」 で詳しく調べてみました。
「期待値計算式の変数記号の間違いと考える人のパラドックス」 を解決するためのおまじない
–––「二組金額ペア原因説」–––
「単一金額ペアへの固執」 を起こした人が次のような迷信にとらわれることがあります。
- 期待値計算式が
(1/2)(x/2) + (1/2)2x だとしたら、x/2, x, 2x という 3つの金額があることになるが、封筒は2つしかないのでおかしい。 - 金額が A と 2A の二通りしかないことを意識して期待値計算式を書けば、封筒を交換してもしなくても同等であることがわかるので、このように 2つの金額だけ、つまり一組の金額ペアだけを考えなければならない。 ← 二組の金額ペアを考えるのは間違っているという迷信
このおまじないの背後にある錯覚現象
ネットのQAサイトでの回答者同士の議論を読んでみると、このおまじないを唱える人の心理の背後に、選んだ封筒の金額を軸に考えるやり方と、二つの封筒の金額の組み合わせを軸に考えるやり方が、同じ問題を考えていると錯覚する現象、スマリヤンの錯覚 があるのかも知れません。
ネット上での議論を見ていると、この迷信に囚われた人の目を覚まさせることは非常に困難なことがわかります。
その原因について 2015/03/29 に次のような仮説を思いつきました。
- この人たちは一度は期待値計算式を受け入れてパラドックスを感じた。
- 確率 1/2 が間違っているという標準的な説明を読んでも、受け入れることができない。
- 期待値計算式に単一の金額ペアに属する金額しか現れないようにすると確率 1/2 を温存しながらパラドックスが解消することに気づいた。
- 二組の金額ペアを考えたことがパラドックスの原因だ。 自分は重大な発見をした。 と彼らは勘違いした。
「期待値計算式の変数記号の間違いと考える人のパラドックス」 を解決するためのおまじない
–––「変数誤用説」–––
このおまじないは次の二つの部分から構成されています。
- 期待値計算式が
(1/2)(x/2) + (1/2)2x だとしたら、最初の x は大きい方の金額 2A、後の方の x は小さい方の金額 A を表しているので間違っている。 ← 変数誤用説 - 金額が A と 2A の二通りしかないことを意識して期待値計算式を書けば、封筒を交換してもしなくても同等であることがわかる。
このおまじないをネットで高頻度で見かけ、パラドックスや確率関係の通俗的な書籍でも何冊か見かけるので 「二封筒問題のおまじないの王様」 と名付けました。
2015/03/29 に私はこのおまじないと 「二組金額ペア原因説」 の関係について次のような仮説を思いつきました。
- 「二組金額ペア原因説」 を唱える人も一度は期待値計算式を受け入れていたので、どうしてそのような計算式になったのか説明する必要性を感じた。
- 自分で思いつくか人が書いたものを読んだりして 「変数誤用説」 を知った。
2015/8/29 には 「二組金額ペア原因説」 と 「変数誤用説」 の関係について次のような説を思いつきました。最も有望な説だと思います。(2015/8/29 現在)
- どちらの説を唱える人も、
E = (1/2)(x/2) + (1/2)2x はE = (1/2)2a + (1/2)a の書き間違いだという説を採用した。 - その説を正当化するために、ある人は 「二組金額ペア原因説」 を唱え、ある人は 「変数誤用説」 を唱えた。
「変数誤用説」 を唱える人の思考プロセスについて 「二封筒問題のおまじないの王様 – 変数誤用説 –」 で詳しく考えて見ましたが、結局、心理学者が実験しないことには解明できなそうです。
封筒を開ける前後で異なるパラドックスを感じる人のパラドックス
「封筒を開ける前に交換型」 の二封筒問題では 「変数の誤用説」 が成り立つが、 「封筒を開けてから交換型」 では成り立たないことに気付いた人が感じるパラドックスです。「封筒を開ける前に交換型」 と 「封筒を開けてから交換型」 で異なる計算式が必要であることを説明して解決しようとします。
このような人たちが唱えがちなおまじないはこちらです。
「封筒を開ける前後で異なるパラドックスを感じる人のパラドックス」 を解消するためのおまじない
モンティ・ホール問題の研究で有名なある心理学者が 2008 年に書いた論文では、「封筒を開ける前に交換型」 の二封筒問題に対して 「変数誤用説」 を強く主張しつつ、 「封筒を開けてから交換型」 の二封筒問題では条件付き期待値の概念を適用してもよいといった風の論を展開していました。 どちらも条件付期待値で考える考え方はその心理学者の想像を超えているようです。変数が平均値のつもりで書かれていると考える人たちの感じるパラドックス
ごくまれに、次のように考える人たちがいます。- 期待値計算式の右辺の
(1/2)A/2 + (1/2)2A の A は変数のように見えて実は平均値のつもりだったのだ。 - A/2 は選んだ封筒が高額側だったときの金額の平均の半分、2A は選んだ封筒が少額側だったときの金額の平均の倍を意味していたのだ。
- 選んだ封筒が高額側だったときの金額の平均と選んだ封筒が少額側だったときの金額の平均の違いを忘れたからパラドックスに陥るのだ。
「変数が平均値のつもりで書かれていると考える人たちの感じるパラドックス」 を解消するためのおまじない
期待値計算式の右辺のそんなおまじないを Wikipedia(英語版) の "Two envelopes problem" の記事(21:39, 23 November 2014 の版)の "Simple resolutions" の項に見ることができます。
期待値計算式は次のように書くべきである。
A を選んだ封筒の金額を表す確率変数、 B をもう一方の封筒の金額を表す確率変数とした場合、
E(B) =
E(B|A<B) P(A<B) + E(B|A>B) P(A>B) =
E(2A|A<B) (1/2) + E((1/2)A|A>B) (1/2) =
E(A|A<B) + (1/4)E(A|A>B).
誤った期待値計算式は次の二つのミスによる。
A を選んだ封筒の金額を表す確率変数、 B をもう一方の封筒の金額を表す確率変数とした場合、
誤った期待値計算式は次の二つのミスによる。
- A の期待値(平均値)を考えていたことを忘れた.
A<B と A>B という二つの異なる条件での A の期待値(平均値)が異なることを忘れた
私には、こんな都合のよい心理現象が現実の人の頭の中で起こるとは、まったく思えません。
一組の金額ペアだけで、E(B) を考えた場合、このおまじないは 「変数誤用説」 とぴったり一致するので、 このおまじないの正体は 「変数誤用説」 を出発点として 「正しい期待値計算式」 を考えていたときにひねり出されたこじつけでしょう。
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自己流の期待値計算をしたりして、交換しても有利なわけがないと、そればかり念じるパラドックス
二つの封筒問題のパラドックス期待値計算式は
e = (1/2) (x/2) + (1/2) 2x = 1.25x
であるが、そうすると常に封筒を交換した方がよくなってしまう。 どこがおかしいのか?
であるが、そうすると常に封筒を交換した方がよくなってしまう。 どこがおかしいのか?
に対して、全体をまるごと疑う人たちの感じるパラドックスです。 次のようなパラドックスとして · · ·
数学的に期待値を計算すると常に封筒を交換した方がよくなると言う人がいるらしいが、そんなことはありえない。 交換してもよくならないことを自分なりに示せないだろうか?
このパラドックスは次のような幾つかの種類があります。
- 期待値が一致するような新しい計算式を導こうとする人が感じるパラドックス
- 期待値が一致するはずだという信念が一人歩きした人が感じるパラドックス
- 選んだ封筒の金額が分かっても交換が有利かどうかの情報になってほしくない人の感じるパラドックス
- 期待値計算式から目をそむけたい人の感じるパラドックス
- どうして他の人たちが確率や期待値を考えるのか理解できない人の感じるパラドックス
期待値が一致するような新しい計算式を導こうとする人が感じるパラドックス
もともとの単純な期待値計算式から目をそらして、交換後の期待値が現状の金額と一致するような期待値計算式を見つけ出そうとします。このような人たちが唱えがちなおまじないはこちらです。
「期待値が一致するような新しい計算式を導こうとする人が感じるパラドックス」 を解消しようとするおまじない
–––たまたま都合のよい期待値計算式を見つけたパターン–––
たとえ封筒を開けた後でも、封筒を交換してもしなくても有利さに変わりないことを示すことのできる都合のよい数式 (数学的には誤り) があります。
前述の「個々の金額について交換利得の期待値が正でも全体を均せば互角だとするおまじない」は、封筒を開けた後と開ける前で状況が違うと主張しているのに対し、こちらの方は封筒を開けようが開けまいが二つの封筒は互角だと錯覚しています。
以下に上げるのはこうした数式を偶然見つけた人の実例です。
例1
「封筒を開けてから交換型」の二封筒問題を考える。
金額の分布が連続で上限なしとする。
小額側金額の微小変位が高額側の半分となる。
小額側の確率密度が高額側の確率密度の倍になる。
封筒の中の金額xについて次のようになる。
他方が小額側である確率=2/3 (注※)
他方が高額側である確率=1/3 (注※)
これを用いて封筒交換後の期待値を計算するとxに一致する。
よって封筒を交換してもしなくても変わらない。
注※ 2015/08/30 にこの実例を読み返して訂正しました。
金額の分布が連続で上限なしとする。
小額側金額の微小変位が高額側の半分となる。
小額側の確率密度が高額側の確率密度の倍になる。
封筒の中の金額xについて次のようになる。
他方が小額側である確率=2/3 (注※)
他方が高額側である確率=1/3 (注※)
これを用いて封筒交換後の期待値を計算するとxに一致する。
よって封筒を交換してもしなくても変わらない。
注※ 2015/08/30 にこの実例を読み返して訂正しました。
(2015/08/30 に下記を訂正)
このおまじないは二つの計算ミスの賜物らしいということが次のようにしてわかります。
本来の期待値計算式
小額側の金額が高額側の金額の半分であることを忘れると
小額側と高額側を取り違えると
例2
「封筒を開けてから交換型」の二封筒問題を考える。
少額側金額の確率分布は一様分布である。(高額側もそうなる)
少額側金額の上限をBとする。
封筒の中に金額 x が入っていた場合を考える。
残りの封筒の金額の期待値は次の式で得られる。
P(x ≤ B)( (1/2)2x + (1/2)(x/2) ) ※1
+ P(x > B) (x/2)
= (2/3)( (1/2)2x + (1/2)(x/2) )
+ (1/3) (x/2) ※2
= x
よって交換してもしなくても期待値は変わらない。
少額側金額の確率分布は一様分布である。(高額側もそうなる)
少額側金額の上限をBとする。
封筒の中に金額 x が入っていた場合を考える。
残りの封筒の金額の期待値は次の式で得られる。
P(x ≤ B)( (1/2)2x + (1/2)(x/2) ) ※1
+ P(x > B) (x/2)
= (2/3)( (1/2)2x + (1/2)(x/2) )
+ (1/3) (x/2) ※2
= x
よって交換してもしなくても期待値は変わらない。
この式には次のような誤りがあります。
- ※1では、x が B以下のときに、交換して倍になる確率と半分になる確率を等しく見ています。 正しくは半分になる確率が倍になる確率の半分です。
- ※2では、P(x ≤ B) や P(x ≤ B) を定数にしてしまっています。
「期待値が一致するような新しい計算式を導こうとする人が感じるパラドックス」 を解消しようとするおまじない
–––「期待値の概念を変えて解決しようとするパターン–––
Wikipedia(英語版) の "Two envelopes problem" の記事の 12:20, 28 May 2014 の版に奇妙な期待値計算式が載ったので、 その箇所を要約すると次のようになります。
封筒を開けたら 100 ユーロ入っていた場合に封筒を交換すると、
確率 1/2 で 100 ユーロ得し、確率 1/2 で 50 ユーロ損するから、
得した倍率の期待値を E とすると
E = (1/2) (100/150) + (1/2)(-50/75) = 0
となるので、交換してもしなくても同じである。
注:分母は次のような意味です。
150 = (100 + 200) / 2 つまり高額ペアの金額の平均
75 = (50 + 100) / 2 つまり少額側ペアの金額の平均
得した倍率の期待値を E とすると
となるので、交換してもしなくても同じである。
注:分母は次のような意味です。
この計算式は 「交換で得た金額と最初に得た金額の平均に対する交換で得た金額の倍率」 の期待値を計算するという極めて珍奇な計算式で、 次のような不適切さを持っています。
- 倍率の元になる金額が項によって 150 と 75 のように異なっているので肝心の 「金額の期待値」 との関連がなくなっている。
- 確率の項が 1/2 のように定数になっているので、 条件付期待値を論じている "Alternative interpretation" の項に投稿するのは相応しくない。 (← 2014/11/05 に訂正)
実は手品だった?
このおまじないは実は手品なのかも知れません。という計算式から
期待値とは無関係な関係式を加工して期待値の計算式っぽく見せるという手品だったのです。
ちなみに、 Wikipedia(英語版) の "Two envelopes problem" の 01:50, 8 September 2014 の版で、上記の期待値計算式は削除されました。
その後で勃発した 「エディット戦争」 についてはこちらをご覧ください。
他のおまじないとの類同性
この計算式は期待倍率形式なので期待利得形式に書き換えるとこうなります。 ついでに、100 を x で置き換えます。これを書き換えると
通常の期待値計算式と比較してみます。
通常の場合
E(交換で得る利益) = (1/2) x - (1/2) (x/2) = 0.25 × x
上記の計算式の場合
E(交換で得る利益) = (1/2) x (1/3) - (1/2) (x/2) (2/3) = 0 × x
上記の計算式の場合
つまり、上記の計算式では、交換利得の期待値がゼロになるように、 封筒を交換して倍増したときの金額に関する効用関数と、封筒を交換して半減したときの金額に関する効用関数を調整しているに等しいことがわかります。 ( ← 2014/10/18 に訂正)
こんどは後述の
例1 積極的に都合のよい計算式を見つけ出して期待値が等しいことを証明したと主張するタイプ
に出てくる期待値計算式と比較してみます。
その計算式の場合
E(もう一方の金額) = (1/3) 2x + (2/3) (x/2)
これを書き換えると
E(交換で得る利益) = (1/3) 2x + (2/3) (x/2) - x
= (1/3) (2x - x) + (2/3) (x/2 - x) · · · (2)
これを書き換えると
= (1/3) (2x - x) + (2/3) (x/2 - x) · · · (2)
上記の (2) と Wikipedia(英語版) に出現した計算式を変形した式 (1) が 係数
交換後の期待値が手持ちの金額と一致することと、手持ちの金額の期待値が手持ちの金額と一致することが同値なので、不思議ではないような気もしますが、 上記の Wikipedia(英語版) に出現した計算式の期待値は非常に珍しい概念なので、そうした考えは誤りです。
エディット戦争の結末?
2014/10/16同じ計算式が "Two envelopes problem"の記事の 10:06, 30 September 2014 の版に再び投稿されてから、 この計算式の投稿者の Cさんと、この記事の創立者(の一人)の Iさんとの間で "Edit Warring" (エディット戦争) が勃発し、2014/10/16 まで続きました。
Hさんが Talk ページでの議論を呼びかけたり、 P さんが C さんをたしなめたりしても C さんによる投稿と I さんによる削除が止まらず、とうとう G さんにより at 11:19, 17 October 2014 の版で記事の編集が protect されるにいたりました。
2014/11/05
私は "Two envelopes problem" の編集者たちがこぞって Talk ページ で C さんをたしなめることにより C さんが諦めて解決すると期待していましたが、間違っていました。 I さんとの見解の違いを持ち出して論点をずらそうとする人が多く、 C さんに味方しているらしい人も何人かいる始末です。
現在は C さんが論拠とする論文を他の編集者に提出せよという 数学者の Gill さんの要求に対して C さんがダンマリを決め込んでいる状況です。
そうこうしているうちに、 C さんの意図が百科事典の趣旨に合わないという理由で C さんの投稿が 2014/10/29 から 1週間禁止され、 そのすきに "Two envelopes problem" の編集が解禁されました。
2014/11/11
C さんが依拠する論文の著者本人が論文の原稿 (ギリシャ語) を Gill さんに送付したり、Gill さんの大学の e-print service に英訳を投稿すると意思表示したりしているので、 もはや C さんの出る幕でないと思われますが、予断は許されません。
2014/11/12
この論文の英訳をやっと読むことができましたが、 予想した通り、執筆者が持っている期待値概念は異次元のものでした。
2014/11/15
Talk ページに C さんが
「私は Tなにがし (C さんが依拠する論文の著者) の論文の紹介を ("Two envelopes problem" の) 記事本文に書き込もうとしている。 誰か反対の人は?」
といった趣旨を書き込んで不穏な空気を醸し出しました。
2014/11/16
とうとう C さんが奇妙な計算式を記事本文に書き込みました。
前回と異なり、 "4 Mathematical interpretations" の下の独立した章として書き込んではいるものの、内容があまりにも奇妙なのでエディット戦争再開が心配です。
2014/11/23
Talk ページでの大議論 (主に Gill さんと H さん) の後、2014/11/23 に 数学者の Gill さんによって "Two envelopes problem" の記事が大改訂されたときに、この計算式は残されました。 Gill さんがこの記事の主要な編集者の一人であること、 Gill さんがこの奇妙な計算式に違和感を感じていないことなどから、この奇妙な計算式が削除されるまでの道は通そうです。
期待値が一致するはずだという信念が一人歩きした人が感じるパラドックス
交換後の期待値が手持ちの金額と同額だという信念が独り歩きしてしまった人の感じるパラドックスです。 手持ちの封筒の金額と交換後の金額の期待値が一致することを大前提にあるべき期待値計算式を逆算したりします。このような人たちが唱えがちなおまじないはこちらです。
「期待値が一致するはずだという信念が一人歩きした人が感じるパラドックス」 を解消しようとするおまじない
–––期待値実現説にもとづくパターン–––
選んだ封筒を開けて判明した金額は期待値が実現したものだという考えに基づいて、残りの封筒の金額の期待値を計算したり、確率を逆算するおまじないです。
例1 積極的に都合のよい計算式を見つけ出して期待値が等しいことを証明したと主張するタイプ
「封筒を開けてから交換型」の二封筒問題を考える。
封筒にx入っていたとする。
金額ペアは (x, x/2) か (x, 2x) のいずれか。
(x, x/2) である確率を y と置く。
(x, 2x) である確率は 1 - y になる。
次の式が成立する。
x = ((x + x/2)/ 2)y + ((x + 2x)/2)(1 - y) (1)
ゆえに y = 2/3 となるので、
交換した期待値
= (x/2)y + 2x(1 - y)
= (x/2)(2/3) + 2x(1/3)
= x
よって封筒を交換してもしなくても変わらない。
封筒にx入っていたとする。
金額ペアは (x, x/2) か (x, 2x) のいずれか。
(x, x/2) である確率を y と置く。
(x, 2x) である確率は 1 - y になる。
次の式が成立する。
ゆえに y = 2/3 となるので、
交換した期待値
= (x/2)y + 2x(1 - y)
= (x/2)(2/3) + 2x(1/3)
= x
よって封筒を交換してもしなくても変わらない。
上記の計算は、結論から (1) を求めて逆に計算して検算していることと変わりません。
(1) に何か意味があるように思えるのは(1) の右辺にそれぞれの金額ペアの平均を表す項があるので、何か意味があるかのように錯覚してしまったのかも知れません。
あるサイトの解説記事やQAサイトの回答文など複数のページでこのおまじないを見かけたので信奉者は少なくありません。
このおまじないについて新たに気付いたこと
最近 (2014/04/28) になって、ネットのQAサイトでこのおまじないが話題になったので、改めて考えなおしたところ、次のようなことに気付きました。
【このおまじないを唱えた人の意識について】
-
x = ((x + x/2)/ 2)y + ((x + 2x)/2)(1 - y) (1)
という式の右辺は、可能な金額ペアを(x, x/2) と (x, 2x) の二つのペアに限定するという条件で、選らんだ封筒の金額の期待値を計算しているように見えます。 - (1) の右辺の
(x + x/2)/2 や(x + 2x)/2 は個々の金額ペアを条件とする条件付き期待値なので、この式全体は排他事象を条件とする条件付き期待値の平均が全体の期待値に一致するという公式に基づいているように見えます。 しかしそれほどの知識がある人がこのようなおまじないを唱えたとしたら、ずいぶんと不思議なことです。
- このおまじないのポイントは
a = x/2、b = x 、c = 2x の三つの金額で、(a, b) と (b, c) という二組の金額ペアを考えている点です。 - そのような場合、
(a, b) の平均と(b, c) の平均にそれぞれ y と1 - y で重み付けした平均が b に一致することと、 a と c にそれぞれ y と1 - y で重み付けした平均が b に一致することは同値です。 - それを上記のおまじないに当てはめると、 (1) の式から 「交換した期待値が x に一致する」 という結論が導かれたように感じるのは勘違いで、実際は単なる言い換えに過ぎないことがわかります。 わざわざ y の値を求める必要もありません。
- y の値を求めないのであれば、それぞれの金額ペアの倍率が 2 倍でなくてよいこともわかります。 ← 2015/01/10 に訂正しました。
例2 期待値が等しいことを前提に確率を逆算するタイプ
封筒を開けても二つの封筒は互角である。
交換した時の期待金額は開けた封筒の金額 n に等しい。
ゆえに、2倍になる確率を p と置くと、
p2n + (1-p)(n/2) = n
p = 1/3, (1-p) = 2/3
交換した時の期待金額は開けた封筒の金額 n に等しい。
ゆえに、2倍になる確率を p と置くと、
p = 1/3, (1-p) = 2/3
このおまじないは、上記の都合のよい計算式を見つけ出して期待値が等しいことを証明したと主張するタイプと数式上の意味は同一ですが、唱える人の心理に違いがあります。しかし、理論の方をパラドックス解消の目的に合わせようとする点は共通でしょう。
選んだ封筒の金額が分かっても交換が有利かどうかの情報になってほしくない人の感じるパラドックス
金額の確率分布が問題文に書かれていないことに目を付けて、「選んだ封筒の金額による事後確率の議論が成立しない」 という議論にすり替えたい人たちにとってのパラドックスです。 期待値計算式自体にパラドックスが潜んでいることから目をそむけて、金額の確率分布が不明であることを、 封筒を交換しても意味がないことの根拠にしたい人が感じるパラドックスだとも言えます。このような人たちが唱えがちなおまじないはこちらです。
「選んだ封筒の金額が分かっても交換が有利かどうかの情報になってほしくない人の感じるパラドックス」 を解決しようとするおまじない
–––状況不変説–––
"Ask Marilyn" に二つの封筒問題が投稿されたときに、 Marilyn vos Savant が回答したときのおまじないを、vos Savant, Marilyn (1996). に読むことができます。
【途中省略】
中にはあなたが見た金額の倍額か半分の額が入っています。このような状況になることは、始めからわかっていたことで、 最初の封筒を開けた時点では、封筒を交換するべきか否かについて新しい情報は何も得られません。
– マリリン・ヴォス・サヴァント著 「気がつかなかった数学の罠 論理思考トレーニング法」 中にはあなたが見た金額の倍額か半分の額が入っています。このような状況になることは、始めからわかっていたことで、 最初の封筒を開けた時点では、封筒を交換するべきか否かについて新しい情報は何も得られません。
これがおまじないかどうか考える前に、次のことを考慮しなければなりません。
- Marilyn vos Savant に出された問題文は 「開けてから交換型」 の二封筒問題であるが、 封筒を交換すべきか否かを問うているのみで、期待値計算式も、パラドックスであることも書かれていない。
- しかし彼女の回答の冒頭で、おもしろいパラドックスであることと、倍額と半額の確率が等しく思えてしまうと書いている。
以上を踏まえて、彼女の回答がおまじないに過ぎないことが次のようにしてわかります。
- 期待値計算式から目をそむけているので、二つの封筒問題の中心テーマからずれてしまっている。
- 封筒の中の金額から情報を得るか得ないかはその人が予想する金額分布によるので、「情報を得ることはできない」 と言うのは言い過ぎである。
この本を読み返して見たら、「金額の倍率が 100万倍で封筒に 1ドル入っていたら交換すべきか否か考えると眠れなくなるに違いない」 と真逆のことが書かれていました。 この問題を彼女はあまり深く考えていなそうです。
「選んだ封筒の金額が分かっても交換が有利かどうかの情報になってほしくない人の感じるパラドックス」 を解決しようとするおまじない
–––マックスミニ戦略説–––
次のような主張であれば数学者も納得します。
開けた封筒の金額が分かっても、その金額を含む金額ペアの確率分布が分からないのだから、期待値計算のしようがない。
しかし次のような主張が伴った場合はおまじないになってしまいます。
このような場合には、倍になることを当て込んで交換するよりも、半減を防ぐために交換を避けるマックスミニ戦略をとった方が賢明である。
結局、封筒を開けて金額が分かっても交換すべきか否かの情報にはならない。
結局、封筒を開けて金額が分かっても交換すべきか否かの情報にはならない。
こういうことを述べる人は次のような説を読んで頭を冷やすべきでしょう。
交換して半減しても残った金額がまるまる儲けになるので、敗者にはなりえない。
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期待値から目をそむけたりして、交換しても有利なわけがないと、そればかり念じるパラドックス
期待値計算式から目をそむけたい人の感じるパラドックス
あるQAサイトに出された質問に対する回答で、おどろくべきものがありました。封筒を交換しても意味がないことを説明している回答文の中に、期待値計算式に関する記述が一つもなかったのです。 パラドックスの主役である期待値計算式が完全に忘れられてしまっています。別のある人は、ネットの掲示板での議論の中で、確率分布が不明なときに期待値を計算したりするからおかしくなるのだと主張していました。
このような人たちが唱えがちなおまじないはこちらです。
「期待値計算式から目をそむけたい人の感じるパラドックス」 を解決しようとするおまじない
–––期待値黙殺による封筒互角性回復–––
ネットのQAサイトのある回答者が次のようにいくつものおまじないを繰り出して、封筒を交換しなくてもよいことを納得しようとしていました。
- 「封筒を開けてから交換型」 の問題を強引に 「封筒を開ける前に交換型」 にすり替えて単一の金額ペアに思考を制限し、そうすることで期待値計算式には全く触れずに、二つの封筒の同等性を導いている。
- 「封筒を開けてから交換型」 の場合も考えているが、その場合には、もう一つの封筒の金額が決まっているので確率の問題ではないとして、期待値計算式から逃げようとする。 (「封筒を開ける前に交換型」 でも金額が決まっていることには目をそむけている)
「期待値計算式から目をそむけたい人の感じるパラドックス」 を解決しようとするおまじない
–––期待値封殺によるパラドックス抹消–––
ネットの掲示板での議論の中で、確率分布が不明なときに期待値を計算したりするからおかしくなるのだと主張している人がいました。 他の人による条件付確率や条件付期待値の説明がヒントになって思いついたのでしょう。
どうして他の人たちが確率や期待値を考えるのか理解できない人の感じるパラドックス
封筒が配られた時点ですでにそれぞれの封筒の中の金額が定まっているのに、どうして他の人たちは確率や期待値を気にするのか不思議に感ずるパラドックスです。このパラドックスを持つ人は多くはありませんが、滅多に見ないという程少なくもありません。
このような人たちが唱えがちなおまじないはこちらです。
「どうして他の人たちが確率や期待値を考えるのか理解できない人の感じるパラドックス」 を解決しようとするおまじない>
「事象」と「現象」の区別がついていないため、すでに発生した現象に関連する事象の確率、すなわち事後確率が理解できない人がいます。このような人たちが二つの封筒問題に対して唱えるおまじないの例を上げます。
選んだ封筒の金額がXなら、残りの封筒の金額がX/2である確率 は 1 か 0 、
残りの封筒の金額が2Xである確率も 1 か 0
選んだ封筒の金額がXなら、残りの封筒の金額の期待値は X/2 か 2X のどちらか
「どうして他の人たちが確率や期待値を考えるのか理解できない人の感じるパラドックス」 を解決するおまじないと 「二封筒問題のおまじないの王様」 の合体版もあります。
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パラドックスを起こさない考え方を見つける問題だと勘違いした人にとってのパラドックス
2015/06/07 にこのパラドックス?を追加しました。パラドックスを起こさない考え方を見つける問題だと勘違いした人にとってのパラドックス
パラドックスを起こさない考え方を見つけるとパラドックスが解決すると勘違いする人たちがいます。そういう人たちは、一組の金額ペアだけ考慮して期待値計算式を組めば交換したときとしないときの期待値が一致することを導いてパラドックスが解決したと勘違いします。
こういう勘違いをした人の説は 「二組金額ペア原因説」 と区別が困難です。
二組の金額ペアを考えることがパラドックスの原因だと主張しているか否かの違いしかないからです。
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番外 : 通常とは異なる視点でのパラドックス
数学者が見つけたパラドキシカル分布に関するパラドックス
数学者たちにとって次のことは自明なので、二つの封筒問題の本来のパラドックスには興味を感じません。 そのかわり、パラドキシカル分布に代表されるような、金額の平均値が無限大の場合の期待値の問題に関心を寄せています。常に封筒を交換する方が有利な確率分布を探した数学者たち
次のような数学者が パラドキシカル分布 を見つけました。Nalebuff, Barry.(1989).
Linzer.E.(1994).
Broome,John.(1995).
パラドキシカル分布の謎を解き明かそうとする数学者や哲学者たち
パラドキシカル分布 には次のような謎があります。- 「封筒を開けたら常に交換が有利なこと」 と 「開ける前の二つの封筒が互角であること」 の両立を 「数学的」 に説明できるか
- 平均値が無限大の場合に大数の法則を使って開ける前の二つの封筒の互角性を証明できるか
Norton, J.D. 1998.
Clark, Michael. & Shackel, Nicholas. (2000). この人たちは哲学者らしいです
Chalmers, David J. (2002). この人の職業は哲学者ですがこの論文では数学者でしょう
Dietrich, Franz and List, Christian (2005).
神様の視点で考えた人が感じるパラドックス
「封筒を開けてから交換型」 の二封筒問題のパラドックスは、二つの封筒を二人で分け合って、相手に見えないように中身の金額を見た場合、二人ともが封筒を交換した方が有利だということを不思議に感じてしまう錯覚現象です。「封筒を開けてから交換型」 の二封筒問題特有のパラドックスであり、無意識に 「神の視点」 に立って二つの封筒の金額を同時に限定してしまったために起きる錯覚現象です。
同じような錯覚現象がモンティ・ホール問題にもありますが、それらは 「神の視点」 に立つべきときに立たず、二つの扉の中身を同時に限定しなかったために起きる錯覚現象です。 ( 扉空間の魔力 )
交換した方が有利な場合があることを納得したい人の感じるパラドックス
もともとの期待値計算式の怪しさや、封筒を交換することが常に有利であることが引き起こすパラドックスは忘れてしまい、交換した方が有利な場合があることを理解しただけで安心する人もいます。 期待値計算式に対する自分の理解が正しかったことを確認して安心したのでしょう。交換が有利であることを信じられないことがパラドックスの原因だと勘違いしている人にとってのパラドックス
期待値計算式が導いた結果を信じられないことがパラドックスの原因だと考える人たちを、たまに見かけます。自慢げに期待対の考え方を説明したり、期待値が信じられなくても信じた方が有利だと説いたりします。
確率の計算結果が信じられないためにパラドックスが発生するモンティ・ホール問題と同類だと勘違いしているのでしょう。
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モンティ・ホール問題のおまじないとの違い
上で見たように、二封筒問題のおまじないは、錯覚の存在に気づかないまま、錯覚によって導かれた結果と同一の結果を導く考え方や数式をひねり出すことに精を出しています。一方、モンティ・ホール問題のおまじないは、最初の錯覚を認めた上で、数学によって導いた結果と同一の結果を導く新たな錯覚をひねり出すことに精を出しています。(参考 モンティ・ホール問題のおまじない)
モンティ・ホール問題の「おまじない」はいずれもそれなりの説得力があるものばかりです。 ( 参考 モンティ・ホール問題のおまじない)
一方、二封筒問題の説明には上で見たように読んですぐに首をひねりたくなるものも少なくありません。
この違いにの要因として次のようなものが考えられると思っています。
- モンティ・ホール問題では残った二つの扉が当たりである確率が五分五分だという考えが錯覚であることがよく知られている。
一方、二封筒問題では、封筒の金額 を特定した場合にその金額が交換で倍になったり半減したりする確率が五分五分だという考えが錯覚であることがほとんど知られていない。 - 非条件付確率の問題設定での説明が主であるが、モンティ・ホール問題の数学的な説明は一般によく知られている。
一方、二封筒問題の数学的な説明はYahoo! 知恵袋などで稀に見かける程度で一般には知られていない。 注※ - 「パラドックス」としての不思議さが、数学の得意でない人たちにまで解明したいという気持ちを引き出してしまう。
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参考文献
-
Broome,John.(1995).
The Two-envelope Paradox, Analysis 55(1): 6–11.
-
Chalmers, David J. (2002).
The St. Petersburg Two-Envelope Paradox. Analysis 62 (2): 155–157.
-
Clark, Michael. & Shackel, Nicholas. (2000).
The Two Envelope Paradox, Mind Magazine (Vol 109.435.July 2000)
-
Dietrich, Franz and List, Christian (2005).
The two-envelope paradox: an axiomatic approach.
Mind, 114 (454). pp. 239-248.
-
Linzer.E.(1994).
The Two Envelope Paradox, American Mathematical Monthly 101. pp.417–19.
-
Nalebuff, Barry.(1989).
The other person'S envelope is always greener. Jounal of Economic Perspectives 3 (1989) 171-181.
-
Norton, J.D. 1998.
When the sum of our expectations fails us: The exchange paradox.
Pacific Philosophical Quarterly 79:34–58.
-
vos Savant, Marilyn (1996).
The Power of Logical Thinking. St. Martin's Press. ISBN 0-312-15627-8.
マリリン・ヴォス・サヴァント著 「気がつかなかった数学の罠 論理思考トレーニング法」東方雅美訳 中央経済社刊 (2002)
用語解説
-
同確率条件
私の造語です。
選んだ封筒の金額 x に対して、
選ばなかった封筒の金額が x/2 である確率も、2x である確率もともに ½ であることが、
金額 x によらず常に成立すことを表します。
-
パラドキシカル分布
選んだ封筒の金額を条件とする条件付き期待交換利得が常にゼロより大であるような金額分布を言います。
このような場合、封筒を開ける前の二つの封筒が互角であることと矛盾しないのか? と不思議になります。
-
確率の錯覚
開ける前には封筒を交換して倍額になる確率が 1/2 だから封筒を開けて金額がわかっても交換して倍額になる確率が 1/2 だと感じる錯覚現象です。
-
期待値実現説
選んだ封筒に実現した金額は、選ばなかった封筒の金額の期待値に等しいという説です。
期待値の錯覚に陥った人が好む論理で、選んだ封筒の金額を特定しながら考える点が特徴です。
これを前提に確率を逆算するタイプと、都合のよい計算式を見つけ出して期待値が等しいことを証明したと主張するタイプがあります。
-
単一金額ペアへの固執
私の造語です。
手持ちの封筒の金額の倍と半分を考えるとき、全部で3種類の金額を考えるのでなく、
交換すると倍になる前の金額と交換すると半分になる前の金額の2種類しか考えられない心理現象です。
-
二組金額ペア原因説
期待値計算式に x/2 と 2x のような別個の金額ペア(この場合は (x/2, x) と (x, 2x) に属する金額の項があることがパラドックスの原因だとする説です。
期待値計算式に a と 2a のような単一の金額ペア(この場合は (a, 2a) ) に属する金額だけで構成されていればパラドックスが起きないことに気づいた人が陥る勘違いです。
-
変数誤用説
私の造語です。
「封筒を交換した後の金額の期待値を計算する½ × (x/2) + ½ × 2x という式の左の x は交換して半減するときの値を表し、右の x は交換して倍増するときの値を表していて、同じ変数が別の値を表しているから、おかしな計算結果になるのだ」
という説を指します。
二封筒問題のおまじないの王様 – 変数誤用説 – の中核部分に当たります。
-
変数の誤用
二つの封筒問題で封筒を交換した後の金額の期待値を計算するときに起こす、次のような錯覚現象です。
金額ペア(A, 2A) の A が確率1/2 で自分の封筒に入っていて、交換すると倍になる。2A も確率1/2 で自分の封筒に入っていて交換すると半分になる。 倍になったり半分になったりする前の金額をXとすると、交換した後の期待値は(1/2) 2X + (1/2) (X/2) だ。
このように、A や2A が無意識に一つの変数 X に混ざり合ってしまう現象です。
こういう現象が実際に人の頭の中で起きているのだ、という説が 二封筒問題のおまじないの王様 – 変数誤用説 – の中核をなしています。
-
スマリヤンの錯覚
私の造語です。
封筒を交換したらどうなるかを考えるときに、選んだ封筒の金額を条件として考えるやり方と、二つの封筒の金額の組み合わせを条件として考えるやり方が、同じ問題を考えているという錯覚です。
この錯覚に罹った人は、二封筒問題のおまじないの王様を唱えたり、スマリヤンの二つの文のパラドックスに罹ったりします。
-
非条件付確率の問題設定
ホストが「いずれか」のハズレ扉を開けることは最初から分っていることとして
(相場用語なら「織り込み済み」だとして)
「挑戦者が選んだ」扉、あるいは「残りの」扉が当たりである確率を計算する問題設定である。
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